「親や配偶者の介護を始めてから、晩酌の量が増えた気がする」。そう感じている人は少なくありません。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、在宅で要介護者等と同居しながら主に介護をしている人は45.9%にのぼり、要介護度が上がるほど「ほとんど終日」対応している人の割合も増えていきます。介護疲れとお酒の関係は、意志の強さ・弱さの問題として片づけられるものではなく、睡眠が細切れになり続ける生活の構造から生まれやすいことが、公的な調査や研究から見えてきます。

この記事の要点

  • 在宅で主に介護をしている人の45.9%が要介護者等と同居しており、要介護度が高いほど「ほとんど終日」の介護が増えます(厚生労働省「国民生活基礎調査」2022年)
  • 家族介護者を対象にした米国の日記式調査では、一定割合が飲酒問題のスクリーニングで陽性となりましたが、研究デザイン上、介護そのものが原因だと単純に結びつけることはできません
  • 介護中の飲酒には、夜間対応や通院の送迎など、他のライフステージとは異なる固有のリスクがあります
  • 地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談、レスパイト(ショートステイ・デイサービス)は、飲酒量そのものより先に頼ってよい選択肢です
  • 自分の飲酒量を自分では戻せないと感じたら、専門の相談窓口につながる方法があります

在宅介護の実態 — 「頑張りが足りない」わけではない

厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)は、要介護者等と同居して主に介護をしている人の割合が45.9%であることを示しています(2019年の54.4%から低下しており、別居家族や事業者による介護の広がりもうかがえます)。同居する主な介護者の続柄は、配偶者が22.9%、子が16.2%、子の配偶者が5.4%です。

介護に要する時間を見ると、同居する主な介護者のうち「ほとんど終日」対応している人は全体で19.0%ですが、要介護度が上がるにつれて急増し、要介護3で31.9%、要介護4で41.2%、要介護5では63.1%に達します。「ほとんど終日」対応している人の74.5%は女性で、その内訳は配偶者45.7%、子18.5%となっています。

この数字が示すのは、介護の負担が性格や頑張りの差ではなく、要介護度や同居の有無、続柄という構造によって重さが変わるということです。なお、ここまでの数字は成人の家族介護者を対象にしたものです。家庭内にアルコール問題がある場合、未成年の子どもがケアの役割を引き受けるケースもあり、これは「ヤングケアラー」として数えられます。子どもがそうした役割を担っている場合については、ヤングケアラーと家庭内の飲酒問題で整理しています。

なぜ介護をしていると飲酒量が増えやすいのか

介護をきっかけに晩酌が増える背景には、いくつかの生活上の変化が重なりやすいという指摘があります。夜間の呼び出しによる睡眠の分断、いつまで続くか見通しが立たない状態、周囲に相談しづらい孤立感、そして自分のためだけに使える時間が失われることです。

介護者の飲酒そのものを対象にした研究はまだ数が限られています。米国の認知症家族介護者453人を対象にした日記式の縦断調査(JAMA Network Open、2025年)では、調査開始時点でハザーダス飲酒(健康リスクを伴う飲酒パターン)のスクリーニングに陽性だった人が18.1%(82人)いたと報告されています。ただしこの調査は便宜的なサンプルによる自己報告調査であり、著者ら自身も社会的に望ましい回答をしてしまう傾向などの限界を明記しています。

一方、同じテーマを扱った2024年のスコーピングレビュー(International Journal of Environmental Research and Public Health)は、136件の文献から最終的に5件しか対象にできず、「家族介護者がアルコールを乱用する可能性はむしろ低い」とする報告も含まれていたとしています。レビュー著者らは、研究デザインが研究ごとにばらばらで、この領域の研究蓄積自体がまだ乏しいと限界を明記しています。「介護をすると必ず飲酒量が増える」と言い切れる段階にはなく、睡眠の分断や孤立が積み重なったときにリスクが高まりやすい、という理解にとどまります。

介護中の飲酒に固有のリスク

現役世代や独身者の晩酌と比べて、介護をしながらの飲酒には固有のリスクがあります。第一に、夜間に要介護者から呼ばれたり、転倒などの物音で目を覚ましたりしたときに、酔った状態では安全に対応しにくくなります。第二に、通院の送迎で車を運転する役割を担っている場合、飲酒した当日の夜だけでなく翌朝の運転についても判断が必要になります。どのくらい飲むとどのくらいの時間で運転できる状態に戻るかは、翌朝の運転は大丈夫かで整理しています。

第三に、服薬管理です。要介護者が服薬管理を自分だけでは行えない場合、家族が薬の種類・量・タイミングを把握して支える必要が生じます。厚生労働省の資料も、本人の判断力が低下している場面では家族や介護・福祉関係者による服薬管理の支援が期待されると説明しています。

眠れないから飲む、という悪循環

「なかなか寝つけないから」とお酒の力を借りたくなる夜もあるかもしれません。しかしアルコールには、寝つきを早める一方で睡眠の後半部分を浅くし、中途覚醒を増やす働きがあることが知られています。夜間対応が控えている介護の生活では、細切れの睡眠がさらに浅くなることで、翌日の疲労がかえって抜けにくくなる可能性があります。アルコールと睡眠の質の関係については寝酒は睡眠に悪い?で詳しく整理しています。

使える公的な支えを知っておく

飲酒量を見直す前に、まず知っておきたいのが「一人で抱えなくていい」ための公的な仕組みです。制度の名称や利用条件・費用は自治体によって異なるため、詳細は住んでいる市区町村の窓口で確認してください。

困りごと起きやすいこと使える制度・窓口の例
夜間対応が続き眠れない疲労が抜けず飲酒量が増えやすいケアマネジャーへの相談、短期入所生活介護(ショートステイ)の利用検討
自分の時間がまったくない息抜きの手段が飲酒に偏りやすい通所介護(デイサービス)の利用、レスパイト目的のショートステイ
誰にも相談できず孤立している一人で抱え込み、状況が見えにくくなる介護者の会・家族会(例: 公益社団法人 認知症の人と家族の会)の交流会・電話相談
この先いつまで続くか見えない慢性的なストレスが蓄積しやすい地域包括支援センターでの総合相談、ケアプランの見直し相談

地域包括支援センターは、高齢者の総合相談や権利擁護、地域の支援体制づくりを行う公的な窓口で、厚生労働省が全国の市区町村に設置を進めています。介護保険の申請前でも相談できます。ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護者への相談援助を基本にケアプランを作成し、サービス事業者や市区町村との連絡調整を行う専門職です。短期入所生活介護(ショートステイ)は、家族(介護者)の負担軽減を目的のひとつとする介護保険サービスで、連続利用できる日数には上限があります。

自分の心身の不調に気づいたら

睡眠不足や孤立が続くと、いわゆる「介護うつ」と呼ばれる心身の不調が現れることがあります。これは正式な診断名ではなく、介護に伴う慢性的なストレスから気分の落ち込みや不眠、意欲の低下が続く状態を指す通称です。気分の落ち込みが2週間以上続く、食欲や睡眠に明らかな変化が出ている、といった状態が続くなら、一人で様子を見続けるよりも早めの相談が選択肢になります。

飲酒量についても、「減らそうと思っても減らせない」「朝から迎え酒をしてしまう」といった状態が続くようであれば、介護の悩みとは別に、飲酒そのものについての相談窓口を知っておくと安心です。行政・医療・当事者会それぞれの窓口の違いはお酒の相談はどこにすればいい?で整理しています。

介護されている側が飲んでいる場合は

ここまでは介護をする側の飲酒を扱いましたが、逆に介護を受けている高齢の家族本人の飲酒が気になるケースもあります。高齢になると同じ量でも酔いやすくなったり、服薬との飲み合わせのリスクが高まったりすることが、公的なガイドラインから確認できます。立場が逆のケースは高齢者とお酒で整理しています。

今夜からできる小さな置き換え

介護の生活そのものを急に変えることは難しくても、今夜の過ごし方を少しだけ変えることはできます。短時間の入浴で体をゆるめる、数分だけ呼吸に意識を向ける、その日感じたことを短く書き出してみる。こうした小さな行動は、飲酒に代わる休息の選択肢として試す価値がありますが、これで介護の疲れそのものが解消すると断定できるものではありません。飲まない夜の過ごし方は飲まない夜のリカバリー完全ガイドでまとめています。

相談先の案内

介護の負担と飲酒量の両方が重なって「もう自分では立て直せない」と感じるときは、次のような窓口があります。

いずれも介護を続けながら利用できる窓口で、相談したからといって介護の役割を取り上げられるわけではありません。

よくある質問

介護で晩酌が増えるのは意志が弱いからですか?

意志の強さ・弱さの問題ではありません。睡眠の分断や孤立、自分の時間の消失といった生活構造の変化が重なることで、飲酒量が増えやすくなると考えられています。まずは地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談など、生活の負担そのものを分散させる方法の検討が優先されます。

介護のストレスと飲酒量の関連を示す研究はありますか?

家族介護者を対象にした研究はまだ数が限られています。米国の日記式調査ではハザーダス飲酒のスクリーニング陽性者が一定割合みられましたが、2024年のスコーピングレビューは研究蓄積自体の乏しさを指摘しており、「介護をすると必ず飲酒量が増える」とは言い切れません。

レスパイトはどこに相談すればいいですか?

すでに要介護認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーにショートステイやデイサービスの利用について相談できます。認定を受けていない、またはどこに相談すればいいか分からない場合は、地域包括支援センターが最初の窓口になります。利用条件や費用は自治体によって異なります。

介護している親や配偶者本人の飲酒も気になります

介護をする側・される側のどちらの飲酒も、それぞれ異なる注意点があります。介護を受けている高齢の家族本人の飲酒については高齢者とお酒で整理しています。

自分の飲酒量が自分では戻せないと感じたら?

介護の負担とは別に、飲酒そのものについての相談窓口があります。行政・医療機関・当事者会という3つの窓口の違いはお酒の相談はどこにすればいい?で紹介しています。

まとめ

介護疲れによる晩酌の増加は、多くの場合、睡眠の分断・孤立・先の見えなさという生活構造から生まれるものであり、介護する人の性格や頑張りの問題ではありません。地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談、レスパイトの利用は、飲酒量を見直すよりも先に検討できる選択肢です。負担と飲酒量のどちらか一方でも「自分では立て直せない」と感じたときは、一人で抱え込まず専門の窓口につながってください。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。介護保険サービスの利用条件・費用・手続きは自治体によって異なるため、詳細は最寄りの地域包括支援センターまたはケアマネジャーにご確認ください。気分の落ち込みや不眠が続く場合、飲酒量が不安な場合は精神保健福祉センターやかかりつけ医にご相談ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。