AUDITやCAGEといったスクリーニングテストで高い点数が出たとしても、それ自体は医学的な「診断」ではありません。診断は、医師が問診を中心に総合的に判断するものです。AUDITの解説記事では、WHOが開発したAUDITの仕組みと厚生労働省が示すスコアの目安を扱いました。この記事では、その先で何が起きるのかを整理します。アルコール依存症という診断名が、実際にはどのような基準にもとづき、どんな場で下されるのか。WHOの診断分類ICD-11、米国精神医学会のDSM-5、そして日本の臨床ガイドラインという一次資料をもとに解説します。
この記事の要点
- スクリーニング(AUDITなど)は飲酒問題の「疑い」を拾う道具であり、診断そのものではありません。診断は医師が問診を中心に総合的に行います
- WHOのICD-11は、コントロール障害・飲酒中心の生活・生理学的特徴という3つの核となる特徴のうち2つ以上が概ね12か月以上続く場合に依存を診断します
- 米国精神医学会のDSM-5は「依存」と「乱用」を分けず、単一の連続体である「アルコール使用障害」として捉え、該当する項目数で軽度・中等度・重度に分けます
- 日本の臨床では現在もICD-10にもとづく基準が主に使われており、ICD-11の正式適用は2027年を目標に移行作業が進められています
- 診断名がつかない場合でも、飲酒による害がないとは限りません。「有害な使用」という別の段階が存在します
AUDITで高得点が出たら、それは「診断」なのか?
結論からいえば、違います。認定NPO法人ASKの解説によれば、AUDITのようなスクリーニングテストは、プライマリケアの現場で飲酒問題の可能性がある人を早期に見つけるための道具であり、確定診断そのものではありません。厚生労働省の手引きも、AUDITのスコアは診断における「判断材料の1つ」であり、最終的な診断は医師が総合的に判断するものだと明記しています。
診断はスコアの計算では終わりません。医師が本人と面接し、飲酒の量や頻度、コントロールの状態、生活への影響などを時間をかけて確認したうえで、後述するICD-11やDSM-5といった診断分類の基準に照らして判断します。スクリーニングで高いスコアが出た場合の次の一歩は、自己判断で結論を出すことではなく、専門医療機関を受診して、この診断のプロセスに進むことです。
ICD-11(WHO)はアルコール依存をどう定義しているか
世界保健機関(WHO)が策定する国際疾病分類の第11版(ICD-11)は、2019年の世界保健総会で採択され、2022年に発効しました。ICD-11における「アルコール依存」(コード6C40.2)の診断要件は、3つの核となる特徴に整理されています。1つ目はコントロール障害で、飲酒への強い欲求と、量や状況を自分で制御することの難しさを指します。2つ目は飲酒中心の生活で、他の生活上の関心事より飲酒が優先され、有害な結果が出ても飲酒が続くことです。3つ目は生理学的特徴で、耐性の形成や、飲酒をやめる・減らすことで生じる離脱症状、離脱を避けるための飲酒がこれにあたります。ICD-11の診断要件は、これら3つの特徴のうち2つ以上が該当し、概ね12か月以上にわたって明らかであることを基本としていますが、毎日またはほぼ毎日の飲酒が3か月以上続いている場合は、その時点でも診断できるとされています。
前身のICD-10では、渇望・コントロール障害・離脱症状・耐性の増大・飲酒中心の生活・有害な使用に対する抑制の喪失という6項目が示され、過去1年間に3項目以上が同時に1か月以上続くか繰り返し出現した場合に依存症と診断する構成でした。ICD-11は、この6項目の内容を3つの特徴に集約し、より簡潔な形に整理し直したものといえます。
DSM-5(米国精神医学会)は何を診断の軸にしているか
米国精神医学会(APA)が2013年に発行したDSM-5は、それ以前のDSM-IVで別の疾患として扱われていた「アルコール乱用」と「アルコール依存」という区分をなくし、単一の連続体である「アルコール使用障害(AUD)」として統合しました。米国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)が示す解説によれば、DSM-5の診断基準は11項目からなり、過去12か月以内にそのうち2項目以上が該当した場合にAUDと診断されます。該当した項目数によって重症度が分かれ、2〜3項目は軽度、4〜5項目は中等度、6項目以上は重度とされます。
11項目を逐一チェックする形で読むよりも、これらが何を見ようとしているかで捉えるとわかりやすくなります。大きく4つの領域に分類でき、1つ目は飲酒への渇望や、量・頻度をコントロールしようとしてもうまくいかないという「コントロール障害」、2つ目は仕事や家庭など生活上の役割が果たせなくなる「社会的障害」、3つ目は危険な状況での飲酒や、健康問題を抱えながらの飲酒を続ける「危険な使用」、4つ目は耐性や離脱症状といった「薬理学的な指標」です。ICD-11の3つの核となる特徴と重なる部分が多い一方、DSM-5はより細かい項目数で重症度を段階的に示す構成になっています。
なお、DSM-5はこの「物質関連障害および嗜癖性障害群」というカテゴリーに、ギャンブル障害もアルコール使用障害と並べて位置づけています。ギャンブルや浪費の問題と飲酒がなぜ併存しやすいのかは、ギャンブル・浪費と飲酒が重なるときで国の実態調査をもとに整理しています。
なぜ2つの体系が併存する?日本の臨床ではどちらが使われている?
ICD-11とDSM-5がともに存在するのは、それぞれ策定した主体と主な用途が異なるためです。ICDはWHOが加盟国の死因統計・疾病統計のために策定する国際的な分類で、日本も統計法にもとづきICDに準拠した統計分類を定めています。一方DSM-5は米国精神医学会が精神科領域の臨床・研究のために策定したもので、主に米国の診療現場や研究論文で使われています。
日本の現状では、ICD-11への移行はまだ途上です。厚生労働省が公開している研究事業の情報によれば、日本はICD-11の適用を2027年に目指し、死因分類・疾病分類の作成や統計分析といった移行作業を進めている段階にあります。そのため、日本の臨床現場では現在もICD-10にもとづく診断基準が主に用いられています。一般社団法人日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会が2018年にまとめた「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」にもとづく手引きでも、依存症の診断はICD-10の基準にそって行うことが示されており、簡易スクリーニングのAUDIT-Cで一定の点数以上だった場合に、ICD-10の診断基準にもとづく評価に進むという流れが解説されています。DSM-5は、ASKの解説によれば日本では主に研究目的で参照される位置づけです。
| 項目 | AUDIT | ICD-11(WHO) | DSM-5(米国精神医学会) |
|---|---|---|---|
| 目的 | 飲酒問題の早期発見(スクリーニング) | 国際的な疾病分類における依存の診断 | 精神疾患の診断基準としてのアルコール使用障害の判定 |
| 誰が行うか | 本人が自己記入(保健指導などの場で使用) | 医師が問診・臨床評価にもとづき判断 | 医師が問診にもとづき判断(主に米国・研究領域) |
| 何を見るか | 過去1年間の飲酒量・頻度・関連する問題の10項目 | コントロール障害・飲酒中心の生活・生理学的特徴という3つの核となる特徴 | コントロール障害・社会的障害・危険な使用・薬理学的指標という4領域、11項目の該当数 |
| 結果が意味すること | スコアに応じたリスクの目安(0〜7点/8〜14点/15〜40点) | 3特徴中2つ以上該当で依存の診断 | 2項目以上該当でAUDの診断。該当数で軽度・中等度・重度に分かれる |
診断の場では、実際に何を聞かれるのか
診断のための問診では、まず飲酒量と頻度、それがどのくらいの期間続いているかが確認されます。次に、飲酒をやめよう・減らそうとした経験があるか、実際に減らせたかどうかが尋ねられます。手の震えや発汗、不眠といった離脱の経験があるかどうかも重要な確認事項です。離脱症状がどのようなもので、なぜ危険な場合があるのかはアルコール離脱症状とは?で詳しく解説しています。さらに、飲酒によって仕事や家庭、対人関係にどのような影響が出ているかも聞かれます。
血液検査についても触れておきます。健康診断でγ-GTPの数値が高いことを指摘された経験がある人もいるでしょう。ですが、γ-GTPをはじめとする血液検査の値は、診断基準そのものには含まれていません。ICD-11・DSM-5のいずれも、依存の診断要件は問診で確認できる飲酒パターンや生活への影響であり、血液検査は診断の根拠ではなく補助的な位置づけです。γ-GTPは飲酒以外に脂肪肝や薬剤の影響でも上昇するため、数値の意味そのものについてはγ-GTPとは?で詳しく解説しています。
「依存症」という診断名をどう受け止めればいいか
「依存症」という言葉には、意志が弱いから、だらしないから、という誤解がついて回ることがあります。しかし日本アルコール・アディクション医学会などがまとめたガイドラインの手引きは、その冒頭で「アルコール依存症は慢性的に多量飲酒をする方であれば誰でも発症する可能性のある疾患です」と述べています。診断名は、その人の人格や意志力を評価するものではなく、治療につながるためのラベルです。同じ手引きは、ICD-10の基準に該当したことがある人が推計107万人いる一方、実際に治療を受けている患者数は約5万人にとどまり、その多くが見逃されていると指摘しています。診断がつくことは、支援につながる入り口になり得ます。
診断がついたあとの治療目標も、断酒だけとは限りません。軽症で明確な合併症がない場合には、飲酒量を減らす「減酒」が選択肢になることもあります。断酒と減酒という言葉の違いは断酒と減酒の違いで整理しています。どちらを選ぶにしても、医師と相談しながら決めていくことが前提になります。
診断がつかなくても、リスクがないわけではない
「依存症と診断されなかった=飲み方に問題がない」というわけではありません。ICD-11には、依存とは別に「有害な使用パターン」という診断区分があります。これは、飲酒によって身体的・精神的な健康にすでに損害が生じている、あるいは飲酒に伴う行動によって他者の健康に害を与えているものの、依存の診断要件までは満たさない状態を指します。依存の診断がつくかどうかという二択ではなく、リスクの少ない飲み方から、有害な使用、依存まで、段階があるものとして捉えることが実態に近いといえます。スコアや診断名にかかわらず、飲み方について気になることがあれば、その時点で見直しを検討する価値があります。
よくある質問
AUDITで高得点でも、病院に行けば必ず依存症と診断されますか?
いいえ。AUDITはあくまでスクリーニングで、実際の診断は医師が問診を通じてICD-11やDSM-5といった基準に照らして判断します。高得点は「専門機関に相談する目安」であり、診断結果を先取りするものではありません。
ICD-11とDSM-5、どちらが正しい基準ですか?
どちらかが誤りというものではなく、策定した主体と主な用途が異なります。ICDはWHOが国際的な統計・診断のために策定するもので、日本の統計もこれに準拠します。DSM-5は米国精神医学会が策定したもので、主に米国の臨床・研究で使われています。日本の臨床現場では、現在もICD-10にもとづく基準が主に使われています。
γ-GTPの数値だけで依存症と診断されますか?
されません。γ-GTPなどの血液検査値は診断基準そのものには含まれておらず、飲酒以外の原因でも変動します。診断は問診を通じた飲酒パターンや生活への影響の確認が中心で、血液検査はその判断を補う情報として扱われます。
家族が心配していますが、本人が受診を嫌がる場合はどうすればいいですか?
本人を連れて行かなくても、家族だけで保健所や精神保健福祉センターに相談することができます。相談先の違いや費用についてはお酒の相談はどこにすればいい?で整理しています。
まとめ
AUDITなどのスクリーニングは飲酒問題の疑いを拾う道具であり、診断そのものではありません。診断は医師が問診を通じて行うもので、WHOのICD-11ではコントロール障害・飲酒中心の生活・生理学的特徴という3つの特徴のうち2つ以上が、米国精神医学会のDSM-5では11項目のうち2つ以上該当することが依存やアルコール使用障害の目安になります。日本の臨床では現在もICD-10にもとづく基準が主に使われ、ICD-11への移行は2027年の適用を目標に進行中です。診断名は意志の弱さを示すものではなく、治療につながるためのラベルであり、診断がつかない場合でも飲み方を見直す価値がなくなるわけではありません。気になるスコアが出た場合や、飲み方に不安がある場合は、一人で抱え込まず専門機関に相談してみてください。
参考文献
- World Health Organization「ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics: 6C40.2 Alcohol dependence」(https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1580466198)
- World Health Organization「ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics: 6C40.1 Harmful pattern of use of alcohol」(https://icd.who.int/browse11/l-m/en)
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism「Alcohol Use Disorder: A Comparison Between DSM-IV and DSM-5」(https://www.niaaa.nih.gov/sites/default/files/publications/DSMfact.pdf)
- 認定NPO法人ASK「アルコール依存症の診断基準」(https://www.ask.or.jp/article/855)
- 一般社団法人日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】」2018年12月(https://www.j-arukanren.com/pdf/20190104_shin_al_yakubutsu_guide_tebiki.pdf)
- 厚生労働科学研究成果データベース「ICD-11の適用を通じて我が国の死因・疾病統計の向上を目指すための研究」(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/174764)
- 厚生労働省「保健指導におけるアルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)とその評価結果に基づく減酒支援(ブリーフインターベンション)の手引き」(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001215491.pdf)
医療機関への相談について
アルコール依存症が疑われる場合や、飲酒量を自分でコントロールできない状態が続く場合は、自己判断で進めず、精神保健福祉センターやアルコール専門外来など専門機関にご相談ください。本記事は医療アドバイスや診断を示すものではなく、実際の診断はICD-11・DSM-5などの基準にもとづき医師が総合的に行うものです。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療方針を示すものではありません。長期間・大量の飲酒が続いている場合、自己判断で急にお酒を断つと離脱症状が現れることがあります。手の震え・発汗・強い不安・けいれんなどがみられる場合は、自己判断で進めず医療機関にご相談ください。相談先には保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関(減酒外来)などがあります。