断酒中に再びお酒を飲んでしまうことは、依存症の回復臨床でも「よくある出来事」として扱われています。重要なのは、それを「失敗」として終わらせるかどうかではなく、その後どう受け止め、どう立て直すかです。この記事では、再飲酒(スリップ)にまつわる用語の整理、自分を責めてしまう心理メカニズム、そして具体的な立て直しの手順を、一次資料をもとに整理します。

この記事の要点

  • 再飲酒(スリップ)は依存症回復の臨床でも想定内の出来事とされており、それ自体が「治療の失敗」を意味するわけではありません
  • 「どうにでもなれ効果」という心理メカニズムにより、自分を責めるほど飲酒が長引きやすいことが知られています
  • 気づいた時点で飲酒を止める、状況を記録する、ルールを立て直すという3ステップが立て直しの基本です
  • 繰り返す場合は、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関、減酒外来への相談を検討してください

スリップ・ラプス・リラプスの違いは?

依存症の臨床では、再飲酒を一律に「再発」として扱うのではなく、段階を分けて捉えます。国立病院機構久里浜医療センターが運営する依存症情報サイトでは、スリップを「お酒、薬物、ギャンブルをやめている最中に、極一時的に、再び使用してしまうこと」と説明し、これを放置してそのまま使用を続けてしまう状態と明確に区別しています。

米国の依存症研究でも同様に、「lapse(初期の逸脱)」と「relapse(統制されない飲酒への回帰、または断酒目標そのものの放棄)」は区別されており、lapseがrelapseに至るリスクを高めることは示されているものの、その進行は必然ではないと整理されています。

用語意味具体例
スリップ / lapse断酒中に一時的に飲んでしまう、単発の出来事飲み会で1杯飲んでしまった
リラプス / relapseスリップが放置され、断酒目標を手放して元の飲酒状態に戻ること数日〜数週間、以前と同じ量を飲み続けている
ドライドランク飲酒はしていないが、考え方や生活パターンが飲酒していた頃のまま戻っている状態断酒はしているが、イライラや孤立感が強く不安定

つまり、1回飲んでしまったことと「断酒の失敗」はイコールではありません。その後どう対応するかによって、スリップで留まるか、リラプスに進んでしまうかが分かれます。

なぜ「もう終わりだ」と思ってしまうのか

スリップの直後に「どうせ自分はダメだ」「もう断酒は無理だ」と考え、そのまま飲酒量が元に戻ってしまう現象は、依存症の再発予防研究において「どうにでもなれ効果(abstinence violation effect)」と呼ばれています。心理学者G. アラン・マーラットらの再発予防モデルによると、この効果は次の2つの反応によって引き起こされるとされています。

  1. 内的帰属: スリップの原因を「自分の意志の弱さ」「自分という人間の欠陥」など、状況ではなく自分自身に帰属させてしまう
  2. 罪悪感・絶望感: その帰属によって強い罪悪感が生まれ、対処する気力そのものが失われる

この2つが重なると、1回の飲酒が「自分はもうダメだ」という結論にすり替わり、そのまま断酒目標を放棄してしまいやすくなります。同モデルは、スリップを「意志の弱さの証拠」ではなく「対処スキルと状況要因の相互作用から生じた、修正可能な学習機会」として捉え直す認知の再構成が、この悪循環を断ち切るうえで有効だとしています。

再飲酒に気づいたら、まず何をすればいい?

久里浜医療センターの案内では、スリップへの対応として次のようなステップが挙げられています。

  1. その場で飲酒をやめる: 「もう1杯だけ」を重ねず、気づいた時点で断酒を再開する
  2. 専門家や理解のある支援者に状況を伝える: 一人で抱え込まず、支援を借りながら立て直す
  3. 原因を振り返る: どんな場面・感情がきっかけだったかを特定し、今後の対策につなげる

これに加えて、断酒を続けている人が実際に使いやすい行動として、次の2つを組み合わせておくと立て直しやすくなります。

なお、断酒の途中には身体的・心理的にきつい時期があることも知られています。スリップが起きやすいタイミングについては断酒は何日目がきつい?山場と乗り越え方も参考にしてください。

トリガーを記録し、ルールを立て直す

スリップの振り返りで見えてきたトリガーは、そのままにせず、次の断酒・減酒のルールに反映させることが立て直しの核心です。たとえば「疲れた金曜の夜に、誘われると断れない」というパターンが見えたなら、金曜の夜の過ごし方や、誘いを受けた時の返答を事前に決めておくといった具合です。

ゼロか百かで考えて「もう二度と失敗しない完璧なルール」を目指す必要はありません。むしろ、続けやすい単位でルールを作り直すほうが実際には機能しやすいとされています。ルールの立て直し方についてはゼロにしない減酒術 — 続けられる7つのルール、断酒が続かない典型パターン全般については断酒が続かない7つの共通点と対策で詳しく扱っています。

自分を責めることは、なぜ逆効果なのか

前述の「どうにでもなれ効果」が示す通り、罪悪感や自己嫌悪はスリップからリラプスへの進行を後押しする方向に働きます。この点については、自分への思いやり(セルフ・コンパッション)を対置する研究も進んでいます。

ギリシャの薬物依存症回復プログラム参加者150名(平均年齢47.75歳)を対象にした2025年の横断研究では、セルフ・コンパッションの高さが情動調節の困難さ(r = -.552)や心理的苦痛(r = -.530)と負の相関を示し、セルフ・コンパッションが心理的苦痛の有意な予測因子になることが報告されています。研究者らは、回復プログラムにセルフ・コンパッションを高める介入を組み込むことが、再発予防や長期的な回復を支える可能性を示唆しています。

ただし、この研究はポリ薬物使用者を含む横断的な相関研究であり、アルコール依存に限定したものでも、因果関係を証明したものでもない点には注意が必要です。とはいえ、「自分を責め続けること」自体が回復にプラスに働くという知見は見当たらず、少なくとも自責を重ねるより、状況を振り返って次の対策を考えるほうが、立て直しには建設的だと言えます。

何度も繰り返すときは、専門機関に相談を

自己流の立て直しを何度試しても再飲酒を繰り返す場合や、飲酒量・頻度が増えている、離脱症状(手の震え・発汗・不眠など)を感じるといった場合は、意志の力だけで対応しようとせず、専門機関に相談することをおすすめします。SHIRAFUが提案する仕組みや工夫は、あくまで軽度の飲酒習慣の見直しを想定したセルフケアの範囲であり、医療的な治療を代替するものではありません。

相談先としては、以下のような窓口があります。

どの窓口も、「意志が弱いから」ではなく回復のプロセスの一部として利用してよいものです。本記事は医療アドバイスを目的としたものではなく、診断や治療の判断は必ず医療専門家に相談してください。

よくある質問

再飲酒したら、もう断酒はやり直せない?

やり直せます。臨床の整理でも、スリップ(一時的な再飲酒)とリラプス(断酒目標を手放して元の飲酒状態に戻ること)は区別されており、気づいた時点で断酒を再開すればスリップで留めることができます。

自分を責めることは回復に必要ないのか?

研究上、罪悪感や自己嫌悪はむしろ再飲酒の悪化につながりやすい方向に働くとされています。自分を責める時間があれば、トリガーの振り返りとルールの立て直しに使うほうが建設的です。

何回目のチャレンジで断酒に成功する人が多い?

米国の全国調査を分析した研究では、アルコールや薬物の問題を解決するまでの試行回数は平均5.35回、中央値は2回だったと報告されています。日本国内での同様の統計は確認できていませんが、複数回の再挑戦は珍しいことではないと考えてよいでしょう。

減酒外来と精神保健福祉センターはどう違う?

減酒外来は医療機関の診療科の一つで、飲酒量を減らすことを目標にした治療・カウンセリングを受けられます。精神保健福祉センターは行政機関で、相談や情報提供、地域の医療機関・自助グループの紹介を行う窓口です。まず相談したい場合はどちらから始めても構いません。

まとめ

再飲酒(スリップ)は、依存症回復の臨床でも想定内の出来事として扱われており、それ自体が断酒の失敗を意味するわけではありません。分かれ目になるのは、飲んでしまった後にどう対応するかです。気づいた時点で飲酒を止め、状況を記録してトリガーを特定し、ルールを立て直す。そして自分を責めるのではなく、次にどうするかを考える。この積み重ねが、断酒・減酒を長く続けていくための現実的な立て直し方です。何度も繰り返す場合や、離脱症状を感じる場合は、一人で抱え込まず専門機関に相談してください。

参考文献

本記事は医療アドバイスを目的としたものではありません。飲酒量や離脱症状に不安がある場合は、医療専門家にご相談ください。