「酒気帯び」と「酒酔い」は、どちらも飲酒運転を指す言葉として並べて使われがちですが、道路交通法上はまったく別の違反です。酒気帯び運転は呼気中のアルコール濃度という数値で判定されるのに対し、酒酔い運転は濃度にかかわらず「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」であれば成立します。数値が基準を下回っていても酒酔い運転に問われることがあり、逆に数値が基準を超えていなくても安全に運転できることを意味しません。この記事では、警察庁・警視庁の公表資料と道路交通法・同施行令の条文をもとに、判定基準・罰則・行政処分・周囲の人の責任・自転車への適用を整理します。内容は2026年7月時点の情報です。法改正により基準や罰則は変わり得るため、実際の運用は警察庁・都道府県警察の最新の公表資料で確認してください。
この記事の要点
- 酒気帯び運転は呼気1L中0.15mg以上という数値基準、酒酔い運転は濃度にかかわらず「正常な運転ができないおそれがある状態」で判定される、別の違反
- 酒気帯びは0.15〜0.25mg未満と0.25mg以上で行政処分(基礎点数・免許停止/取消し)が分かれる
- 車両提供者・酒類提供者・同乗者にも、運転者が「酒気を帯びている(または酒気帯びで運転する恐れがある)ことを知りながら」という要件のもとで罰則が及ぶ
- 2024年11月1日施行の改正で、自転車の酒気帯び運転にも罰則が新設された
- 数値基準は取り締まりの線であり、基準未満でも運転技能が低下しているとする研究がある
酒気帯び運転と酒酔い運転は何が違うのか
道路交通法第65条第1項は「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と定めています。この禁止に違反した場合、状態に応じて「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」のいずれかとして扱われます。
- 酒気帯び運転: 身体に一定基準以上のアルコールを保有した状態で車両等を運転すること。呼気中アルコール濃度という数値で判定される
- 酒酔い運転: アルコールの影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で運転すること。数値にかかわらず、言動・歩行状態・受け答えなど総合的な状態で判定される
つまり、数値基準を下回っていても、足取りやろれつの状態から「正常な運転ができないおそれ」があると判断されれば酒酔い運転に問われ得ます。逆に酒気帯びの基準は超えていても、まだ酒酔いの状態とまでは言えない場合は酒気帯び運転として扱われます。この2つは重なり合う概念ではなく、どちらか一方に分類される別の違反です。
呼気1L中0.15mgという基準はどこから来たのか
酒気帯び運転にあたるかどうかの数値基準は、道路交通法本体ではなく道路交通法施行令第44条の3に定められています。同条は「身体に保有するアルコールの程度」を、血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム、または呼気1リットルにつき0.15ミリグラムと規定しており、この呼気0.15mg(血中0.3mg)以上が酒気帯び運転の基準です。
この基準は最初から0.15mgだったわけではありません。法務省の資料によると、平成14年(2002年)までは呼気0.25mg/l(血中0.5mg/ml)が基準でしたが、0.25mg未満の酒気帯び運転でも死亡重傷事故率が高い傾向にあったことから改めて実験が行われ、「呼気濃度0.15mg/l以上であれば運転行動に影響を及ぼす」との結果を踏まえて現行の0.15mgまで引き下げられた経緯があります。
行政処分の運用上は、この0.15mg以上をさらに「0.15mg以上0.25mg未満」と「0.25mg以上」の2段階に分けて扱っており、この境目で基礎点数・免許の処分内容が変わります(次章の表を参照)。
罰則はどう違うのか
刑事罰の上限は、酒気帯びと酒酔いとで明確に異なります。
- 酒気帯び運転(道路交通法第117条の2の2): 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 酒酔い運転(道路交通法第117条の2): 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
「拘禁刑」は2025年6月の刑法改正施行により、従来の懲役・禁錮を一本化した名称です。数値基準に達していないだけの酒気帯びであっても、上限3年の拘禁刑という重い刑事罰の対象になる点は変わりません。
免許はどうなるのか — 基礎点数と欠格期間
刑事罰とは別に、運転免許についての行政処分(基礎点数による免許停止・取消し)も科されます。区分ごとの基準・刑事罰・行政処分を整理すると次のとおりです。
| 区分 | 呼気アルコール濃度の基準 | 刑事罰(運転者本人) | 基礎点数 | 免許の処分 |
|---|---|---|---|---|
| 酒気帯び運転(0.15mg以上0.25mg未満) | 0.15mg/l以上0.25mg/l未満 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 13点 | 免許停止(90日間) |
| 酒気帯び運転(0.25mg以上) | 0.25mg/l以上 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 25点 | 免許取消し(欠格期間2年) |
| 酒酔い運転 | 濃度不問(正常な運転ができないおそれがある状態) | 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | 35点 | 免許取消し(欠格期間3年) |
刑事罰の上限は「0.15mg以上0.25mg未満」と「0.25mg以上」で同じ(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)ですが、行政処分は基礎点数・処分内容ともに明確に分かれます。欠格期間とは、免許取消し処分を受けた後、再度免許を取得できるようになるまでの期間です。
運転者だけではない — 車両提供者・酒類提供者・同乗者の責任
飲酒運転は、運転した本人だけが罰せられる違反ではありません。道路交通法第65条第2項〜第4項は、周囲の人の行為も禁止しています。
- 第2項(車両提供): 酒気を帯びている者が違反して運転することとなるおそれがある者に対し、車両等を提供してはならない
- 第3項(酒類提供): 違反して運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、または飲酒をすすめてはならない
- 第4項(同乗): 運転者が酒気を帯びていることを知りながら、その運転者に自己を運送することを要求・依頼して同乗してはならない
いずれも「(おそれがあることを)知りながら」という主観要件が前提になっており、知らずに車を貸した・酒を勧めただけでは対象になりません。罰則は、運転者が実際に酒気帯び運転・酒酔い運転のどちらに至ったかによって変わります。
| 立場 | 運転者が酒気帯びに至った場合 | 運転者が酒酔いに至った場合 |
|---|---|---|
| 運転者本人 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 車両提供者 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(運転者本人と同じ) | 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(運転者本人と同じ) |
| 酒類提供者 | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 同乗者(知りながら同乗) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
車両提供者は運転者本人と同じ水準の罰則を科され得る一方、酒類提供者・同乗者はそれよりやや軽い水準になっています。「自分は運転していないから関係ない」とは言えず、酒席をともにする側にも法的な責任が及ぶ制度だという点は押さえておく必要があります。
自転車も対象になる
2024年(令和6年)11月1日に施行された改正道路交通法により、自転車の酒気帯び運転にも自動車と同じ基準・罰則が適用されるようになりました。それまで自転車は、酒に酔った状態での「酒酔い運転」自体は禁止されていたものの、数値基準による「酒気帯び運転」としての罰則は整備されていませんでした。改正後は、自動車と同じ呼気1L中0.15mg以上という基準で、自転車の酒気帯び運転にも3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。あわせて、自転車を貸す側・酒類を提供する側・知りながら同乗する側にも罰則が新設されています。自転車移動と飲酒の関係、シェアサイクル利用時の注意点は自転車移動のメリットとはで詳しく整理しています。
基準未満なら安全というわけではない
ここまでの数値基準は、あくまで「取り締まりの線引き」であって「運転技能に問題がない水準」を意味するものではありません。厚生労働省の情報サイト・e-ヘルスネットは、Moskowitzらの研究(1985年・2000年)などを紹介するかたちで、血中アルコール濃度と運転関連機能の低下の対応関係を示しています。それによると、集中力の低下は血中濃度0.01%未満から、多方面への注意力の低下・反応時間の遅れ・追跡技能の低下は0.02%から、ハンドル操作の困難さは0.03%から現れるとされ、いずれも酒気帯び運転の摘発基準である血中濃度0.03%(呼気0.15mg相当)より低い濃度から機能低下が始まるとされています。基準の数値を下回っていることは、判断力や操作能力が万全であることの証明にはなりません。
飲酒の翌朝に運転する場合も同じ考え方が当てはまります。前夜の飲酒がどのように翌朝まで残るか、体内のアルコールが分解される仕組みについては翌朝の運転は大丈夫か、純アルコール量から分解時間を試算する考え方はアルコール分解時間の目安で扱っています。
飲む予定がある日にできること
数値基準ぎりぎりを見極めようとすること自体にリスクがあります。飲む予定がある日は、車や自転車を最初から使わないと決めておく、公共交通機関や運転代行サービスの利用をあらかじめ調べておく、といった事前の計画のほうが確実です。会食の場での立ち回り方は接待の場でシラフでいる技術、飲む日・飲む量を前もって決めておく考え方はドリンク・プランニング入門で扱っています。
よくある質問
酒気帯びと酒酔いはどちらが重い違反ですか?
酒酔い運転のほうが重い違反です。刑事罰の上限は酒気帯び運転が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金であるのに対し、酒酔い運転は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。行政処分の基礎点数も酒酔いが35点で最も重く、免許取消し・欠格期間3年となります。
呼気検査で基準を下回れば酒気帯び運転にはなりませんか?
数値基準を下回れば酒気帯び運転(数値による違反)には該当しません。ただし、数値にかかわらず「正常な運転ができないおそれがある状態」と判断されれば酒酔い運転に問われる可能性があり、また数値基準未満でも運転技能が低下しているとする研究があるため、基準を下回ることと安全に運転できることは同じではありません。
飲酒運転をした人の車に同乗しただけでも罰則の対象になりますか?
運転者が酒気を帯びていることを知りながら、その運転者に自分を運送するよう要求・依頼して同乗した場合は、同乗罪として罰則の対象になります。知らずに同乗した場合は対象になりません。
自転車の酒気帯び運転も自動車と同じ基準ですか?
2024年11月1日施行の改正により、自転車にも自動車と同じ呼気1L中0.15mg以上という基準が適用され、酒気帯び運転として3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。
まとめ
酒気帯び運転と酒酔い運転は、判定基準も罰則も異なる別の違反です。酒気帯びは呼気1L中0.15mg以上という数値基準(道路交通法施行令第44条の3)で判定され、0.15〜0.25mg未満と0.25mg以上で行政処分の重さが分かれます。酒酔い運転は数値にかかわらず「正常な運転ができないおそれがある状態」で判定され、刑事罰・行政処分ともに酒気帯びより重くなります。運転者本人だけでなく、知りながら車両や酒類を提供した人、知りながら同乗した人にも罰則が及び、2024年11月からは自転車の酒気帯び運転も同じ枠組みの対象です。いずれの基準も「取り締まりの線」であって「安全の線」ではないため、境界ぎりぎりを見極めようとせず、飲む予定がある日は車や自転車を使わないとあらかじめ決めておくことが最も確実な対策です。
参考文献
- e-Gov法令検索「道路交通法」第65条・第117条の2・第117条の2の2・第117条の3の2(2026年7月確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105
- e-Gov法令検索「道路交通法施行令」第44条の3(2026年7月確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/335CO0000000270
- 警視庁「飲酒運転の罰則等」(2026年7月確認) https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/torishimari/inshu_info/inshu_bassoku.html
- 警察庁「みんなで守る『飲酒運転を絶対にしない、させない』」(2026年7月確認) https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html
- 法務省「酒気帯び運転の罰則対象となるアルコール濃度の基準値」(2026年7月確認) https://www.moj.go.jp/content/001421873.pdf
- 東京都都民安全総合対策本部「自転車の『ながらスマホ』『酒気帯び運転』の厳罰化(改正道路交通法・令和6年11月1日施行)」(2026年7月確認) https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/topics-k/0000002520
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの運転技能への影響」(2026年7月確認) https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-06-006.html
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律相談・個別の事案への助言ではありません。道路交通法・同施行令の基準や罰則、行政処分の内容は法改正により変更される可能性があるため、実際の判断にあたっては警察庁・都道府県警察の最新の公表資料を確認してください。飲酒運転は重大な事故につながる危険な行為です。飲む予定がある日は、公共交通機関や運転代行サービスの利用をあらかじめ検討してください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。