家族が本人の再飲酒(スリップ)に気づいた直後は、裏切られたような気持ちや強い不安から、つい問い詰めたり監視を強めたりしたくなりますが、そうした対決的な対応は本人の変化を後押しする効果が乏しいことが家族支援研究で示されています。断酒・減酒を決めた人への接し方が日常的な応援の基本姿勢を、再飲酒(スリップ)は失敗じゃないが本人向けの立て直し手順を扱ったのに対し、この記事は、家族が「また飲んでしまった」と知ったその瞬間に何を考え、何をすればいいかを、CRAFT(コミュニティ強化と家族訓練)など家族支援の枠組みにもとづいて整理します。
この記事の要点
- 再飲酒を知った直後に問い詰める・監視を強めるといった対決的な対応は、本人の変化を後押しする効果が乏しいとされています
- CRAFTという家族支援の枠組みは、対決ではなく家族自身の関わり方を変えることに重点を置いています
- 「あなたはまた飲んだ」ではなく「私は心配している」という伝え方が、対話の余地を残しやすいとされています
- 繰り返しが続く場合は、本人だけでなく家族自身が専門機関に相談してよい段階です
- 家族自身の生活と心身のケアを保つことが、長く本人に関わり続けるための土台になります
これは「見張る」役目ではない
最初に、この記事が扱う範囲をはっきりさせておきます。ここで想定しているのは、本人が断酒・減酒に取り組んでいる途中で再飲酒したことを、家族が知った直後の場面です。夫婦・パートナー間で日頃から飲酒への向き合い方に温度差がある場合の関係の作り方は夫婦・パートナーでお酒の温度差があるときで扱っており、この記事は、飲んでしまったという出来事に気づいた「その瞬間」に絞って整理します。
家族の役目は、本人の飲酒を見張り、失敗を見つけ出すことではありません。むしろ見張る姿勢が強まるほど、本人が隠れて飲むなど、逆方向の行動を誘発しやすくなることが依存症支援の文脈では指摘されています。この記事で扱うのは、見張ることに代わる関わり方です。
「また飲んでしまった」と知った直後に湧く感情は、自然なものです
再飲酒を知った瞬間、怒り・失望・不安・恐怖といった感情が一気に湧き上がるのは、家族として自然な反応です。「あれだけ頑張っていたのに」「また同じことが起きるのでは」という思いは、本人を大切に思っているからこそ生まれるものであり、その感情自体を否定する必要はありません。
大切なのは、その感情が湧いた瞬間に、そのまま本人にぶつけないことです。感情がまだ強く動いている状態で言葉を発すると、問い詰める・責めるといった対決的な伝え方になりやすくなります。一呼吸置いて自分の感情を整理してから本人と向き合う、というワンクッションが、この後の対応を大きく左右します。
責める・問い詰める対応が、なぜ逆効果になりやすいか
心理学者ウィリアム・ホワイトとウィリアム・ミラーによる2007年のレビュー論文は、説教や正論をぶつけるといった対決的なアプローチについて、40年間の研究を振り返っても治療効果を示す説得力ある証拠は見つかっておらず、むしろ関係の悪化や本人の脱落を招く報告があると指摘しています。再飲酒を知った直後に「やっぱりね」「だから言ったでしょう」と責める言葉を向けることも、この対決的な働きかけの一つに当たります。
本人側の要因としては、再発予防研究の整理で、スリップの原因を自分の意志の弱さや人間性の欠陥に帰属させ、強い罪悪感を抱くことが、そのまま断酒目標を手放す方向に働きやすいという「どうにでもなれ効果(abstinence violation effect)」が知られています。家族からの言葉かけがこの自責の感覚を強めるか和らげるかに影響しうると考えられ、責める対応は、本人がもともと抱えている自責の念に追い打ちをかける形になりやすいと言えます。
CRAFTの考え方を、再飲酒の場面に当てはめると
対決の効果が乏しい一方、家族側の対応スキルを変えることで本人の変化を後押しできるという研究知見があります。それがCRAFTです。心理学者ロバート・J・マイヤーズ博士らが開発したこの家族向けプログラムは、対決するのではなく、家族が対応スキルを学び、飲んでいない時間のポジティブな交流を増やすことに重点を置きます。愛知県依存症治療拠点機関が示す関わり方の要点を、再飲酒の場面に当てはめると、次のように整理できます。
| CRAFTの要素 | 再飲酒の場面での当てはめ方 |
|---|---|
| 安全の確保 | 感情的な対立が激しくなりそうなときは、まず自分と周囲の安全を優先する |
| 伝え方の見直し | 「あなたは」ではなく「私は」を主語にした伝え方に切り替える |
| 望ましい行動を認める | 再飲酒そのものより、その後で本人が見せた小さな立て直しの動きに気づく |
| 世話を焼きすぎない | 飲酒の後始末を肩代わりすることは、かえって同じ状態を続けやすくする |
| 家族自身の生活を保つ | 家族自身の楽しみや人間関係を、本人の状態に振り回されすぎず維持する |
| 相談・治療のタイミングを活かす | 本人が動揺しているときこそ、相談窓口の情報をさりげなく伝える機会にもなる |
心理学者ウィリアム・R・ミラーらによる1999年の比較研究では、アルコール問題を抱える人の家族など130名を対象に、CRAFT・アラノン式のファシリテーション・対決的介入の3グループを比較したところ、本人を治療に導入できた割合はCRAFT群64%、アラノン群13%、対決型のグループ30%でした。この研究は本人を治療につなげられたかどうかを測ったものであり、日常の再飲酒対応そのものを検証したものではありませんが、対決するより家族の関わり方を変えるほうが本人によい変化をもたらしやすいという方向性は、再飲酒の場面にも参考になります。
何と言えばいいか — 「あなたは」ではなく「私は」で伝える
再飲酒に気づいた直後にどう声をかけるかで、その後の対話が続くかどうかが変わります。
| 言いがちな言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 「また飲んだの?もう信じられない」 | 「気づいたよ。責めるつもりはないけど、心配している」 |
| 「だから言ったでしょう」 | 「今、何が一番しんどかったのか、話せそうなら聞かせてほしい」 |
| 「二度としないって約束して」 | 「次に同じ状況になったとき、何か手伝えることはある?」 |
| 「もうどうでもいい」 | 「一回のことで、これまでの積み重ねが消えるわけじゃないと思っている」 |
「あなたも」「あなたは」から始まる言葉は、相手の失敗を指摘するメッセージとして受け取られやすくなります。代わりに「私は」を主語にして、自分がどう感じているかを伝える言い方のほうが、本人にとって防御的にならずに聞ける言葉になりやすいとされています。
繰り返しが続くとき
再飲酒が一度きりではなく繰り返される場合、本人側で何が起きているのかについては何度もスリップを繰り返してしまうときで、負の感情状態・対人葛藤・社会的圧力といった高リスク状況の研究をもとに整理しています。家族としては、繰り返しのたびに一喜一憂して対応を変えるより、パターンが見えてきた段階で、本人と一緒に、あるいは家族だけでも専門機関に相談することを検討する段階だと捉えるとよいでしょう。依存症対策全国センターは、家族に対して、本人が受診してから動くのではなく、まず家族自身が外に助けを求めることを勧めています。
家族自身のケアを忘れないこと
再飲酒への対応が続くと、家族自身の生活や心身が後回しになりがちです。愛知県依存症治療拠点機関も、家族自身の生活を豊かに保つことが、本人への対応を続けるうえでも欠かせないと説明しています。本人の状態に一喜一憂しすぎず、自分自身の予定や人間関係、休息の時間を保つことは、後ろめたく思う必要のない、正当な自己防衛です。
家族だけで抱え込む必要もありません。精神保健福祉センターや保健所には家族向けの相談窓口があり、アラノンや断酒会の家族部門といった自助グループでは、同じ立場の家族同士で経験を分かち合うことができます。本人がまだ動かない段階でも使える窓口の全体像は家族がお酒の相談をするには?にまとめています。
よくある質問
すぐに問い詰めてしまいました。もう手遅れですか?
手遅れではありません。とっさに感情的な言葉が出てしまうことは誰にでも起こります。大切なのは、それに気づいた時点で、次の機会からは一呼吸置いて向き合う姿勢に切り替えることです。一度の対応がすべてを決めるわけではありません。
「もう二度と飲まない」と約束させるのは効果がありますか?
強い言葉で約束させることは、その場では安心につながるように感じられますが、本人にとって新たなプレッシャーになり、守れなかったときの自責を深める可能性があります。約束を迫るより、次に同じ状況になったときどう対処するかを一緒に考えるほうが、現実的な備えになります。
自分も一緒に落ち込んでしまいます。おかしいですか?
おかしいことではありません。大切な人の再飲酒に心を動かされるのは自然な反応です。ただし、その落ち込みを一人で抱え続ける必要はなく、精神保健福祉センターや家族向けの自助グループなど、家族自身が相談できる窓口を使ってよいということも知っておいてください。
何度も繰り返される場合、家族はどこまで付き合えばいいですか?
家族が際限なく対応し続けることを求められているわけではありません。繰り返しのパターンが見えてきたら、家族だけで対応を続けるのではなく、専門機関に相談し、家族としてどこまで関わり、どこから専門的な支援に委ねるかを一緒に整理していくことが現実的です。
まとめ
家族が本人の再飲酒を知った直後は、怒りや不安が湧くのが自然な反応ですが、問い詰める・監視を強めるといった対決的な対応は、本人の変化を後押しする効果が乏しいことが研究で示されています。CRAFTという家族支援の枠組みは、対決ではなく家族自身の関わり方を変えることに重点を置き、比較研究でも対決型より高い確率で本人によい変化をもたらしたという結果が出ています。「あなたは」ではなく「私は」で伝えること、繰り返しが続く段階では専門機関への相談を検討すること、そして家族自身の生活と心身のケアを保つこと。この3つが、家族が長く本人に関わり続けるための土台になります。
参考文献
- Miller, W.R., Meyers, R.J., & Tonigan, J.S. (1999). "Engaging the unmotivated in treatment for alcohol problems: A comparison of three strategies for intervention through family members." Journal of Consulting and Clinical Psychology, 67(5), 688-697. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10535235/
- White, W.L. & Miller, W.R. (2007). "The Use of Confrontation in Addiction Treatment: History, Science, and Time for Change." Counselor, 8(4), 12-30.
- Larimer ME, Palmer RS, Marlatt GA. "Relapse Prevention: An Overview of Marlatt's Cognitive-Behavioral Model." Alcohol Research and Health, 1999. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6760427/
- 愛知県依存症治療拠点機関(アルコール健康障害)「関わり方のヒント」 https://addiction-aichi.jp/alcohol/hint/
- 依存症対策全国センター「ご家族の方へ」 https://www.ncasa-japan.jp/you-do/other/for-family
- 特定非営利活動法人ASK「アルコール依存症 相談先一覧」 https://www.ask.or.jp/article/6489
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・心理療法上のアドバイスではありません。家族の飲酒に悩んでいる場合や、ご自身の心身の負担が大きいと感じる場合は、保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関・家族向けの自助グループなどへのご相談をご検討ください。