「そろそろお酒のことを誰かに相談したほうがいいかもしれない」と思っても、いざとなるとどこに連絡すればいいのか、多くの人は知りません。相談先は大きく分けて行政・医療・当事者や家族の会という3つの系統があり、そのどれもが「病院に行くと決めた人」だけのものではありません。保健所や精神保健福祉センターへの相談は無料で、匿名でも、本人ではなく家族からでも受け付けています。この記事では、それぞれの相談先で何ができるか、費用はどうなるかを、公的機関・専門医療機関・当事者団体の公式情報にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • お酒の相談先は「行政」「医療」「当事者・家族の会」の3系統に分かれ、病院を選ぶ前に使える窓口も多くあります
  • 保健所・精神保健福祉センターへの相談は無料で、匿名でも、本人以外の家族からでも受け付けています
  • 依存は本人の意志の弱さの問題ではなく、専門的なサポートが役立つ状態として制度側も位置づけています
  • 断酒だけでなく、量を減らす「減酒」に対応する外来や、費用の負担を軽くする公的制度もあります
  • 手の震え・幻覚・強い不安などの症状や希死念慮がある場合は、自己判断で進めず医療機関につながることが最優先です

お酒の相談先には何がある? まず3つの系統を知る

お酒についての相談先を思い浮かべると、多くの人は「精神科」か「AAのような自助グループ」くらいしか出てこないのではないでしょうか。実際には、相談先は次の3系統に整理できます。

厚生労働省も、こころの健康や依存症についての相談窓口として保健所・精神保健福祉センターを挙げ、地域の依存症相談拠点や依存症専門医療機関の整備を進めていることを明記しています。どの系統から入っても、複数を同時に使ってもかまいません。主な相談先を一覧にすると、次のようになります。

窓口できること費用匿名可否本人以外(家族)の相談・参加可否
保健所こころの健康・依存症の相談、医療機関や自助グループの案内無料匿名相談に対応家族だけでの相談も可能
精神保健福祉センター依存症を含むこころの健康相談、集団プログラム・家族向け教室無料匿名相談に対応するセンターがある家族だけでの相談も可能
かかりつけ医・内科体調・検査数値の相談、専門医療機関への紹介保険診療の自己負担受診が前提(匿名不可)医療機関により対応が分かれる
精神科・心療内科気分の落ち込み・不眠などを含む診療保険診療の自己負担受診が前提(匿名不可)医療機関により対応が分かれる
依存症専門医療機関・治療拠点機関依存症に関する専門的な診断・治療保険診療の自己負担(自立支援医療の対象になる場合あり)受診が前提(匿名不可)医療機関により対応が分かれる
減酒外来断酒を前提にせず飲酒量を減らす目標に沿った診療保険診療の自己負担受診が前提(匿名不可)医療機関により対応が分かれる
AA匿名の当事者ミーティング、12ステップによる回復無料(会費・入会手続きなし)匿名参加が基本本人向け。地域によりオープンミーティングで家族も参加可
断酒会(全日本断酒連盟)当事者・家族・友人が参加する例会所属する会による(月1,000〜1,500円程度が目安)事前申込不要、見学から参加可家族・友人も対象
アラノン家族・周囲の人のためのミーティング詳細は事務局に確認メンバー限定のクローズド形式家族向け(本人が飲酒をやめていなくても参加可)

行政の窓口 — 保健所・精神保健福祉センターで何ができる?

行政の窓口は、受診を決めていない段階でも使えるのが特徴です。

保健所は、地域住民のこころの健康・保健・医療・福祉に関する相談窓口の一つで、保健師や医師が対応し、地域の医療機関や自助グループの情報を教えてもらえます。

精神保健福祉センターは、精神保健福祉法にもとづき各都道府県・指定都市に必ず設置される専門機関です。こころの健康全般に加えて依存症についての相談を受け付けており、東京都立精神保健福祉センターのように、本人・家族どちらからの相談にも対応し、集団の回復プログラムや家族向けの心理教育プログラムを実施しているセンターもあります。

このほか、厚生労働省の依存症対策地域支援事業にもとづき、都道府県・指定都市が依存症相談拠点を設置し、依存症相談員を配置している地域もあります。設置状況は自治体によって異なります。

医療の窓口 — どの科に行けばいい? 減酒外来という選択肢も

医療機関は、健康保険を使った診療・治療が前提になる分、行政の窓口より一歩踏み込んだサポートを受けられます。健診の数値や体調面ならかかりつけ医・内科、気分の落ち込みや不眠を伴う場合は精神科・心療内科が現実的な入り口です。

当事者・家族が集まる場 — AA・断酒会・アラノンの違い

専門家主導ではなく、同じ経験を持つ人同士が体験を分かち合う場もあり、成り立ちや参加の形は団体ごとに異なります。

AA(アルコホーリクス・アノニマス)は、1935年に米国で始まり、日本では1975年に発足した自助グループです。参加に必要なのは「お酒をやめたいと願うこと」だけで、入会手続きも会費もなく、名前や連絡先を明かすかどうかも本人の自由です。回復のプロセスとして12のステップを用いますが、その中に出てくる「ハイヤーパワー」は特定の宗教の神を指すものではなく、何を自分より大きな力とするかは各人の解釈にゆだねられています。

断酒会(公益社団法人全日本断酒連盟)は、全国の断酒会を束ねる連絡組織で、お酒をやめたい人なら誰でも参加でき、事前の申し込みは不要です。当事者だけでなく家族や友人も対象に含まれるのが特徴で、会費は所属する断酒会によって異なりますが、月1,000〜1,500円程度が目安です。地域によってはオンライン(Zoom)での例会も行われています。

アラノン(Al-Anon)は、飲酒問題を抱える人の配偶者・親・友人など、家族や周囲の人のためのグループです。ミーティングはメンバーのみのクローズド形式で、参加は15歳以上とされ、参加を希望する場合はアラノン・ジャパンの事務局に連絡する形になります。当事者本人が飲酒をやめていなくても、家族だけで参加できる点が特徴です。本人が受診に至らない段階で家族が使える窓口は家族が飲みすぎているときの相談先にまとめています。

いずれの団体も専門的な治療機関ではなく、優劣をつけられるものでもありません。自分に合いそうな場を選ぶ材料として捉えてください。SMART Recoveryを含めた成り立ちの違いや、初めて参加するときの流れは自助グループの違いで詳しく比べています。

全国どこからでも相談先・医療機関を探せる情報のハブがある

「自分の地域にどんな相談先があるかわからない」という場合は、国立病院機構久里浜医療センターが運営する依存症対策全国センターのサイトが情報のハブになります。都道府県ごとに地域の相談窓口・医療機関を検索できる「全国の相談窓口・医療機関を探す」というページがあり、AA・断酒会・アラノンを含む主な自助グループの一覧も紹介されています。厚生労働省もこのサイトを依存症専門医療機関の検索先として案内しており、どこに連絡すればいいか迷ったときの出発点として使えます。

相談・治療にかかる費用はどのくらい?

上の一覧表のとおり、行政の窓口やAAは無料で使えます。医療機関を受診する場合は公的医療保険の対象となる診療であれば通常の保険診療と同じ自己負担割合になりますが、負担をさらに軽くできる制度があります。それが自立支援医療(精神通院医療)です。精神疾患のために継続的な通院治療が必要な人の医療費の自己負担を軽減する公費負担医療制度で、実施主体は都道府県・指定都市です。原則として自己負担は1割になり、所得等に応じた月ごとの負担上限額も設けられています。対象となるかどうかや手続きは、通院先の医療機関や自治体の窓口で確認できます。

「相談するとお金がかかりそう」という思い込みだけで足が止まっている場合は、行政の窓口とAAは無料で使える選択肢だと知っておくとよいでしょう。

自分の状況からどこに向かえばいい?

「まだ病気というほどではない」「家族が心配」など、状況によって最初に向かうべき窓口は変わります。

状況最初に向かう一歩理由
まだ「病気」だと思っていない、まず自分の飲み方を客観的に知りたいAUDITなどのセルフチェックを受けてみる、または保健所に電話してみる無料・匿名で、受診を決めていなくても利用できる
健診でγ-GTPなどの数値を指摘されたが、まだ自覚症状はないかかりつけ医に相談する、未病の段階として捉え直す症状が出る前の予防的な相談として位置づけられる
健診でγ-GTPや肝機能の数値を具体的に指摘されたかかりつけ医、またはγ-GTPの基準値と改善期間を確認したうえで内科へ数値の意味を理解してから相談すると話が進めやすい
眠れない・気分が落ちる日が増えている精神科・心療内科、精神保健福祉センターに相談する。酒鬱の記事で背景を確認してもよい気分の変化と飲酒の関係は精神科領域の知見が役立つ
家族の飲み方が心配で、本人はまだ相談する気がない精神保健福祉センターの家族相談、アラノンや断酒会の家族向けの場、家族としての接し方本人が同席していなくても、家族だけで相談・参加できる窓口がある

どの状況にも共通して言えるのは、依存は本人の性格や意志の弱さの問題ではないということです。相談すること自体を「大げさ」と捉える必要はなく、断酒か減酒かも最初から決めておく必要はありません。相談しながら決めていくものです。

すぐに医療につながるべきサイン

ここだけは、はっきりと書きます。

長期間・大量に飲酒してきた人が急に飲酒をやめようとすると、手の震え・発汗・不安といった症状が飲酒をやめてから半日〜1日程度で現れ、その後、幻覚やせん妄、けいれんなど命に関わる重い症状に進むことがあります。これはアルコール依存の程度が進んでいるほど起こりやすく、自己判断で急にお酒をやめることが医学的に危険な場合があるとされています。こうした症状が出ている、あるいは出そうな場合は、自分の意志でなんとかしようとせず、医療機関に連絡してください。

また、飲酒に関連して「消えてしまいたい」「死んでしまいたい」という気持ちが強くなっている場合は、緊急の対応が必要です。危険が迫っているときは救急要請を、今すぐ誰かに話を聞いてほしいときは、いのちの電話や、厚生労働省が案内するこころの健康相談統一ダイヤルを利用してください。

よくある質問

家族だけで相談することはできますか?

はい。精神保健福祉センターや保健所、アラノン、断酒会は、本人が同席していなくても家族だけで相談・参加できます。

相談すると必ずお金がかかりますか?

保健所・精神保健福祉センターへの相談、AAへの参加は無料です。医療機関を受診する場合は保険診療の自己負担が発生しますが、自立支援医療(精神通院医療)などの制度で負担が軽くなる場合があります。

断酒会とAAは何が違いますか?

断酒会(全日本断酒連盟)は当事者に加えて家族・友人も対象に含み、会費があります。AAは参加者本人の匿名性を重視し、会費や入会手続きがなく、参加条件は「お酒をやめたいという願い」だけです。

減酒外来では何をするのですか?

断酒を前提にせず、飲酒量を減らす・問題のない飲み方に近づけるという目標に向けて、飲酒日記をつけながら医師と一緒に進め方を話し合う外来です。国立病院機構久里浜医療センターが2017年に日本で初めて開設しました。

まとめ

お酒の相談先は、行政・医療・当事者や家族の会という3つの系統に分かれ、保健所や精神保健福祉センターへの相談は無料で、匿名でも家族だけからでも受け付けています。医療機関には、断酒を前提にしない減酒外来という選択肢もあり、どこに向かえばいいか迷えば依存症対策全国センターのサイトから地域の相談窓口・医療機関を探せます。依存は本人の意志の弱さの問題ではなく、相談することは大げさなことではありません。手の震えや幻覚などの離脱症状、あるいは希死念慮がある場合だけは、自己判断を避け、すぐに医療機関や緊急の窓口につながってください。

参考文献

医療機関への相談について

手の震え・発汗・幻覚・強い不安などの離脱症状がある場合や、消えてしまいたいという気持ちが強い場合は、自己判断で断酒・減酒を進めず、医療機関や緊急の相談窓口にすぐにつながってください。本記事は診断や治療方針を示すものではありません。実際の相談先の選択や治療については、医師・専門機関にご相談ください。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療方針を示すものではありません。長期間・大量の飲酒が続いている場合、自己判断で急にお酒を断つと離脱症状が現れることがあります。手の震え・発汗・強い不安・けいれんなどがみられる場合は、自己判断で進めず医療機関にご相談ください。相談先には保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関(減酒外来)などがあります。