子どもの前でお酒を飲むかどうかに、唯一の正解はありません。家庭内で親がどう飲むかは法律で直接規定されているわけではなく、各家庭の価値観や事情によって選択が分かれます。ただし、子どもは親の飲む姿を通じて「お酒とはどういうものか」という感覚を早い段階から学んでおり、家庭が未成年者にとって最初にお酒に触れる場所になりやすいことも、複数の公的調査から確認できます。この記事では、子どもが家庭内の飲酒をどう見ているか、未成年者飲酒禁止法が家庭に求めていること、そして「飲むか飲まないか」そのものより「どう見せ、何を伝えるか」という実務的な視点を、確認できた一次資料から整理します。
この記事の要点
- 中学生が飲酒する際の入手経路は「家にあるお酒」が最も多く、家庭は未成年飲酒の主要な接点になっている(厚生労働省)
- 月1回以上飲酒している中高生のうち2〜3割は親に飲酒を勧められた経験があり、女子の方がその割合が高いという調査結果がある(厚生労働省)
- 未成年者飲酒禁止法は、親権者に対して未成年者の飲酒を制止する義務を課している
- 中学生の頃から飲酒を始めた人は、18歳時点で問題のある飲酒行動に陥りやすい傾向が、10年追跡調査で示されている
- 飲むか飲まないかという選択自体を断罪する必要はなく、家庭でどう見せ、何をどう伝えるかを決めておくことが実務的な対応になる
子どもの前で飲むこと自体が問題なのか
まず整理しておきたいのは、成人が家庭内でお酒を飲むこと自体は、法律で禁止されている行為ではないという点です。断酒している家庭もあれば、日常的に晩酌をする家庭もあり、どちらが正しいという話ではありません。飲む頻度も量も飲み方も、家庭ごとに大きく異なります。お酒との向き合い方には、そもそも飲めない体質の人、飲めるけれど飲まない選択をしている人など、いくつかのパターンがあることをお酒との4つの向き合い方で整理しています。
この記事が扱うのは「飲む家庭は良くない」という断罪ではありません。子どもは親の飲む姿を通じて、お酒に対する最初のイメージを形づくっていきます。だからこそ、飲むか飲まないかという選択そのものより、その姿をどう見せ、何を伝えるかという部分に、家庭でできる工夫があります。
子どもは親の飲酒をどう見ているか — 家庭が「最初の接点」になる
厚生労働省が2023年9月に公表したリーフレット「こどもにお酒を飲ませてはいけない〜20歳未満の者の飲酒を防ぐために〜」は、中高生の飲酒実態に関する調査データを紹介しています。それによれば、中学生がお酒を入手する経路として最も多いのは「家にあるお酒」であり、もらう・コンビニなどの店舗・酒屋・自動販売機といった他の経路と比べても突出して高い割合を占めています。同資料は「家でこどもに晩酌を付き合わせる、正月など親戚が集まる席でこどもにお酒を飲ませている」といった場面が実際にあることを指摘し、家庭が未成年飲酒の入り口になりやすい構造があることを示しています。
同資料はさらに、月1回以上飲酒している中高生を対象にした調査として、飲酒をしている中高生の2〜3割が親に飲酒を勧められた経験があり、女子の方がその割合が高いという結果も紹介しています。「うちは特別ではない」と感じる家庭でも、正月や親戚の集まりといった特別な場面で、普段とは違う判断をしてしまうケースが少なくないことがうかがえます。
家庭内飲酒と未成年飲酒の関連 — わかっていること・断定できないこと
家庭内で親が飲む姿を見せることが、子どもの将来の飲酒行動に直接どう影響するかを、単一の要因として断定できる大規模な一次研究は、今回確認できませんでした。飲酒行動には家庭環境だけでなく、友人関係や本人の気質など複数の要因が関わるため、「親が飲めば子どもも必ずそうなる」と単純化することはできません。
一方で、家庭内の飲酒環境と未成年者本人の飲酒行動の関連をうかがわせるデータはあります。前述の厚生労働省リーフレットは、中学生の頃から飲酒を始めていた人を10年間追跡した調査を紹介し、18歳の時点で問題のある飲酒行動に陥っている人には、友達からの誘いを断れない、親に悩みを相談しないといった傾向が共通して見られたと述べています。また、厚生労働省健康局生活習慣病対策室が公表した資料(2010年)によれば、厚生労働科学研究補助金による全国調査で、中高生の飲酒実態をQ-Fスケール(飲酒の頻度と量の組み合わせ)で分類したところ、問題のある飲酒パターンに該当する割合は中学生で2.9%、高校生で11.3%だったとされています。これらは家庭内飲酒だけを原因とする数字ではありませんが、未成年のうちから始まる飲酒行動が、家庭という身近な環境と無関係ではないことを示す手がかりにはなります。
なお、時系列で見ると中高生の飲酒者割合そのものは1996年から2008年にかけて全学年で減少傾向にあることも、同資料のデータから確認できます。社会全体として未成年飲酒への意識が変化してきた流れの中に、各家庭の選択も位置づけられます。
法律が家庭に求めていること
日本には1922年に制定された「未成年者飲酒禁止法(現・20歳未満の者の飲酒の禁止に関する法律)」があります。この法律は20歳未満の者自身の飲酒を禁じているだけでなく、「親権者は未成年者の飲酒を制止しなければならない」ことも定めています。厚生労働省 e-ヘルスネットの解説でも、20歳未満の飲酒は脳の発達や骨の成長、内分泌系への影響が成人より大きく、若年者ほど血中アルコール濃度が上がりやすいため急性アルコール中毒や臓器への悪影響を起こしやすいとされています。
前述のリーフレットは、大人が家庭でできる工夫として次の3点を挙げています。「20歳未満の者の飲酒は絶対にいけない」と毅然とした態度をとること、少しくらいなら・正月だからと例外を作らないこと、そして飲酒がいけない理由(体や脳への影響、法律違反であること)を子どもにきちんと説明することです。理由を説明せずに「ダメだから」だけで終わらせるより、なぜダメなのかを伝える方が、子ども自身が納得して判断できるようになるとされています。
家庭内の場面別、見直しの視点
日常のさまざまな場面で、家庭内飲酒への向き合い方を少し見直せる余地があります。
| 場面 | ありがちな対応 | 見直しの視点 |
|---|---|---|
| 日常の晩酌に子どもが同席する | 特に説明せず、いつも通り飲む | 「これは大人だけが飲めるもの」と一言添える |
| 正月・親戚の集まり | 「せっかくだから一口だけ」と勧めてしまう | 親戚間でも「20歳未満はNO」の認識をそろえておく |
| 子どもがお酒を運ぶ・買い物を手伝う | 自然な家事の一環として頼む | 未成年者飲酒禁止法は保護者にも制止義務を課していることを踏まえ、飲む場面には関わらせない |
| 子どもに「なぜダメなの」と聞かれたとき | 「法律だから」で会話を終える | 脳や体への影響など、理由を具体的に伝える |
話ができる関係をつくる
前述のリーフレットは、こうした場面での対応を機能させる土台として、日頃から「話ができる関係」をつくっておくことの大切さも挙げています。子どもが親の言葉を素直に聞くためには、ふだんからのコミュニケーションが土台になり、いつもは話をしないのに頭ごなしに飲酒だけを禁じても、かえって反発を招きやすいとされています。ふだんから会話を重ね、子どもが親の考えを受け入れやすい関係を作っておくことが、飲酒についての説明を機能させる前提になります。
親自身の飲み方を振り返る視点
家庭内飲酒について考えることは、大人自身の飲み方を見直す機会にもなります。前述のリーフレットも「私たち大人の飲酒習慣を見直しましょう」という項目を設け、飲酒している中高生の一定数が親に飲酒を勧められて飲んでいるという現状に触れています。育児のストレスから寝かしつけ後の一杯が習慣になりやすい構造についてはワンオペ育児と寝かしつけ後のお酒で扱っていますが、その一杯を子どもがどう見ているかという視点も、あわせて持っておく価値があります。家にお酒を置かない・買い置きをしないという環境の工夫は家にお酒を置かない — 環境デザインで意志力に頼らない断酒・減酒で詳しく紹介しており、子どもの前での飲酒機会そのものを減らしたい場合の実践的な選択肢になります。
家庭内の飲酒が深刻な悩みになっている場合、その環境で育つ子どもがどのような影響を受けうるかについては、親が飲む家庭で育つとは — 子どもへの影響という視点で詳しく扱っています。
よくある質問
子どもの前で晩酌をすること自体はやめた方がいいですか?
晩酌をすること自体をやめる必要はありません。大切なのは、それが「大人だけができること」だと子どもに伝わっているかどうかです。特別な説明なくいつも当たり前に飲む姿だけが繰り返されると、子どもの中で「お酒は特に意識しなくていいもの」というイメージが固定されやすくなる可能性があります。
正月や親戚の集まりで「一口だけ」を許すのはよくないですか?
未成年者飲酒禁止法は、親権者に未成年者の飲酒を制止する義務を課しており、「一口だけ」であっても20歳未満の飲酒にあたります。厚生労働省のリーフレットも、正月だからと例外を作らないことを家庭でできる工夫として挙げています。親戚間で認識をそろえておくと、その場での判断に迷いにくくなります。
子どもに「なぜお酒はダメなの」と聞かれたら何と答えればいいですか?
「法律で決まっているから」だけで終わらせず、脳や骨の成長、内分泌系への影響が20歳以上の場合より大きいことなど、具体的な理由を伝えることが勧められています。理解したうえでの納得は、頭ごなしの禁止よりも子ども自身の判断につながりやすいとされています。
自分自身の飲酒量が心配になってきました。どこに相談できますか?
一人で抱え込む必要はありません。保健所・精神保健福祉センターには、本人だけでなく家族からの相談も受け付ける窓口があります。アルコール依存症の専門治療を行う医療機関を紹介してもらうこともでき、全日本断酒連盟やAA(アルコホーリクス・アノニマス)、アラノンといった民間の自助グループもあります。
まとめ
子どもの前でお酒を飲むかどうかに、家庭を越えた一律の正解はありません。ただし、中学生の飲酒経路として「家にあるお酒」が最も多いというデータや、飲酒している中高生の2〜3割が親に飲酒を勧められた経験があるという調査結果は、家庭が未成年飲酒にとって身近な接点になりやすいことを示しています。未成年者飲酒禁止法は親権者に飲酒を制止する義務を課しており、「毅然とした態度をとる」「理由を説明する」「日頃から話ができる関係をつくる」という工夫が、家庭でできる現実的な対応として挙げられています。飲むか飲まないかという選択そのものより、どう見せ、何を伝えるかを家庭で決めておくことが、子どもとの向き合い方を考えるうえでの実務的な出発点になります。
参考文献
- 厚生労働省「こどもにお酒を飲ませてはいけない〜20歳未満の者の飲酒を防ぐために〜」(2023年9月) https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000621732.pdf
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「20歳未満の者の飲酒」(2024年12月17日更新) https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/alcohol/ya-028.html
- 厚生労働省健康局生活習慣病対策室 遠藤光一「未成年者の飲酒実態について」(2010年公表、出典データ: 厚生労働科学研究補助金「未成年者の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」「未成年者の飲酒行動に関する全国調査報告書」) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/alcohol/sympo/dl/sympo09-0318a.pdf
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・心理療法上のアドバイスではありません。家族の飲酒に悩んでいる場合や、ご自身の心身の負担が大きいと感じる場合は、保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関・家族向けの自助グループなどへのご相談をご検討ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。