「減酒外来」や断酒治療の中で薬が使われることがあると聞いても、どんな薬が何のために処方されうるのかは分かりにくいものでしょう。日本でお酒に関わって承認されている薬は、目的によって大きく3つに分かれます。飲酒量そのものを減らすための薬、断酒という状態の維持を助ける薬、そして飲酒時にあえて不快な反応を起こすことで飲酒を遠ざける「抗酒薬」です。この記事では、それぞれの薬がPMDA(医薬品医療機器総合機構)の添付文書上どう位置づけられているかを一次資料にもとづいて整理します。実際に使うかどうか、どの薬をどう使うかはすべて医師が患者の状態を見て判断する事項であり、この記事はその判断に代わるものではありません。

この記事の要点

  • お酒に関わる薬は「①飲酒量低減」「②断酒維持の補助」「③抗酒薬」という3つの目的に分かれる
  • ①の代表がナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)、②の代表がアカンプロサートカルシウム(レグテクト)、③の代表がジスルフィラム(ノックビン)とシアナミド(シアナマイド)
  • いずれも医師の処方が必要な薬で、添付文書やガイドラインは心理社会的治療との併用を前提にしている
  • 断酒を始めた直後の離脱症状に使う薬とは、そもそも目的が異なる
  • 用量・用法や、実際に使うかどうかは、診察した医師が患者の状態を見て判断する事項

お酒に関わる薬は3つの目的に分かれる

まず押さえておきたいのは、お酒に関わる薬が一つの目的でひとまとめにできるものではないという点です。日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会がまとめた「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」および「飲酒量低減治療マニュアル」を手がかりに整理すると、薬は次の3つの目的のいずれかに位置づけられます。

1つ目は、飲酒量そのものを減らすことを目的とした薬です。断酒を前提にせず、飲む量を減らすことを治療目標にできる減酒外来の枠組みの中で使われることがあります。2つ目は、断酒という状態に入った人がその状態を保ちやすくするための補助薬です。3つ目は、体内でお酒に対する不快な反応を起こすことで、飲酒そのものを遠ざける「抗酒薬」です。3つは目的も使われる場面も異なり、優劣のある関係ではありません。

①飲酒量を減らすための薬 — ナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)

ナルメフェン塩酸塩水和物(製品名セリンクロ)は、添付文書上「アルコール依存症患者における飲酒量の低減」という効能又は効果で承認されています。作用の方向性としては、脳内のオピオイド受容体に働きかけることで飲酒量の低減作用を発揮すると考えられていますが、添付文書自体、明確な機序は不明としています。

服用のタイミングについては、添付文書に「飲酒の1〜2時間前に経口投与する」という記載があります。これは数少ない、飲酒行動そのものに合わせて服用タイミングが定められている薬という特徴です。ただし、具体的な用量や増量の可否は、患者の状態によって医師が判断する事項です。

添付文書はさらに、「服薬遵守及び飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用していない場合の有効性は確立していない」と明記しており、心理社会的治療との併用が前提になっています。処方も「アルコール依存症の治療に対して十分な知識・経験を持つ医師」のもとで行うことが求められています。報告されている副作用のうち最も頻度が高いのは悪心で、そのほか浮動性めまい・傾眠・頭痛・不眠症・嘔吐が挙げられています。

②断酒の維持を助ける薬 — アカンプロサートカルシウム(レグテクト)

アカンプロサートカルシウム(製品名レグテクト)は、添付文書上「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」という効能又は効果で承認されています。エタノール依存で亢進したグルタミン酸作動性の神経活動を抑えることで、神経伝達の均衡を取り戻す方向に働くと推察されている薬です。

添付文書の「効能又は効果に関連する注意」には、使用の前提となる条件が具体的に記載されています。国際疾病分類等の診断基準に基づいて慎重に依存症の診断を行った上で使用すること、心理社会的治療と併用すること、断酒の意志がある患者にのみ使用すること、そして離脱症状がみられる患者では離脱症状に対する治療を終えてから使用すること(本剤自体は離脱症状の治療薬ではない)という4点です。用法は食後の服用という記載がありますが、具体的な回数・量は医師の指示に従う事項です。報告されている副作用のうち最も頻度が高いのは下痢で、そのほか傾眠・不安・腹部膨満・嘔吐などが挙げられています。

③抗酒薬 — 飲酒時に不快な反応を起こす薬(ジスルフィラム・シアナミド)

抗酒薬は、これまでの2つとは仕組みが異なります。ジスルフィラム(製品名ノックビン)とシアナミド(製品名シアナマイド)は、体内でアルコールが分解されてできるアセトアルデヒドの代謝を妨げることで、服用中に飲酒すると顔面紅潮・血圧低下・動悸・呼吸困難などの不快な反応(いわゆるジスルフィラム-アルコール反応・シアナミド-アルコール反応)が起こるようにする薬です。添付文書上の効能又は効果は、ノックビンが「慢性アルコール中毒に対する抗酒療法」、シアナマイドが「慢性アルコール中毒及び過飲酒者に対する抗酒療法」となっています。

この仕組みゆえに、両剤とも重篤な心・肝・腎機能障害や呼吸器疾患のある患者、妊婦には禁忌とされ、アルコールを含む医薬品・食品・化粧品(エリキシル剤や奈良漬、アフターシェーブローションなど)を使用・摂取中の患者も禁忌です。添付文書の重要な基本的注意では、治療に先立って本剤服用中に飲酒した場合に何が起こるかを患者本人と家族に説明して了解を得ること、実際に少量の飲酒で反応を確認する「飲酒試験」は入院で行うことが望ましいとされていることが記載されています。副作用としては、精神症状や末梢神経炎、肝機能障害が報告されており、シアナマイドについては中毒性表皮壊死融解症やスティーブンス・ジョンソン症候群といった重篤な皮膚症状の報告もあります。抗酒薬を使うかどうか、どのくらいの期間続けるかも、医師が患者の状態を見て判断する事項です。

薬剤の位置づけ早見表

一般名/商品名目的位置づけ(添付文書の効能又は効果)主な注意点出典
ナルメフェン塩酸塩水和物/セリンクロ飲酒量低減アルコール依存症患者における飲酒量の低減飲酒の1〜2時間前に服用。心理社会的治療との併用が前提セリンクロ錠10mg添付文書
アカンプロサートカルシウム/レグテクト断酒維持の補助アルコール依存症患者における断酒維持の補助断酒の意志がある患者にのみ使用。離脱症状の治療薬ではないレグテクト錠333mg添付文書
ジスルフィラム/ノックビン抗酒慢性アルコール中毒に対する抗酒療法服用中の飲酒で顔面紅潮・血圧低下等の反応。重篤な心・肝・腎疾患は禁忌ノックビン原末添付文書
シアナミド/シアナマイド抗酒慢性アルコール中毒及び過飲酒者に対する抗酒療法同上に加え重篤な皮膚症状の報告ありシアナマイド内用液1%「タナベ」添付文書

いずれの薬も、実際に使うかどうか、どの薬をどう組み合わせるかは診察した医師が判断する事項です。この表は薬の優劣を示すものではなく、目的による整理にとどまります。

薬だけで完結するわけではない

これら3分類の薬に共通しているのは、単独で断酒・減酒を完結させる薬として位置づけられていない点です。日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会の診断治療ガイドライン、飲酒量低減治療マニュアルはいずれも、薬物療法を心理社会的治療(飲酒日記によるセルフモニタリングや医師・カウンセラーとの対話など)と組み合わせることを前提に組み立てられています。ナルメフェンの添付文書が「心理社会的治療と併用していない場合の有効性は確立していない」と明記し、アカンプロサートの添付文書が「心理社会的治療と併用すること」を使用条件として掲げているのも、この前提の表れです。薬さえ飲めば飲酒量が減る、断酒が続く、というものではありません。

副作用と注意点

副作用の傾向は薬の目的によって異なります。ナルメフェンやアカンプロサートで多く報告されているのは、悪心・下痢・傾眠・頭痛といった消化器症状や中枢神経系の症状です。一方でジスルフィラムやシアナミドは、その仕組み上、服用中に飲酒すると不快な身体反応が意図的に引き起こされる薬であり、添付文書は治療開始前に患者本人と家族へその内容を説明し、了解を得ることを重視しています。体質や持病、併用薬によって注意点は変わるため、実際のリスクは処方を受ける医師・薬剤師との相談で確認するのが確実です。

費用はどのくらいかかるのか

これらの薬はいずれも通常の保険診療の枠組みで処方されます。自己負担額は薬の種類・量、診察料、検査の有無によって医療機関ごとに変わるため、この記事で一律の金額は示せません。外来診療全体の費用の仕組みや自立支援医療(精神通院医療)による負担軽減は、減酒外来ガイドの費用の項で整理しています。

市販されていない・個人輸入はしない

ここで扱った薬はいずれも医療用医薬品であり、薬局やドラッグストアで市販されているものではありません。処方には医師の診察が必要です。

個人輸入代行サービス経由でこれらの薬や類似の効果をうたう製品を購入できるとする情報もありますが、避けるべきです。厚生労働省は、個人輸入で入手した医薬品について表示された成分と実際の成分が異なる事例があることや、健康被害が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象とならない場合があることを注意喚起しています。政府広報オンラインも、海外からの医薬品の個人輸入に健康被害などのリスクが伴うことを案内しています。医師の診察を経ずに入手した薬は、自分の状態に適した薬かどうかも分からず、他の服用薬との相互作用を確認する機会も失われます。

断酒開始時の離脱症状の薬とは別物

ここまで紹介してきた3分類の薬と混同しやすいのが、断酒を始めた直後に起こりうる離脱症状(手指の震え・発汗・不眠など)に対して使われる薬です。これは目的がまったく異なります。実際、アカンプロサートの添付文書も「離脱症状がみられる患者では、離脱症状に対する治療を終了してから使用すること」「本剤は離脱症状の治療剤ではない」と明記しており、両者を明確に区別しています。長期間・大量に飲酒してきた人が急に断酒すると、離脱症状が重篤化することがあり、自己判断でやめてよいかどうかも含めて注意が必要です。詳しくはアルコール離脱症状ガイドで整理しています。

よくある質問

これらの薬は市販薬やドラッグストアで買えますか?

買えません。いずれも医師の処方が必要な医療用医薬品です。海外からの個人輸入も推奨されません。

薬を飲めば断酒や減酒が続けられますか?

添付文書やガイドラインは、薬物療法を心理社会的治療と組み合わせて使うことを前提にしています。薬の服用だけで断酒・減酒の継続が保証されるという位置づけではありません。

どの薬が一番よく効きますか?

どの薬が適しているかは、目的(飲酒量低減・断酒維持・抗酒)によって異なり、診察した医師が患者の状態を見て判断する事項です。

減酒外来を受診すれば必ず薬が処方されますか?

必ずではありません。心理社会的治療のみで経過を見る場合もあり、薬を使うかどうかは診察の中で医師と相談して決まります。

抗酒薬を服用している間は、料理酒やアルコール入り化粧品も避ける必要がありますか?

添付文書上、アルコールを含む医薬品・食品・化粧品を使用・摂取中の患者は禁忌とされています。日常生活での具体的な範囲は、処方を受けた医師に確認するのが確実です。

まとめ

お酒に関わる薬は、飲酒量低減・断酒維持の補助・抗酒療法という3つの目的に分かれ、それぞれ添付文書上の効能又は効果や注意点が異なります。ナルメフェンには飲酒前の服用タイミングという特徴があり、アカンプロサートは断酒の意志がある患者への使用が前提、抗酒薬は服用中の飲酒で不快な反応を起こす仕組みです。いずれも医師の処方が必要で、心理社会的治療との併用が前提になっており、薬だけで治療が完結するものではありません。断酒開始直後の離脱症状に使う薬とは目的が別であることも、混同しないよう押さえておきたい点です。

参考文献

医療機関への相談について

薬を使うかどうか、どの薬が適しているかは自己判断できるものではなく、必ず医師の診察を経て決める事項です。お酒の量や飲み方について相談したい場合は、減酒外来ガイドで受診の流れを、相談先マップで行政・医療・当事者会という選択肢を整理しています。すでに依存症の診断がついている、あるいは診断を受けたいと考えている場合は、アルコール依存症の診断基準もあわせてご確認ください。

本記事は薬に関する制度・添付文書の一般的な情報整理を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。薬を使うかどうか、用量・用法については自己判断せず必ず医師にご相談ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療アドバイスではありません。検査値の意味や治療方針は個人の状態によって異なります。服薬中の場合や数値に不安がある場合は、自己判断せず、かかりつけ医・薬剤師にご相談ください。