「お酒はどれくらいから体に悪いのか」という問いに、単一の答えはありません。厚生労働省が2024年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」は、疾患ごとに、リスクが上がり始める純アルコール量が違うという形で整理しています。高血圧のように「0gを超えるとリスクが上がる」とされる疾患もあれば、肝がんの男性のように「週450g(1日60g)から」とされる疾患もあります。この記事は、その疾患別の数値を性別ごとに一枚の表にまとめ、各行がどの資料に基づくのかを明示したものです。表の数字だけでは誤読しやすい点も、あわせて注記しています。

  • 厚生労働省2024年ガイドラインは、高血圧(男女)・男性の食道がん・男性の胃がん・女性の出血性脳卒中について「0gを超えるとリスクが上昇する」としています
  • 一方で大腸がん・肝がんのように、一定量(週150g前後)を超えたところからリスクが上がるとされる疾患もあり、すべての疾患が「一滴から」ではありません
  • 同ガイドラインは生活習慣病のリスクを高める量の目安として、1日あたり純アルコール男性40g以上・女性20g以上を挙げています
  • 痛風・尿酸値については、アルコールがプリン体の量にかかわらず尿酸値を上げる経路があるため、「蒸留酒なら安全」とは言えません
  • 日本人の約41%はアルコール分解酵素の働きが弱い体質とされ、表の数値をそのまま自分に当てはめられるとは限りません

疾患別リスク早見表 — 純アルコール量で見る

以下は厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年)表1からの抜粋です。数値はその疾患の発症リスクが上昇し始めるとされる純アルコール量を示します。

疾患男性女性
高血圧0gを超えるとリスク上昇0gを超えるとリスク上昇
食道がん0gを超えるとリスク上昇データなし
胃がん0gを超えるとリスク上昇週150g(1日20g)から
脳卒中(出血性)週150g(1日20g)から0gを超えるとリスク上昇
大腸がん週150g(1日20g)から週150g(1日20g)から
肝がん週450g(1日60g)から週150g(1日20g)から

出典: 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日公表)表1より抜粋

この表から読み取れることは2つあります。ひとつは、「0gを超えると」に該当する疾患が男女で異なること。男性は食道がんと胃がん、女性は出血性脳卒中が該当します。もうひとつは、同じ疾患でも性別で数値が違うこと。肝がんは男性が週450gに対し女性は週150gと、3倍の開きがあります。

なお同ガイドラインは、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の目安として、1日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上・女性20g以上を挙げています。これは健康施策における重点目標の基準であり、個々人の許容量を示したものではないと注記されています。

純アルコール量の換算

表の「g」は純アルコール量です。おおよその換算は以下のとおりです。

酒類純アルコール量の目安
ビール(5%)500ml約20g
日本酒(15%)1合(180ml)約22g
ワイン(12%)グラス2杯(200ml)約19g
焼酎(25%)100ml約20g
ウイスキー(43%)ダブル(60ml)約20g

計算式は「量(ml) × アルコール度数(%) ÷ 100 × 0.8」です。自分の飲み方での試算は飲酒コストシミュレーターでも行えます。

表に載っていない疾患 — 糖尿病・痛風・乳がん

厚労省の表に含まれない疾患についても、別の一次資料から整理できます。ただし表と同じ形式(何gから)では示せないものが多い点に注意が必要です。

糖尿病・血糖値

飲酒は血糖値を一方向にだけ動かすわけではありません。糖質・カロリーによる上昇と、アルコール代謝が肝臓の糖新生を抑えることによる低下が同時に起こりえます(厚生労働省 e-ヘルスネット)。このため「何gから危険」という形では表せません。

見落とされやすいのは低血糖のほうです。空腹時の飲酒や飲酒後数時間〜翌朝は低血糖が起きやすく、血糖降下薬(インスリン・スルホニル尿素薬など)を使っている場合は特に注意が必要とされています。また「糖質ゼロ」「糖類ゼロ」は消費者庁の表示基準を満たすという意味であり、アルコール自体のエネルギー(1gあたり約7kcal)や血糖への影響がゼロになるわけではありません。

なお、習慣飲酒と2型糖尿病発症リスクの関連は観察研究で報告されていますが、遺伝子を用いたメンデルランダム化研究では、飲酒量が2型糖尿病リスクに因果的に影響するという明確な証拠は得られていません。詳細はお酒と血糖値・糖尿病で扱っています。

痛風・尿酸値

アルコールは含まれるプリン体の量にかかわらず、①乳酸による尿酸排泄の抑制、②ATP分解による尿酸産生の増加という2つの経路で尿酸値を上げます(厚生労働省 e-ヘルスネット、森脇 2019)。このため「焼酎やウイスキーなら痛風にならない」とは言えません。

日本痛風・尿酸核酸学会のガイドラインは、尿酸値への影響を抑える飲酒量の目安として、日本酒1合・ビール350〜500ml・ウイスキー60ml程度(純アルコール約20g)を示しています。

「プリン体ゼロ・オフ」表示は100mlあたり0.5mg未満という飲料業界の自主基準であり、法律上の栄養成分表示基準の対象ではありません。多くはアルコールを含む発泡酒・新ジャンル製品である点も、表示だけでは分かりにくいところです。詳細は痛風・尿酸値とお酒で扱っています。

乳がん

53件の疫学研究を統合した2002年の解析では、1日10gのアルコール摂取あたり乳がんの相対リスクが7.1%上昇すると報告されています(Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer, 2002)。ただしこれは相対リスクであり、実際に診断される人数(絶対リスク)への影響は、もともとの罹患率をふまえて考える必要があります。

日本人女性15万8千人超を対象にした8コホートのプール解析では、閉経前の飲酒と乳がんに関連が確認された一方、閉経後では有意な関連は確認されていません(Iwase, Matsuo, Sawada, Inoue et al., 2021)。詳細は女性の少量飲酒と乳がんリスクで扱っています。

血圧・不整脈

飲酒直後は血圧が一時的に下がりますが、習慣的に一定量以上を飲み続けると血圧を上げる方向に働きます(日本高血圧学会)。多量飲酒は不整脈(心房細動)とも関連があり、休日の多量飲酒後に起こる不整脈を指す「ホリデー心臓症候群」という概念も知られています。

減酒による血圧低下を報告したメタ分析もありますが、降圧薬を服用中の場合は自己判断せず医師に相談してください。詳細はお酒と血圧・不整脈で扱っています。

表を自分に当てはめる前に — 3つの注意点

1. 体質という変数がある

厚労省のガイドラインは、体質による個人差を強調しています。東アジアにはアルコール分解酵素の働きが弱く、飲酒すると顔が赤くなる「フラッシング反応」を起こす人が一定数おり、日本ではその割合が41%程度いると言われていると記載されています。

見過ごせないのはその先です。ガイドラインは、フラッシング反応を起こす体質の人が飲酒を続けるうちに不快にならずに飲めるようになった場合でも、口腔内のがんや食道がんなどのリスクが非常に高くなるというデータがあるとして注意を促しています。「顔が赤くならなくなった」は、体質が変わったことを意味しません。自分の体質と選択を整理する視点はお酒との4つの向き合い方で扱っています。

2. 「リスクが上がる」は「必ず発症する」ではない

表の数値は集団を対象とした疫学研究に基づくもので、個人が必ずその疾患になるという意味ではありません。逆に、表の数値を下回っていれば安全が保証されるという意味でもありません。

3. 国際機関はより踏み込んだ表現をしている

WHOヨーロッパ地域事務局は2023年、「アルコール消費に関しては、健康に影響を与えない安全な量というものは存在しない」との声明を発表しました。国際がん研究機関(IARC)はアルコール飲料を、証拠の確実性が最も高いグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しています。

IARCは1988年にアルコール飲料を口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓のがんと因果関係ありと評価し、2010年に大腸・女性の乳がんも加えました。ただし部位によって関連の強さや証拠の蓄積度は異なり、一律には扱えません。

「安全な量は存在しない」とするWHO欧州の声明と、目安の純アルコール量を示す厚労省ガイドラインは、目的の異なる文書です。前者は集団全体のリスク最小化を語り、後者は現実の飲酒行動に対する施策上の基準を示しています。どちらかが誤りというわけではありません。

減らすとリスクは下がるのか

減酒・断酒によってリスクが下がるという証拠は、部位によって強さが違います。口腔・食道は比較的確かな一方、大腸・肝臓・乳房についてはまだ限定的とされています。

肝臓については比較的短い時間軸で数値が動きます。γ-GTPの半減期はおよそ2週間とされ、お酒を控えると2〜3週間ほどで数値が半分程度まで下がることが多いとされています(個人差あり)。数値の読み方はγ-GTPの見方、肝臓の状態については脂肪肝はどこまで戻るのかで扱っています。

よくある質問

結局、1日何gまでなら大丈夫ですか?

疾患によって答えが違うため、単一の数値はありません。厚労省ガイドラインが生活習慣病リスクを高める量として挙げているのは1日あたり男性40g以上・女性20g以上ですが、これは施策上の基準であり、個々人の許容量ではないと同ガイドライン自身が注記しています。高血圧のように「0gを超えると」とされる疾患もあります。

表の数値を下回っていれば安全ですか?

安全が保証されるという意味ではありません。表は集団を対象とした研究に基づく目安であり、体質・年齢・服薬状況・他の生活習慣によって個人のリスクは変わります。

蒸留酒ならプリン体がないので痛風は大丈夫ですか?

言えません。アルコールは含まれるプリン体の量にかかわらず、乳酸による尿酸排泄の抑制とATP分解による尿酸産生の増加という2つの経路で尿酸値を上げるためです。

「少量なら健康にいい」というJカーブ仮説はどうなりましたか?

近年、比較対象とされる「非飲酒者」グループの分類に偏りがあるという指摘が積み重なっており、遺伝子を使った検証研究でも支持されていません。「適量なら健康にいい」という通説を積極的に支持する状況には、現時点の一次資料はなっていません。この通説の出自については『酒は百薬の長』は本当かで扱っています。

健康診断の数値が引っかかりました。まず何をすればいいですか?

数値の意味を確認したうえで、必要なら医療機関に相談してください。飲酒量のコントロールが難しいと感じる場合の相談先はお酒の相談先マップ、減酒外来については減酒外来とはで扱っています。

まとめ

参考文献

免責事項

本記事は公開されている一次資料に基づき、2026年7月時点で確認できた内容を整理したものです。表の数値は集団を対象とした疫学研究に基づく目安であり、個人の許容量を示すものではありません。飲酒量のコントロールが難しいと感じる場合や、心身への影響が気になる場合は、保健所・精神保健福祉センター・依存症専門医療機関・減酒外来などの専門機関にご相談ください。本記事は医療アドバイスではありません。