乾杯という所作が意味しているのは、同じ瞬間に杯を掲げ、目線を合わせることであり、グラスの中身がアルコールかどうかではありません。結婚式や披露宴は、体質・妊娠・服薬・運転・宗教上の理由など、お酒を飲まない事情がある人にとって、ふだんの飲み会以上に「その場だけは合わせなければ」という空気が強くなりがちな場面です。しかし、乾杯もお酌も、中身をソフトドリンクに変えることで問題なく成立します。ここでは、招待状の返信で何をどう伝えるか、当日の乾杯・お酌・挨拶回りをどう乗り切るか、そして迎える側(新郎新婦・幹事)が事前にできる準備までを、場面ごとに整理します。
この記事の要点
- 乾杯は杯を掲げる所作であり、中身がソフトドリンクでも成立します
- 招待状の返信では、飲めない理由を詳しく説明する必要はありません。事情を一言添えれば当日の準備に役立ちます
- お酌は「受けたら一口飲む」のが一般的な作法とされますが、口をつける所作やソフトドリンクへの切り替えで対応できます
- 迎える側は、妊娠中・運転・体質・宗教上の理由など、飲まない事情がある人がいる前提で乾杯酒とドリンクメニューを用意できます
- 車で二次会に向かう場合や翌日に予定がある場合は、酒気帯びの基準を踏まえて判断します
乾杯はソフトドリンクでも成立する
乾杯の作法として求められているのは、グラスを軽く掲げて目線を合わせ、発声に合わせて口をつけることであって、中身の酒類そのものではありません。見た目を揃えたい場合は、ノンアルコールのスパークリングワインをシャンパングラスに注ぐと、周囲から浮きにくくなります。ジンジャーエールも同様に、シャンパングラスに入れれば色合いが近く、乾杯の場面になじみます。炭酸水にレモンを添えるだけでも、グラスの形さえ合わせれば十分に「それらしく」見えます。
招待状の返信で何を伝えておくか
招待状の返信ハガキやアレルギー欄・備考欄に、当日お酒を控えている事情を一言添えておくと、幹事や式場が事前にノンアルコールの乾杯酒やドリンクメニューを用意しやすくなります。結婚式のマナーを扱うメディアでは「アレルギーはありませんが 妊娠中のためアルコールを控えています」のように、理由と対象を簡潔に書く例が紹介されています。こうした欄で対象とされているのは、好き嫌いではなく、アレルギーや妊娠、宗教上の理由など「やむを得ない事情」で、体質や運転による飲酒不可もここに含めて差し支えありません。
とはいえ、これは式場側が飲み物を準備するための実務的な連絡であって、当日その場で聞かれるたびに事情を詳しく説明し直す義務ではありません。理由を詳しく話すほど、かえって話が広がりやすくなるのは会食全般に共通する傾向で、招待状の段階で一度伝えておけば、当日は「今日はこれで」と一言添える程度で十分です。備考欄がない招待状の場合は、メッセージ欄に一言書き添えたうえで、必要に応じて新郎新婦や幹事に直接伝えておくと確実です。
当日の実務 — 一杯目からドリンクメニューまで
乾杯の号令がかかった瞬間に「どうしよう」と迷うと、周囲に流されて口をつけてしまいやすくなります。着席してドリンクの注文が回ってきた最初のタイミングで、乾杯もソフトドリンクで通す旨を先に伝えておくのが、もっとも迷いが生まれにくい方法です。披露宴中も、ドリンクメニューが手元にあれば遠慮なく確認し、ソフトドリンクを頼んで構いません。
グラスを空けないようにしておくことも、実務上は有効です。お酌は本来、空いたグラスに注ぐのが基本の所作とされているため、グラスに飲み物が残っていれば、次を注がれる場面そのものが減ります。写真撮影で乾杯のグラスを掲げる場面では、ジンジャーエールをシャンパングラスに入れておく、あるいはグラスに軽く口をつける所作だけにとどめる、という対応が実際に行われています。結婚式を経験した新婦を対象にした調査でも、当日「まったく飲まなかった」と回答した人が半数を超えており、飲める人であっても式当日はソフトドリンク中心で過ごす対応が珍しくないことがうかがえます。
お酌をどう受け、どう返すか
お酌の作法としては、グラスやお猪口を受け取ったら一口口をつけてからテーブルに置くのが基本とされています。ただし、これは飲めない・飲まない人にまで無理に飲むことを求めるものではありません。ゲストからのお酌は「なかなか断りにくいもの」だと結婚式マナーの解説でも明記されており、事前の一言と当日の対応をセットで用意しておくと気持ちが楽になります。
グラスに口をつける所作だけにとどめる、注いでもらう際に「ソフトドリンクでお願いします」と伝える、上司や親族には先に感謝を述べてから「今日はこれで」と丁重に辞退する、といった対応が実践されています。「『なんで飲まないの?』への切り返しフレーズ集」で紹介している、理由を詳しく説明せず短く言い切る考え方は、冠婚葬祭の場でも同じように機能します。返杯の習慣がある地域や家では、ソフトドリンクで杯を返しても失礼にはあたらないケースが多いものの、作法は地域や家によって差があるため、迷ったときは事前に確認しておくのが確実です。
迎える側 — 新郎新婦・幹事が事前にできること
結婚式のドリンクは、招待した側が想像している以上にゲストの満足度を左右します。結婚式ゲストを対象にした調査では、当日のドリンクを「重要」と答えた人が85.1%にのぼり、35.6%が「残念なドリンク体験があった」と回答しています。挙げられている「残念」の内容には、乾杯がアルコールのみで妊娠中のゲストへの配慮が足りなかった、披露宴中にドリンクメニューがなく選択肢が分からなかった、といった声が含まれています。
迎える側としては、ウェルカムドリンク・乾杯・披露宴中のそれぞれの場面で、アルコールとソフトドリンクの両方を用意しておくことが基本的な対応になります。妊娠中・授乳中・運転予定のゲストがいる場合は、招待状の返信を通じて把握し、ノンアルコールの乾杯酒を用意しておくと当日の混乱が防げます。妊娠中の飲酒については、量にかかわらず控えることが望ましいとされており、詳しくは「妊娠中の飲酒はなぜ危険なのか」で扱っています。宗教上の理由でアルコールを避けるゲストへの配慮も、アレルギーと並ぶ「やむを得ない事情」として扱われています。対応可否は式場によって異なるため、打ち合わせの段階で直接確認しておくのが確実です。
新郎新婦自身が飲まない場合も成立する
主役である新郎新婦自身が、体質やそのほかの理由でお酒を飲まないというケースも、進行上まったく問題になりません。乾杯だけは杯を手に取って形にし、披露宴中の挨拶回りではソフトドリンクで通す、という対応で十分成立します。ゲストの前で無理に飲む姿を見せる必要はなく、当日は主役自身の体調やペースを優先して差し支えありません。
二次会・帰り道の判断
披露宴のあと、車で二次会や自宅に向かう予定がある場合は、披露宴中の一杯が気持ちの緩みにつながらないよう、あらかじめソフトドリンクで通すと決めておくと安心です。実際にどの程度の飲酒量から酒気帯び・酒酔いの基準にかかるのかは、酒気帯び・酒酔いの基準で具体的に整理しています。翌朝早くに用事がある場合も、前夜の飲み方次第で判断に影響が出ることがあるため、無理をしない選択をしておくと当日を安心して過ごせます。
体質のこと — 飲めないことは意思ではない
お酒が飲めないのは、単なる好みや意志の問題ではなく、アセトアルデヒドを分解する酵素ALDH2の働きが弱いという体質による場合があります。体質的に飲めないにもかかわらず、場の空気に合わせて飲んでしまう状態は「背伸び酒」として整理されており、結婚式のような降りにくい場ほど起きやすい傾向があります。飲める人と飲めない・飲まない人のあいだに優劣をつける必要はなく、それぞれの体質と事情に応じて、その日の一杯を選べば十分です。
場面別・準備しておくこと早見表
| 場面 | よくある展開 | 準備しておくこと | 当日の一言 |
|---|---|---|---|
| 招待状の返信 | 備考欄に何を書けばよいか迷う | 妊娠・体質・運転などの事情を一言添えて返信する | 「お酒は控えております」 |
| 乾杯 | シャンパンやビールしか用意されていないことがある | 幹事や式場に事前に伝え、着席後すぐの注文で一杯目を確保する | 「乾杯はこれで大丈夫です」 |
| お酌 | 上司や親族から立て続けに注がれる | 口をつける所作やソフトドリンクへの切り替えを決めておく | 「ありがとうございます、今日はこれで」 |
| 挨拶回り | 各テーブルで杯を重ねるよう促される | ソフトドリンクで通すと決め、幹事とも共有しておく | 「今日はソフトドリンクで失礼します」 |
| 二次会 | 車の有無や翌日の予定を聞かれないまま流れで勧められる | 車で来ている場合は最初に伝えておく | 「今日は車なので」 |
よくある質問
乾杯だけは一口でも飲んだほうがよいですか
その必要はありません。乾杯の所作として求められているのは杯を掲げて目線を合わせることで、中身がソフトドリンクであっても所作は変わりません。ノンアルコールのスパークリングワインやジンジャーエールを使えば、見た目もほとんど変わらず成立します。
妊娠中であることを周囲に知られたくない場合はどうすればよいですか
理由を明かす必要はなく、「体質のため」「今日は控えています」といった言い方で十分に通せます。招待状の返信欄には具体的な事情を書きつつ、当日周囲から聞かれた際には詳しく説明しなくてもかまいません。
車で二次会に向かう場合、披露宴での乾杯だけなら飲んでもよいですか
量にかかわらず、その後運転する予定がある場合は飲まないほうが安全です。どの程度の飲酒量から酒気帯び・酒酔いの基準にかかるかは、前述の酒気帯び・酒酔いの基準の記事で確認できます。
地域や家によってお酌や返杯の作法が違うと聞きました。どう対応すればよいですか
作法は地域や家、宗派によって異なるため、唯一の正解があるわけではありません。迷ったときは、当日その場で振る舞いを決めるより、事前に幹事や親族に確認しておくと、当日戸惑わずに済みます。
まとめ
結婚式の乾杯もお酌も、所作そのものはそのままに、中身だけをソフトドリンクに変えることで問題なく成立します。招待状の返信では、飲めない理由を詳しく説明する必要はなく、事情を一言添えるだけで当日の準備につながります。当日は着席直後の注文で一杯目を確保し、グラスを空けないようにしておくことが、お酌をかわす実務としても役立ちます。迎える側も、妊娠中・運転・体質・宗教上の理由がある人がいる前提で、乾杯酒とドリンクメニューの両方を用意しておけば、ゲスト・新郎新婦のどちらにとっても心地よい一日になります。
参考文献
- ゼクシィ「【ゲスト208人の本音】結婚式の『残念ドリンク』に気を付けて!」(マクロミル協力調査、2018年、結婚式ゲスト経験者208人対象、https://zexy.net/article/app000101055/)
- ゼクシィ「飲める派・飲めない派のリアルアドバイス付き!式当日のアルコール問題」(ゼクシィ花嫁会・マクロミル調査、2022年9月、過去3年以内に結婚式を挙げた20〜30代女性224人対象、https://zexy.net/article/app002210028/)
- みんなのウェディングニュース「【結婚式招待状】返信ハガキの『アレルギー欄』はどう書く?」(https://www.mwed.jp/articles/13354/)
- 結婚ラジオ/結婚スタイルマガジン「結婚式招待状の返信はがき『アレルギー欄』の書き方&マナー」(https://www.niwaka.com/ksm/radio/wedding/guest-manners/reply/12/)
- 結婚ラジオ/結婚スタイルマガジン「結婚式でゲストにすすめられたお酒は断ってOK?断り方のマナーや飲み過ぎの対策」(https://www.niwaka.com/ksm/radio/wedding/manners/on-the-day/25/)
- マイナビニュース「飲み会の『お酌マナー』って?」(https://news.mynavi.jp/article/20211201-2196159/)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、マナーや作法についての唯一の正解を示すものではありません。地域・家・宗派によって作法は異なるため、迷った際は当事者や式場に確認してください。妊娠中の飲酒については、前述の妊娠中の飲酒に関する記事も参考にしてください。周囲からの飲酒の勧めがつらいと感じる場合は、一人で抱え込まず、保健所や精神保健福祉センターなど専門機関に相談することも選択肢に入れてください。なお、飲酒は20歳になってから。ノンアルコール飲料も20歳未満の飲酒を連想させる形での利用は控えてください。