健康診断の腹部エコーで「脂肪肝」と書かれたり、γ-GTPなどの数値を指摘されたりした経験がある人は少なくないでしょう。肝臓とはどんな臓器かで触れたとおり、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能が落ちても自覚症状が出にくい臓器です。脂肪肝はまさにその典型で、痛みもだるさもないまま静かに進み、健診で初めて気づくケースがほとんどです。この記事では、脂肪肝とはどういう状態か、お酒が原因のタイプとそうでないタイプの違い、どのくらいの飲酒量・期間で進みうるか、そして断酒によってどこまで戻る可能性があるのかを、確認できる一次資料をもとに整理します。
この記事の要点
- 脂肪肝は、肝細胞におおむね5%以上の中性脂肪がたまった状態を指す
- 脂肪肝はお酒だけが原因ではなく、内臓脂肪や代謝異常でも起こる。2023年以降、国際的にはアルコール性の「ALD」と代謝機能障害関連の「MASLD」に呼び分ける動きが進んでいる
- 進む量・期間には個人差・性差が大きく、女性は比較的少量・短期間でも進みうるとされる
- 脂肪肝は放置すると肝炎・線維化・肝硬変へ段階的に進みうるが、日本では明らかな肝炎の既往なく線維化が進む例が多いとされる
- 初期の脂肪肝は断酒・減酒で改善が期待できるとされる一方、線維化・肝硬変まで進むと元に戻りにくい。早い段階での気づきが重要
脂肪肝とは何か
脂肪肝とは、肝臓の細胞に中性脂肪が過剰にたまった状態のことです。厚生労働省 e-ヘルスネットは脂肪肝を「肝細胞の5%以上の細胞の中に脂肪がたまっている状態」と説明しており、これがおおまかな目安とされています。肝臓は本来、脂質の代謝を担う臓器ですが、摂取カロリーの過剰や飲酒量の増加などによって処理しきれない脂肪が肝細胞の中に蓄積すると、この状態に至ります。
近年は、脂肪肝を含む肝臓に脂肪がたまる病態全体を指す総称として「脂肪性肝疾患(SLD)」という言葉も使われるようになっています。脂肪肝そのものは初期段階では自覚症状がほとんどなく、多くは健康診断の腹部エコーや血液検査で偶然見つかります。
アルコール性(ALD)と非アルコール性(MASLD)の違い
脂肪肝と聞くと「お酒の飲みすぎ」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実際には飲酒だけが原因ではありません。厚生労働省 e-ヘルスネットは、脂肪肝の原因を大きく「アルコールの多量摂取によるアルコール性脂肪肝」と「不規則な生活習慣を背景とした肥満による非アルコール性脂肪肝」の2タイプに分類しています。後者は、お酒をほとんど飲まない人でも、内臓脂肪の蓄積やメタボリックシンドロームなどの代謝異常によって起こりうるものです。
この分類をめぐっては、2023年以降、国際的に病名の見直しが進みました。それまで広く使われてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」という名称には「non-alcoholic(非アルコール性)」「fatty(脂肪性)」という語が含まれ、これが患者への偏見(スティグマ)につながりうるという指摘が背景にあり、より病態の実態に即した名称への切り替えが提案されました。日本消化器病学会・日本肝臓学会は2024年8月、この国際的な見直しを受けて日本語での病名を正式に決定し、代謝機能障害と関連する脂肪肝を「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」、進行した炎症を伴う病態を「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」、アルコールが主な原因のものを「ALD(アルコール関連肝疾患)」、両者が重なり合う中間的な病態を「MetALD」と呼び分ける整理を示しました。
つまり、現在では「お酒が主な原因かどうか」と「代謝異常が絡んでいるかどうか」は別軸として捉えられており、両方が重なっているケースも珍しくない、という理解が広がっています。健診で脂肪肝を指摘された場合、飲酒量だけでなく体重や生活習慣全体を振り返る視点が必要になるのはこのためです。
どのくらいの量・期間で進むか
アルコール性脂肪肝がどの程度の飲酒量・期間で進むかについては、個人差が大きく一律の基準を示すことは難しいものの、目安となる考え方はいくつか示されています。
まず基本になるのが「純アルコール量」という考え方です。お酒の量(ml)×度数(%)÷100×0.8という式で計算でき、たとえばビール500ml・度数5%であれば、500×0.05×0.8で約20gになります。厚生労働省は、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、男性は1日あたり純アルコール量40g以上、女性は20g以上という目安を示しています。さらに「多量飲酒」は、男性で1日60g以上、女性で40g以上とされています。
ここで重要なのは、これらの目安が男女で異なる点です。一般に女性は男性に比べて体格が小さく、アルコールを分解する酵素の働きにも差があるとされ、同じ飲酒量・期間でも肝臓への負担が大きくなりやすいと考えられています。厚生労働省 e-ヘルスネットも、女性は男性より少ない飲酒量・短い期間でアルコール性肝障害が進む可能性があると注意を促しています。「自分は毎日そんなに飲んでいないから大丈夫」と思っていても、体格や体質によっては該当することがある、という前提で捉えておく必要があります。
進行の道筋
アルコールが主な原因で脂肪肝が進行する場合の道筋は、段階的に説明されることが多くあります。まず多量の飲酒によって「アルコール性脂肪肝」に至り、この段階ではまだ自覚症状に乏しいとされます。この状態で大量の飲酒を続けると、発熱や黄疸などの症状を伴う「アルコール性肝炎」に進むことがあり、まれに重症化する例も報告されています。さらに進むと、肝臓が硬く線維化した「肝硬変」、その先に「肝がん」へとつながる場合もあるとされています。アルコールとがん全体の関係についてはアルコールとがんで整理しています。
ここで押さえておきたいのは、日本ではアルコール性肝炎のような明らかな既往がないまま、肝臓の線維化がゆっくりと進行する例が多いとされている点です。つまり「肝炎のような分かりやすい症状が出ていないから、まだ大丈夫」とは言い切れません。肝臓とはどんな臓器かで整理したとおり、肝臓は優れた再生・代償能力を持つがゆえに、障害が隠れやすい「沈黙の臓器」です。脂肪肝の段階は、まさにこの沈黙の期間にあたります。
断酒でどこまで戻るか
脂肪肝についてよく聞かれるのが「お酒をやめれば元に戻るのか」という点です。初期の脂肪肝は可逆的な変化とされており、断酒・減酒と生活習慣の見直しによって改善が期待できるとされています。肝臓は再生能力の高い臓器であり、脂肪の蓄積という段階であれば、負荷が取り除かれることで状態が上向く余地が比較的大きいと考えられます。
ただし、これはあくまで「初期の段階であれば」という条件付きです。脂肪肝が進行し、肝臓の線維化や肝硬変にまで至ってしまうと、断酒しても元の状態に完全に戻ることは難しくなるとされています。だからこそ、線維化が進む前の早い段階で気づき、飲酒量を見直せるかどうかが、その後の経過を大きく左右します。断酒によって実際にどのくらいの期間で数値が変化しうるかは、検査値ごとに異なります。γ-GTPを中心とした具体的な変化の目安はγ-GTPの見方で詳しく整理していますので、そちらを参照してください。
どう気づくか
脂肪肝は自覚症状に乏しいからこそ、健診の結果が数少ない手がかりになります。代表的なのが腹部超音波(エコー)検査で、肝臓に脂肪がたまっている様子を画像として確認できます。血液検査では、γ-GTP・AST(GOT)・ALT(GPT)といった肝機能検査値も手がかりになりますが、注意したいのは、これらの数値が正常範囲内でも脂肪肝が存在することがあるという点です。数値だけに頼らず、エコー検査の結果や体重・体形の変化も含めて総合的に捉える視点が必要です。
数値がまだ「異常」と呼べる水準に達していない段階、つまり健康と病気の間にあるグレーゾーンをどう捉えるかについては、未病とは?で扱っています。また、断酒後に体重計の数字より先に現れやすい体の変化については、断酒で体重より先に変わるのは『むくみ』で、水分・体組成が戻っていく順番として整理しています。脂肪肝のような体の内側の変化は、むくみのような見た目の変化よりもさらにゆっくりと進むものだと理解しておくと、経過の捉え方に役立ちます。
まとめ
脂肪肝は、肝細胞におおむね5%以上の中性脂肪がたまった状態で、お酒の飲みすぎだけでなく、内臓脂肪や代謝異常によっても起こります。2023年以降の国際的な病名整理により、アルコールが主な原因のものは「ALD」、代謝機能障害と関連するものは「MASLD」、両者が重なるものは「MetALD」と呼び分けられるようになりました。進行の速さには個人差・性差が大きく、特に女性は比較的少量・短期間でも進みうるとされています。初期の脂肪肝は断酒・減酒によって改善が期待できる一方、線維化や肝硬変まで進むと元に戻りにくくなるため、早い段階で気づき、行動を変えられるかどうかが分かれ目になります。
健診で脂肪肝やγ-GTPなどの数値を指摘された場合は、自己判断で様子を見るのではなく、腹部エコーや追加の血液検査を含め、医療機関で状態を確認することをおすすめします。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂肪肝」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/metabolic/ym-033.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと肝臓病」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-002.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールとメタボリックシンドローム」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-005.html
- 日本肝臓学会「アルコール性肝障害(アルコール関連肝疾患)診療ガイド2022」
- 日本消化器病学会・日本肝臓学会「脂肪性肝疾患の日本語病名(NAFLD/NASH→MASLD/MASH、MetALD)」2024年 https://www.jsge.or.jp/news/20240820-3/
免責事項
本記事は医療アドバイスではありません。ご紹介した内容は一般的な情報提供を目的として一次資料を整理したものであり、個々の健康状態や検査結果の解釈にそのまま当てはまるとは限りません。脂肪肝やその他の検査値を指摘された場合、また既往症や服薬中の薬がある場合は、自己判断せず医師にご相談ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。