「飲酒中に水を飲めば二日酔いが軽くなる」という通説を検証した試験で、水の有無による差は確認されませんでした。 大分大学医学部らが2026年に発表した研究で、論文タイトルはそのまま「Water intake during drinking does not alleviate hangover symptoms(飲酒中の水分摂取は二日酔い症状を緩和しない)」です。ただし、この結果から「チェイサーは無意味だから水を飲まなくていい」と読み取るのは、試験の設計を取り違えています。この試験はアルコール摂取量と飲むペースを両方とも固定したうえで、水そのものの効果だけを取り出したものだからです。研究チーム自身は、チェイサーの効果は水の成分ではなく飲酒量とペースのほうにあるのではないか、と考察しています。この記事では、プレスリリースと論文本体の双方から、この研究が示したことと示していないことを分けて整理します。
この記事の要点
- 大分大学医学部らが三和酒類株式会社などと行った試験で、飲酒中の水分摂取に二日酔いの予防効果は確認されませんでした(Frontiers in Pharmacology・2026年6月15日)
- 試験は純アルコール1.3g/kg体重を1時間かけて摂取するという条件で、飲酒量とペースを両条件で同一に固定しています。水を挟むと通常起きる「酒量が減る」「ペースが緩む」という経路は、意図的に取り除かれています
- 研究チームは「チェイサーの効果は、水分摂取による飲酒量の低減ならびに飲酒ペースの緩和にこそあるのではないか」と考察しています
- 被験者は13名、全員が日本人成人男性、オープンラベル試験という限界が論文に明記されています。資金提供は三和酒類株式会社で、著者のうち4名が同社研究所に所属しています
- 日本酒造組合中央会が和らぎ水を案内する言葉は「気分すっきり、深酔いしません」であり、二日酔いを防ぐとは書かれていません。今回崩れたのは、在来の作法が元から主張していなかった部分です
何が発表されたのか
大分大学は2026年7月17日付のプレスリリースで、「チェイサーで二日酔いは防げない ―鍵は『水』ではなく『酒量』 飲水の効果を科学的に検証」という見出しの成果を公表しました。同大医学部の医学生物学講座および医療倫理学講座が、三和酒類株式会社(大分県宇佐市)、および九州大学・筑波大学・大分大学の研究者らが設立した一般社団法人飲酒科学振興協会とともに進めている「飲酒科学」の取り組みの一つと位置づけられています。
論文は Frontiers in Pharmacology に2026年6月15日付で掲載されました。リリースによれば、詳細は2026年7月28日の学長記者会見で説明される予定とされており、この会見を機に一般向けの報道とSNSでの言及が一気に広がりました。
検証の対象になったのは、「飲酒時に飲水(チェイサー、やわらぎ水)を行うと二日酔いが緩和される」という通説です。リリースは二日酔いについて、「不快な症状であるだけでなく、職場への通勤や日中の業務の安全にも関わりかねない問題」と位置づけています。二日酔いが仕事のパフォーマンスに与える影響については二日酔いの経済的コストでも扱っています。
何をどう比べたのか — 試験の設計
論文本体に記載された条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 健康な日本人成人男性13名(平均36.2±9.6歳)。16名から同意を得たが2名が脱落、1名が除外 |
| デザイン | ランダム化2×2クロスオーバー試験(オープンラベル) |
| 実施場所 | 大分大学医学部附属病院 クリニカル・トライアル・ユニット |
| 飲酒条件 | 純アルコール1.3g/kg体重を、1時間かけて一定のペースで摂取 |
| 比較 | 飲酒中に水(15mL/kg体重)を摂取する条件 / 摂取しない条件 |
| 測定 | 呼気中のエタノール・アセトアルデヒド濃度、DSST(数字符号置換課題による認知機能)、VAS(顔面紅潮・頭痛・吐き気・集中力・眠気・気分高揚の自己評価) |
| 結果 | 呼気エタノール・アセトアルデヒドの推移にも、自覚症状にも、両条件のあいだで差は認められなかった |
飲酒量を実感に置き換えると、体重60kgの人で純アルコール約78gにあたります。これは厚生労働省が生活習慣病のリスクを高める量として示す1日あたりの目安(男性40g以上)のおよそ2倍で、日本酒なら4合弱を1時間で飲み切る計算です。水の量は同じ体重で約900mLになります。決して軽い飲み方の検証ではなく、二日酔いが確実に起こる水準の飲酒を、あえて条件として設定していることがわかります。
この設計が意味すること — 2つの経路が外されている
この試験でもっとも重要なのは、アルコール摂取量を両条件で同一にし、飲むペースも1時間で固定している点です。
実際の飲み会でチェイサーを挟むとき、体に起きていることは1つではありません。少なくとも3つの経路が同時に走ります。
- 水そのものの生理的な作用(脱水の緩和など)
- 水を飲んだぶん、お酒の杯数が減る(=純アルコール総量が減る)
- 水を挟むことで飲むペースが緩む(=血中濃度のピークが下がる)
今回の試験は、2と3を設計の段階で取り除いています。同じ量の酒を、同じ1時間で飲ませたうえで、水の有無だけを比べているからです。その条件で差が出なかったということは、1の経路、つまり水そのものに二日酔いを直接防ぐ作用はないという意味になります。2と3が効くかどうかについては、この試験は何も否定していません。
研究チーム自身、プレスリリースでこう述べています。「チェイサーの効果は、水分摂取による飲酒量の低減ならびに飲酒ペースの緩和にこそあるのではないかと研究チームは考察しています」。つまりこの研究は、水を挟む作法そのものを退けたのではなく、効いている経路の場所を特定した、と読むのが正確です。
なお、水をどれだけ飲んでもアルコールの分解速度そのものが上がるわけではないという点は、この研究以前から確認されていました。汗や尿として排出されるアルコールはごくわずかで、代謝の大部分は肝臓が担っています。詳しくはアルコール分解時間の目安で扱っています。
示していないこと — 論文が明記する限界
論文には、結果の読み方を制約する条件がいくつも明記されています。報道の見出しだけでは伝わらない部分なので、あわせて押さえておく価値があります。
- 被験者は13名と小規模である
- 全員が男性であり、女性での結果は評価されていない
- 日本人のみを対象としており、人種差は評価できない
- オープンラベル試験である。被験者も実施者も、どちらの条件かを知った状態で参加しているため、自己評価による症状の測定にはバイアスが入りうる
飲酒への反応には体質差が大きく関わります。日本人の場合はアセトアルデヒドの分解に関わる酵素の働きに個人差が大きく、飲める人と飲めない人では同じ量でも起きることが違います。体質と選択の組み合わせについてはお酒との4つの向き合い方で整理しています。13名・男性のみという条件は、そうした差まで検討できる設計ではありません。
資金と利益相反についても、論文に記載があります。この研究は三和酒類株式会社の資金提供によるもので、著者8名のうち4名が同社研究所に所属しています。酒類メーカーが資金を出した研究が「チェイサーでは防げない」という、飲酒を促す方向ではない結論を公表し、資金源と所属を明記している点は、透明性の観点では評価できる部類です。ただしそれは結論の正しさを保証するものではなく、単一の小規模試験である以上、これ1本で決着したものとして扱うべきではありません。
日本の在来の作法とは、そもそも矛盾していない
この研究が話題になったとき、「和らぎ水は嘘だったのか」という受け止めが少なからず見られました。しかし、日本の在来の作法が何を約束してきたのかを一次資料で確認すると、印象は変わります。
日本酒造組合中央会は和らぎ水について、公式サイトで「合間に水を飲めば、気分すっきり、深酔いしません」「洋酒にチェイサーという飲み方があるように、日本酒にも水、というスタイル」と案内しています。ここで語られているのは酔い方とペースの話であり、翌朝の二日酔いを防ぐとは書かれていません。
厚生労働省が2024年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」も同様です。「飲酒の合間に水(又は炭酸水)を飲むなど、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする」ことを配慮事項として挙げていますが、そこで説明されている効果は「飲む量に占める純アルコールの量を減らす効果があります」という点にとどまります。これは先ほどの3つの経路でいえば、2と3にあたる説明です。
つまり今回の試験で崩れたのは、公的なガイドラインも業界団体も元から主張していなかった部分——「水そのものが二日酔いを防ぐ」という、通説として一人歩きしていた効能書きのほうでした。呼び名としての「ゼブラストライピング」を含め、水を挟む作法の来歴はゼブラストライピングとはで整理しています。
では、飲むときに水を挟む意味はあるのか
あります。ただし、期待する効果の置き場所を変える必要があります。
水を挟む実践的な価値は、翌朝の症状を打ち消すことではなく、その手前で飲む量とペースを自分の側に取り戻すことにあります。1杯おきに水を入れれば、同じ滞在時間でも杯数は落ちます。グラスに手を伸ばす間隔が空けば、血中濃度のピークも下がります。これは足し算・引き算の理屈で、今回の試験もそこは否定していません。
脱水への対処という意味も残ります。アルコールには抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑える作用があり、飲酒中は尿量が増えて体が脱水方向に傾きます。この点は断酒とむくみで扱っています。水分を補うことは、二日酔いという状態そのものを消す手段ではありませんが、脱水という個別の症状への対処としては理にかなっています。
一方で、注意すべき使い方もあります。「水を飲んでいるから大丈夫」という理由で飲む量そのものを増やしてしまうと、2と3という肝心の経路が消えてしまい、残るのは効果が確認されなかった1だけになります。今回の研究の実務的な含意があるとすれば、この一点に尽きます。当日の飲み方の設計は悪酔いしない飲み方に、二日酔いになってしまった後にできることは二日酔い対策で本当に効くのは何かにまとめています。
飲む量を自分で決めることが難しいと感じる場合、必要なのは飲み方の工夫ではなく相談です。行政・医療・当事者会それぞれの窓口はお酒の相談はどこにすればいい?に整理しています。
よくある質問
結局、チェイサーは飲んでも意味がないのですか?
意味はあります。今回の試験が否定したのは「水そのものに二日酔いを直接防ぐ作用がある」という部分だけです。試験はアルコール摂取量と飲むペースを固定して比較しているため、実際の飲み会で水を挟んだときに起きる「杯数が減る」「ペースが緩む」という効果は検証の対象に入っていません。研究チーム自身、チェイサーの効果はそちらにあるのではないかと考察しています。
水の量が足りなかったのではないですか?
試験で用いられた水は15mL/kg体重で、体重60kgの人なら約900mLにあたります。1時間の飲酒中に摂る量としては少なくありません。ただし論文は被験者13名・全員男性という限界を明記しており、量や条件を変えた場合にどうなるかを、この1本の試験だけで結論づけることはできません。
酒造メーカーが関わった研究を信用してよいのですか?
資金提供が三和酒類株式会社であり、著者8名のうち4名が同社研究所に所属していることは、論文に明記されています。留意すべき点ではありますが、結論は「チェイサーでは二日酔いを防げない」という、飲酒を促す方向ではないものです。利益相反があるとすれば、むしろ逆向きの結論が出やすい構図であったにもかかわらず、この結果を公表し、資金源と所属を開示している点は透明性の高い部類に入ります。
和らぎ水は間違いだったということですか?
そうは言えません。日本酒造組合中央会が和らぎ水について案内しているのは「気分すっきり、深酔いしません」という酔い方の話で、二日酔いを防ぐとは書かれていません。厚労省ガイドラインの説明も「飲む量に占める純アルコールの量を減らす効果があります」にとどまります。今回崩れたのは、これらの一次資料が元から主張していなかった部分です。
まとめ
大分大学医学部らが2026年に発表した試験は、飲酒中の水分摂取に二日酔いの予防効果を確認できませんでした。ただしこの試験は、アルコール摂取量を1.3g/kg体重で揃え、飲むペースも1時間で固定したうえで水の有無だけを比べたものです。水を挟むことで通常生じる「酒量が減る」「ペースが緩む」という2つの経路は、設計の段階で取り除かれています。したがって示されたのは、水そのものに直接の予防作用はないという1点であり、研究チーム自身も効いているのは酒量とペースのほうではないかと考察しています。被験者13名・全員男性・オープンラベルという限界と、酒類メーカーによる資金提供も論文に明記されています。日本酒造組合中央会の「深酔いしません」も、厚労省ガイドラインの「純アルコール量を減らす」も、元から酔い方と量の話をしていました。今回崩れたのは、その周りに積み上がっていた効能書きのほうだったと言えます。
参考文献
- Imai H, Kushio S, Matsuura K, et al.「Water intake during drinking does not alleviate hangover symptoms」Frontiers in Pharmacology, 2026年6月15日 https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2026.1852528/full
- 大分大学「チェイサーで二日酔いは防げない ―鍵は『水』ではなく『酒量』 飲水の効果を科学的に検証」(プレスリリース・2026年7月17日) https://www.oita-u.ac.jp/000071540.pdf
- 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月) https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
- 日本酒造組合中央会「和らぎ水のすすめ」 https://japansake.or.jp/sake/about-sake/yawaragi-mizu/
- 公益社団法人日本薬学会「バソプレシン」 https://www.pharm.or.jp/words/word00867.html
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療アドバイスではありません。紹介した研究は被験者13名の小規模なオープンラベル試験であり、単一の研究をもって飲み方の是非を判断できるものではありません。飲酒量のコントロールが難しいと感じる場合は、保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関(減酒外来)など専門機関へのご相談をご検討ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。