ここ数年、「飲まない・飲めない」を語るための言葉が急に増えました。スマドリ、ソバーキュリアス、微アル、ゲコノミクス——似ているようで指しているものは違います。この記事では、企業の公式発表や書籍の初出、業界団体の基準など確認できる一次資料をもとに、13の新語を「誰が・いつ・何のために作った言葉か」という観点で整理します。用語に優劣をつけることはせず、事実だけを中立に並べます。

この記事の要点

  • 「スマドリ」はアサヒビールと電通デジタルが2022年1月5日に設立した合弁会社「スマドリ株式会社」が使う「スマートドリンキング®」の略称で、特定企業の事業ブランド名です
  • 「ソバーキュリアス」は英国人ジャーナリスト、ルビー・ウォリントン氏が2018年の著書で提唱した個人の飲酒観を表す言葉で、企業発の言葉ではありません
  • 「微アル」「ローアル」「ノンアル」はアルコール度数の呼び分けですが、酒税法上の線引きは「1%未満か以上か」の一点のみで、それより細かい区分は業界慣行です
  • 「ゲコノミクス」は投資家・藤野英人氏が2020年の著書で提唱した市場用語で、「飲まない人向け市場」を経済規模として語るための概念です

用語が次々に生まれている背景

新語が増えている理由の一つは、飲む・飲まないを語る言葉が「我慢」か「下戸」の二択しかなかったところに、企業・書籍・海外発の運動という3つの異なる出所から新しい語彙が同時に流れ込んできたことにあります。日本の若い世代の飲酒率の変化そのものについてはZ世代はなぜ飲まないのか|国内外データで読む酒離れで扱っていますが、この記事ではその変化を語るための「言葉」に焦点を当てます。

スマドリとは何の略?なぜ広がった?

「スマドリ」は「スマートドリンキング®」の略称です。アサヒビール株式会社と株式会社電通デジタルが2022年1月5日に設立した合弁会社「スマドリ株式会社」(資本金1,000万円、出資比率はアサヒビール51%・電通デジタル49%)が、この理念のもとで事業を展開しています。同社は「飲める人・飲めない人、飲みたい時・あえて飲まない時、それぞれが自分に合った選択をできる社会」を掲げています。

象徴的な取り組みが、2022年6月30日に渋谷センター街に開業した体験施設「SUMADORI-BAR SHIBUYA」です。アルコール度数0.00%・0.5%・3.0%の飲料を100種類以上そろえ、来店客が自分の気分に合わせて度数を選べる仕組みになっています。同施設は渋谷区・渋谷未来デザインと連携する「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」の拠点でもあり、2025年12月の発表では2026年春に表参道へ移転する計画も示されています。

ここで押さえておきたいのは、「スマドリ」は一般的な生活習慣用語ではなく、特定企業グループの事業ブランド名だという点です。用語としての知名度と、飲酒観そのものの変化は分けて理解する必要があります。

ソバーキュリアスとソバキュリの違いは?

「ソバーキュリアス(Sober Curious)」は、英語の「sober(しらふの)」と「curious(好奇心旺盛な)」を組み合わせた造語です。英国人ジャーナリストのルビー・ウォリントン氏が2018年に刊行した著書『Sober Curious: The Blissful Sleep, Greater Focus, Limitless Presence, and Deep Connection Awaiting Us All on the Other Side of Alcohol』(HarperOne刊)のタイトルとして初めて広く使われました。日本語版『飲まない生き方 ソバーキュリアス』は2021年に刊行されています。

ウォリントン氏自身の説明では、この概念は「飲む・飲まない」の二択ではなく、「なぜ自分は飲むのか」を問い直す姿勢を指します。断酒プログラムのような「全か無か」のアプローチとは異なり、グレーゾーンを認める点が特徴です。詳しい考え方はソバーキュリアスとは?意味・始め方・日本で広がる理由で解説しています。

「ソバキュリ」はこの言葉の日本語での略称で、実践者は「ソバキュリアン」と呼ばれることもあります。SNS上では英語圏で「#sober」のハッシュタグとともに広がった経緯があり、日本でも同様に省略形での使用が定着しつつあります。スマドリが企業発の言葉であるのに対し、ソバーキュリアス/ソバキュリは個人のライフスタイルを表す言葉として生まれた点が対照的です。

微アル・ローアル・ノンアルは何が違う?

アルコール度数を表す言葉は3つありますが、法律上明確に区分されているのは「1%」の一点だけです。日本の酒税法は「アルコール分1度(1%)以上の飲料」を酒類と定義しており、それ未満は法律上すべて清涼飲料水として扱われます。この一点を踏まえたうえで、業界での呼び分けは次のようになっています。

用語目安の度数酒税法上の扱い由来・出典
微アル0.00%超〜1%未満(各社で幅あり)酒類に該当しないアサヒビールが「アサヒ ビアリー」発売時に打ち出したカテゴリー名。サッポロビールは公式FAQで「0.00%超1%未満」と定義
ローアル(低アル)通常のビール(4〜7%程度)より低い度数の総称。明確な業界基準はない度数により酒類/非酒類が分かれる業界内の通称。統一定義は確認できず
ノンアル業界自主基準で0.00%(20歳以上向け商品)酒類に該当しない業界団体の自主基準。「0.00%」は分析技術上の検出限界以下を意味し、単純な四捨五入ではない

一般社団法人日本ノンアルコールビール協会によれば、国内でアルコール分0.00%を実現した国産第一号は2009年発売のキリン「キリン フリー」です。世界的には1979年にドイツのBinding-Brauerei社が発売した「クラウスターラー」が実質的にアルコール0%を実現した先駆けとされています。

なお、ノンアルコール飲料は酒税法上は酒類ではないものの、20歳未満の飲酒防止という観点から、業界は一貫して「20歳以上向け」の表示・販売慣行を維持しています。微アル・ローアルを含む低アルコール帯の商品も同様の配慮のもとで展開されています。詳しい選び方は微アル(0.5%)とは?でも扱っています。

モクテルとゼロプルーフ、呼び方はなぜ分かれる?

「モクテル(mocktail)」は英語の「mock(模した)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語で、カクテルを模したノンアルコール飲料を指します。イギリス発祥の言葉とされ、日本でもノンアルコールカクテル全般を指す言葉として定着しています。基本のレシピはモクテルとは?家で作れる定番レシピで紹介しています。

一方で、この呼び方には異論もあります。「mock」には「模造する・見下す」という含意もあるため、一部のバーテンダーは「カクテルの劣化版」というニュアンスを嫌い、代替語として「ゼロプルーフ(zero-proof)」を使う動きがあります。「プルーフ」はアルコール度数を表す単位に由来する語で、「ゼロプルーフ」は度数ゼロであることをそのまま示す名称です。模倣品としてではなく、独立したドリンクのカテゴリーとして位置づけたいという狙いがあると紹介されています。

もう一つ、飲む行為そのものへの向き合い方を表す言葉に「マインドフルドリンキング」があります。「マインドフル(心を今この瞬間に向ける)」と「ドリンキング(飲む行為)」を組み合わせた言葉で、イギリスを中心に広まった考え方です。度数や種類ではなく、「何をどう感じながら飲むか」に意識を向ける飲み方を指します。

ドライジャニュアリーとDamp Januaryはどう違う?

「ドライジャニュアリー(Dry January)」は、1月の1ヶ月間、完全に飲酒をしないチャレンジです。個人的なきっかけは2011年、英国のエミリー・ロビンソン氏がハーフマラソン出走のトレーニングとして1月の禁酒を始めたことにさかのぼります。これが英国の団体アルコール・コンサーン(現・Alcohol Change UK)に伝わり、2013年に約4,000人参加の正式なキャンペーンとして立ち上げられました。「Dry January」は2014年に商標登録されており、Alcohol Change UKによれば2025年には20万人以上が参加したとされています。

これに対して「Damp January(ダンプジャニュアリー)」は、完全断酒ではなく「普段より飲酒量を減らす」ゆるやかな版を指す言葉です。「dry(乾いた=断酒)」に対して「damp(湿った=控えめ)」という対比で名づけられており、2013年頃からは「ドライジャニュアリーに失敗した状態」を指す言葉として、2010年代半ば以降は「よりハードルの低い代替チャレンジ」を指す言葉として使われるようになりました。これを1月に限らず年間を通じた飲酒量の見直しに広げた考え方は「Damp lifestyle」と呼ばれています。

ゲコノミクスとは何の造語?

「ゲコノミクス」は、レオス・キャピタルワークス社長・最高投資責任者の藤野英人氏が2020年5月に日経BPから刊行した著書『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』で提唱した造語です。「下戸(げこ)」と「エコノミクス(経済学)」を組み合わせた言葉で、お酒を飲まない・飲めない・飲みたくない人々を経済活動の担い手として捉える視点を指します。

同書および紹介記事(日経クロストレンド)では、国内の酒類市場規模を約3兆円と見積もったうえで、そのうち1割程度を「飲まない人向け市場」として開拓できれば3,000億円規模になるという試算が示されています。藤野氏はこの市場の担い手となる、お酒を飲まない・飲めない人々を「ゲコノミスト」と呼んでいます。スマドリやゲコノミクスはどちらも「飲まない人」を経済・事業の対象として捉える発想ですが、スマドリが特定企業の事業ブランドであるのに対し、ゲコノミクスは投資家個人が提唱した市場分析の概念という違いがあります。

新語 早見表

ここまで紹介した用語を、由来・出所ごとに一覧にまとめます。

用語由来・初出出所の性質
スマドリ(スマートドリンキング)スマドリ株式会社(アサヒビール×電通デジタル、2022年1月設立)企業の事業ブランド
ソバーキュリアスルビー・ウォリントン著書(2018年)個人(ジャーナリスト)発のライフスタイル観
ソバキュリソバーキュリアスの略称SNS上で定着した略語
微アルアサヒビールが「アサヒ ビアリー」発売時に提唱企業発のカテゴリー名
ローアル(低アル)業界内の通称。統一定義なし業界慣行
ノンアル業界自主基準(0.00%・20歳以上向け)業界団体の自主基準
モクテル英語圏(イギリス)発の造語一般語
ゼロプルーフバーテンダー業界での代替表現業界内の通称
マインドフルドリンキングイギリス発の飲酒観の呼び名一般語・ムーブメント
ドライジャニュアリーエミリー・ロビンソン氏の個人体験(2011年)→Alcohol Change UK正式キャンペーン化(2013年)非営利団体の公式キャンペーン
Damp January / Damp lifestyleDry Januaryの派生語(2010年代)一般語
ゲコノミクス藤野英人氏の著書(2020年)個人(投資家)発の市場概念
ゲコノミスト『ゲコノミクス』内で定義された担い手の呼称同上

SHIRAFUの視点: 言葉の出所を知ると、選びやすくなる

新語の多くは、実は「誰が何のために作った言葉か」がはっきりしています。企業が事業のために作った言葉(スマドリ、微アル)、個人が飲酒観を言語化するために作った言葉(ソバーキュリアス、ゲコノミクス)、非営利団体が行動変容キャンペーンとして作った言葉(ドライジャニュアリー)——出所が違えば、その言葉が指しているものも少しずつ違います。

私たちは、これらの言葉のどれが正しい・優れているという立場は取りません。大切なのは、自分の状況や気分に合った言葉を、状況に応じて使い分けられることだと考えています。「今日はゼロプルーフの気分」「今月はDamp Januaryくらいで」——そうした語彙の選択肢が増えること自体が、飲まない夜を選びやすくする一歩になるはずです。

よくある質問

スマドリとソバーキュリアスは同じ意味ですか?

異なります。スマドリはアサヒビールと電通デジタルが設立した企業「スマドリ株式会社」が展開する事業ブランド名です。ソバーキュリアスは2018年に英国人ジャーナリストのルビー・ウォリントン氏が著書で提唱した、個人の飲酒観を表す言葉です。出所も指すものも異なります。

微アルとノンアルは何が違いますか?

どちらも酒税法上は「酒類ではない」(アルコール分1%未満)という点では共通していますが、業界の自主基準では「ノンアル」は0.00%(検出限界以下)を指し、「微アル」は0.00%を超えて1%未満の度数帯を指す言葉として使い分けられています。

ゲコノミクスとゲコノミストの違いは?

「ゲコノミクス」は藤野英人氏の著書で提唱された、飲まない人向け市場を捉える概念全体を指す言葉です。「ゲコノミスト」は同書内で、その市場の担い手であるお酒を飲まない・飲めない人々を指す呼称として使われています。

ドライジャニュアリーはいつから始まりましたか?

個人のきっかけは2011年にさかのぼりますが、団体による正式なキャンペーンとしては2013年にAlcohol Change UK(当時Alcohol Concern)が約4,000人規模で立ち上げたのが始まりです。「Dry January」の名称は2014年に商標登録されています。

参考文献

※本記事のデータは2026年7月時点で確認した公開資料に基づきます。最新値は各出典をご確認ください。