「経営者たるもの、酒の席で人脈を築くべきだ」という考え方は、いまも根強く残っています。しかし公開情報を追っていくと、意図的に、あるいは体質的に「飲まない」を選び続けている経営者は決して少数派ではありません。海外ではDonald Trump氏やWarren Buffett氏、日本国内でも編集者でコルク代表の佐渡島庸平氏など、実名で発言を確認できる例があります。この記事では、こうした公開情報で確認できる事実だけを取り上げ、「飲まない選択」が経営者の時間やパフォーマンスとどう関わっているのかを、断定を避けながら整理します。
この記事の要点
- Donald Trump氏、Warren Buffett氏など、飲酒しない理由を自らの言葉で語っている海外の経営者・著名人がいます(出典明記)
- 日本ではコルク代表・佐渡島庸平氏が、睡眠データをきっかけに「気づいたら禁酒していた」という経緯を公言しています
- 投資家・藤野英人氏が提唱する「ゲコノミクス」は、飲まない人向け市場を約3,000億円規模と試算しています(2020年時点の推計)
- 経営者550人を対象にした調査では、約半数が重要な会食で飲酒量を調整すると回答しています
- 「飲まない」と「経営に有利」を直接結びつける確立したエビデンスはなく、本記事はあくまで公開情報の整理と考察にとどめます
なぜいま「飲まない経営者」が注目されるのか
会食や接待が意思決定と結びつきやすい日本のビジネス文化のなかで、「飲まない」という選択は長らく異色とされてきました。しかし近年、この前提を問い直す動きが目立ちます。
投資家でレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人氏は、著書『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日経BP、2019年)のなかで、日本の成人の半数以上が「お酒を飲まない・飲めない・ほとんど飲まない・やめた」人であり、この層に向けた商品・サービス市場がほぼ手つかずであると指摘しています。日経ビジネスの取材(2020年2月14日)によれば、藤野氏はビール市場約3兆円のうち1割が非飲酒者向けに開拓されるだけでも3,000億円規模の市場になると試算しています。これは藤野氏自身の飲酒習慣についての言及ではなく、「飲まない人」をターゲットにした市場機会の推計である点には注意が必要です。
こうした市場の変化を背景に、経営者自身が「飲まない」ことを公にするハードルも下がりつつあります。次章からは、公開情報で発言や経緯が確認できる実例を見ていきます。
世界の経営者・著名人 — 公開情報で確認できる実例
海外では、飲酒しない理由を本人が明確に語っている著名な経営者・政治家がいます。ここでは信頼できる報道・インタビューで発言が確認できた人物のみを取り上げます。
Donald Trump氏(米大統領・実業家) は、自身が一切飲酒しない理由について複数のインタビューで語っています。兄のFred Trump Jr.氏がアルコール依存症に苦しみ42歳で亡くなったことを受け、「酒は絶対に飲むな。好きになりすぎるから」と兄から繰り返し忠告されたことが理由だと述べています(Theo Von氏のポッドキャストでの発言、2025年10月、UNILAD報道)。1976年以降、一滴も飲んでいないとされています。
Warren Buffett氏(バークシャー・ハサウェイ会長) も、生涯を通じて一度もアルコールを口にしたことがないと繰り返し語っています。代わりに1日5缶のチェリーコークを愛飲していることで知られ、株主総会では「体は一生に一つしか手に入らない乗り物だから大切に扱う」という趣旨の説明をしています(Yahoo Finance、CNBC等の報道)。
いずれも「経営の成功と非飲酒に因果関係がある」ことを示す資料ではなく、あくまで本人が公言している個人の選択である点を踏まえて読む必要があります。
日本の経営者たち — 公開情報で確認できる実例
日本国内でも、実名と経緯が確認できる例があります。
佐渡島庸平氏(株式会社コルク代表取締役社長) は、マンガ編集者としても知られる経営者です。PRESIDENT Onlineの取材(2021年9月16日)によれば、佐渡島氏はスマートウォッチ(Fitbit)で毎晩の心拍数と睡眠スコアを記録するなかで、飲酒が睡眠の質を下げているという相関に気づきました。食事の最初だけ飲む、長風呂をする、就寝前に水分を摂るなど複数の対策を試したものの改善せず、最終的に飲酒そのものをやめたところ数値が大きく改善したといいます。本人は「禁酒するつもりはまったくなかった」と述べており、意図的な断酒というより、データに基づく結果的な選択だったことが特徴です。この「飲酒と睡眠の質」という関係は、前夜の一杯が集中力を奪うで扱ったアルコールと翌日の認知機能低下の研究知見とも重なります。
柳慎太郎氏(カクシングループ代表取締役社長・3代目経営者) は、自身のブログ(2017年6月14日公開)で「ビールを2口飲んだだけで顔が真っ赤になり、心臓がバクバクする」体質であることを公言しています。完全に飲まないわけではなく、飲み会では乾杯後に梅酒ソーダ割りに切り替え、量もおおむね2杯程度に留めているとのことです。同氏は「社長はお酒が飲めなくてはいけない」という思い込みを手放したと述べており、年間40回以上の公式な飲み会を、飲めない体質のまま主催し続けています。酔って記憶をなくすほど飲まないため、会話の内容をよく覚えていられることも利点として挙げています。
両者に共通するのは、「飲めない・飲まない」ことを弱みとして隠すのではなく、経営スタイルの一部として公言している点です。
事例のまとめ
| 人物 | 立場 | 飲酒状況 | 出典 |
|---|---|---|---|
| Donald Trump氏 | 米大統領・実業家 | 一切飲まない(1976年以降) | Theo Vonポッドキャスト(2025年)、UNILAD等の報道 |
| Warren Buffett氏 | バークシャー・ハサウェイ会長 | 生涯一滴も飲んだことがない | Yahoo Finance、CNBC等の報道 |
| 佐渡島庸平氏 | 株式会社コルク代表取締役社長 | 睡眠データをきっかけに禁酒 | PRESIDENT Online(2021年9月16日) |
| 柳慎太郎氏 | カクシングループ代表取締役社長 | 体質的にほぼ飲めず、少量に調整 | 本人ブログ(2017年6月14日) |
経営者全体では、飲酒への向き合い方はどう変わっているか
個別の実例だけでなく、経営者を対象にした調査データも変化を示しています。保険会社IDEAL少額短期保険が経営者550人を対象に実施した調査(2023年12月12日公開)によれば、重要な取引先との会食では51.9%の経営者が飲酒量を意識的に調整すると回答しています。一方で「ソバーキュリアス」という言葉自体の認知度は13.1%にとどまっており、言葉としては広まっていなくても、実質的に飲酒量を場面ごとにコントロールする経営者がすでに一定数存在することがうかがえます。
この調査は自己申告ベースのアンケートであり、母集団の代表性や質問設計の詳細までは公開情報から確認できないため、あくまで一つの参考データとして捉える必要があります。
「飲まない選択」は経営判断にどう関わるのか
ここまでの実例からわかるのは、「飲まない経営者」が飲酒を悪と断じているわけではないという点です。柳慎太郎氏は年間40回以上の飲み会を自ら主催し続けていますし、Buffett氏も嗜好品そのものを否定しているわけではありません。共通しているのは、自分の体質やデータに向き合った上で、飲む・飲まないを主体的に選んでいるという姿勢です。
翌日の認知パフォーマンスという観点では、飲酒翌日に持続的注意力・記憶・処理速度が低下するという研究知見が前述の記事で報告されています。重要な意思決定や交渉を翌朝に控えた経営者にとって、前夜の一杯を避けるという選択は、こうした研究が示すリスクを避ける一つの手段になり得ます。ただし「飲まない経営者ほど業績が良い」といった因果関係を示す研究は現時点で確認できておらず、本記事はその主張をするものではありません。あくまで「飲まないという選択肢が、経営者の時間とコンディションの設計に組み込まれつつある」という事実の整理にとどめます。
会食文化とどう付き合うか
日本のビジネス文化において、会食そのものをなくすことは現実的ではありません。柳慎太郎氏のように「飲めない体質のまま飲み会を主催し続ける」という関わり方や、佐渡島庸平氏のように「データに基づいて自分に合う量を見極める」という関わり方など、酒席への向き合い方には複数の選択肢があります。
会食の場で飲酒を断る具体的な言い回しについては、飲み会の断り方15選でシーン別に整理しています。また、前夜の過ごし方から翌朝のパフォーマンスまでを設計する考え方は、「キマる朝」の作り方で詳しく解説しています。飲まない選択をする世代全体の傾向については、Z世代はなぜ飲まないのかも参考になります。
よくある質問
飲まない経営者は、飲む経営者より成功しやすいのですか?
そうした因果関係を示す確立した研究は確認できていません。本記事で紹介した人物は、それぞれ異なる理由(家族の経験、体質、睡眠データなど)で飲まない・ほぼ飲まないという選択をしているだけで、成功の要因を飲酒習慣だけに帰することはできません。
「ゲコノミクス」とはどういう意味ですか?
投資家・藤野英人氏が提唱した造語で、「下戸(げこ)」と「エコノミクス」を組み合わせたものです。お酒を飲まない・飲めない人向けの市場を指し、著書『ゲコノミクス』(日経BP、2019年)で紹介されています。
会食で飲まないと、経営者として不利になりませんか?
本記事で紹介した経営者は、飲まない・ほぼ飲まないことを隠さず公言しながら会食や飲み会そのものは継続しています。飲酒量ではなく、場への参加姿勢や会話の質で関係を築いているケースが多く見られます。
日本の経営者で「ソバーキュリアス」という言葉を使っている人はいますか?
IDEAL少額短期保険による経営者550人への調査(2023年12月)では、この言葉の認知度は13.1%にとどまっており、現時点で広く使われている言葉とは言えません。ただし言葉の有無にかかわらず、会食での飲酒量を調整する経営者は一定数存在することが同調査から読み取れます。
この記事で紹介した人物以外にも、飲まない経営者はいますか?
公開情報で本人の発言や経緯が確認できる人物は他にも存在する可能性がありますが、本記事では出典を明確に確認できた人物のみを掲載しています。噂や又聞きレベルの情報は掲載していません。
まとめ
「飲まない経営者」は特殊な少数派ではなく、公開情報を追うだけでも、家族の経験・体質・睡眠データなど異なる理由から「飲まない」「ほぼ飲まない」を選び続けている実例が確認できます。日本国内の調査でも、約半数の経営者が重要な会食で飲酒量を調整していると回答しており、飲む・飲まないを主体的に選ぶ姿勢は静かに広がりつつあります。重要なのは、飲酒を否定することではなく、自分の体質やコンディションに向き合った上で選択肢を持つことです。翌朝のパフォーマンスを重視する経営判断の一つとして、前夜の一杯をどう扱うかを考えてみる価値はあるでしょう。
参考文献
- UNILAD「Donald Trump reveals real reason why he's never drunk a drop of alcohol」2025年10月. https://www.unilad.com/celebrity/news/donald-trump-theo-von-podcast-sobriety-461013-20251006
- CBS News Colorado「Trump Jokes 'Can You Imagine' If I Drank?」https://www.cbsnews.com/colorado/news/trump-jokes-can-you-imagine-if-i-drank/
- Yahoo Finance「Warren Buffett Has Never Had a Drop of Alcohol — Or Water, According To His Daughter」https://finance.yahoo.com/news/warren-buffett-never-had-drop-230328996.html
- PRESIDENT Online「ワイン好きのベンチャー社長が『気づいたらお酒をやめていた』意外すぎる理由」2021年9月16日. https://president.jp/articles/-/49745
- 柳慎太郎「社長はお酒が飲めたほうがいい?」足立区の3代目経営者 柳慎太郎ブログ、2017年6月14日. https://yanagi-shintaro.com/%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%81%AF%E3%81%8A%E9%85%92%E3%81%8C%E9%A3%B2%E3%82%81%E3%81%9F%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%8C%E3%81%84%E3%81%84%EF%BC%9F-2/
- 日経ビジネス「下戸が開く『ゲコノミクス』で経済効果は3000億円以上」2020年2月14日. https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00005/021000111/
- 藤野英人『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』日経BP、2019年
- IDEAL少額短期保険「経営者550人に聞きました 今年の忘年会は飲む?飲まない?ジワリと広まる『ソバーキュリアス』」2023年12月12日. https://www.ideal-insurance.jp/news/will-you-drink-at-this-years-year-end-party-no-drinking
本記事は公開情報の範囲で確認できた発言・データをもとに構成した考察記事であり、医療アドバイスではありません。飲酒量のコントロールが難しいと感じる場合は、保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関(減酒外来)など専門機関へのご相談をご検討ください。