健康診断でγ-GTPなど肝機能の数値を指摘された後、「産業医との面接」や「保健指導」の案内が届くことがあります。名前が似ているためひとまとめに捉えられがちですが、この2つは根拠となる法律も、実施する主体も異なる別の制度です。共通してよく聞かれる不安は、「お酒についてどこまで話していいのか、会社に伝わってしまうのか」というものでしょう。一次資料を確認する限り、会社に伝わるのは面談で話した内容そのものではなく、就業上の措置に必要な範囲に限られる仕組みになっています。この記事では2026年7月時点で確認できる制度の内容と、面談で何が起きるのかを整理します。
この記事の要点
- 産業医の面接指導(労働安全衛生法)と特定保健指導(高齢者の医療の確保に関する法律)は根拠法が異なる別の制度
- 面談では飲酒量・頻度・自覚症状などが聞かれ、AUDITのようなスクリーニングが使われることがある
- 短時間の減酒支援(ブリーフインターベンション)は、依存症には至っていない飲酒習慣を対象にした枠組み
- 会社に伝わるのは面談内容そのものではなく、就業上の措置に関する医師の意見などに限られる
- 正確に伝えることは、適切な助言や必要な対応につながる仕組みになっている
産業医面談と保健指導、まず何が違うのか
厚生労働省が公開している資料によれば、産業医による面接指導は労働安全衛生法に基づく制度です。対象になるのは、時間外・休日労働が一定時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者で、月80時間を超え本人からの申出があった場合に実施されます。新技術・新商品等の研究開発業務に従事する労働者や、高度プロフェッショナル制度の対象者については、月100時間を超えた場合、本人の申出がなくても事業者に実施義務が生じる点が異なります。
一方の特定保健指導は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づく制度です。厚生労働省のページでは、対象は40〜74歳の医療保険加入者で、特定健診の結果メタボリックシンドロームのリスクが高いと判定された人とされ、実施主体は勤務先ではなく医療保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)、実際の指導は保健師・管理栄養士等の専門スタッフが担うと説明されています。
| 制度 | 根拠法 | 対象者 | 何が行われるか | 会社に伝わる範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 産業医の面接指導 | 労働安全衛生法(第66条の8等) | 時間外・休日労働が月80時間超で疲労の蓄積があり本人の申出をした労働者。研究開発業務従事者・高度プロフェッショナル制度対象者は月100時間超で申出不要 | 医師が勤務状況・生活習慣・自覚症状を確認し、必要に応じて就業上の措置について意見を述べる | 就業上の措置に必要な医師の意見等に限られる(面談内容そのものではない) |
| 特定保健指導 | 高齢者の医療の確保に関する法律(第27条等) | 40〜74歳の医療保険加入者で、特定健診の結果メタボリックシンドロームのリスクが高いと判定された人 | 保健師・管理栄養士等が食事・運動・飲酒などの生活習慣改善を支援。飲酒には減酒支援(ブリーフインターベンション)が用いられることがある | 実施主体は医療保険者。勤務先への共有範囲は健康保険組合の運営体制や勤務先の規程による |
同じ職場で両方の案内が届くことがあるのは、実施の根拠が違う2つの制度が並行して走っているためです。どちらの面談・指導かによって、実施する側も、会社に伝わる情報の扱われ方も変わってきます。
面談・指導では何を聞かれるのか
飲酒に関して尋ねられる内容は、多くの場合、飲酒量(純アルコール量に換算した量)と頻度、飲み方の自覚症状です。「休肝日はあるか」「迎え酒をすることがあるか」といった質問が典型的です。これらはWHOが作成した飲酒スクリーニングテストであるAUDITの質問項目と重なっており、健診・保健指導の現場ではAUDITやその短縮版であるAUDIT-Cが使われることがあります。AUDITの質問構成やスコアの意味はAUDITとはで整理しています。
厚生労働省が公開している保健指導向けの手引きでは、AUDITの合計点を0〜7点・8〜14点・15〜40点の3段階に区分し、0〜7点は「問題飲酒ではないと思われる」ため介入不要、8〜14点は「問題飲酒ではあるが依存症までは至っていない」として減酒支援(ブリーフインターベンション)の対象、15〜40点は「依存症が疑われる」として専門医療機関の受診につなげる対象、と整理されています。
短時間の支援「ブリーフインターベンション」とは
面接指導・保健指導のいずれの場でも、「ブリーフインターベンション」という枠組みが用いられることがあります。厚生労働省の手引きによれば、これは対象者の飲酒行動に変化をもたらすことを目的とした短時間のカウンセリングで、初回に普段の飲酒状況を確認したうえで対象者自身に減酒目標を立ててもらい、飲酒日記をつけながら2〜4週間後にフォローアップ面接を行う、という手順が示されています。基本は2回の支援ですが、必要に応じて3回、4回と続けてもよいとされています。
同じ手引きは、こうした簡単な支援によって酒量が減り、その効果が比較的長く続くことが多くの研究で示されているとする一方、対象者がすでにアルコール依存症である場合には、この程度の支援ではあまり効果が期待できないとも明記しています。ブリーフインターベンションは、あくまで依存症には至っていない飲酒習慣を対象にした枠組みだという位置づけです。
少なく答えたくなる気持ちと、正確に伝えることの意味
「会社に知られたくない」という理由から、飲酒量や頻度を実際より少なく答えたくなる気持ちが生じやすい場面です。ただし、厚生労働省の手引きは、対象者が問題を隠していると、本来は依存症に相当する程度の飲酒がある人が、より軽い減酒支援の対象群に留め置かれてしまう可能性があることを指摘しています。つまり少なく申告することは、会社に伝わる情報を減らす効果よりも先に、自分に必要な助言や専門医療機関への受診勧奨が届かなくなるリスクにつながります。正確に伝えることは、この面談・指導の仕組みが本来想定している、自分に合った対応を受け取るための前提条件だと言えます。
守秘義務と、会社に伝わる範囲
産業医を含め、健康診断や面接指導の実施事務に従事した人には、労働安全衛生法第105条により、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないという守秘義務が課されています。産業医は医師でもあるため、刑法第134条の秘密漏示罪(正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らした場合、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。親告罪)の対象にもなります。
会社側がどこまでの情報を扱えるかについては、厚生労働省が公示している「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」が整理しています。この指針では、事業者が法令上必ず取り扱わなければならない情報として、健診の受診・未受診の情報や、面接指導の事後措置について医師から聴取した意見などを挙げる一方、保健指導の結果のように事業場の取扱規程に基づき労働者本人の同意を得て扱う情報を別区分としています。つまり、面談で話した内容そのものが自動的に会社へ流れるのではなく、就業上の措置に必要な医師の意見など、限定された情報が扱われる仕組みです。同指針は、心身の状態の情報を扱う目的・範囲・方法を、事業場ごとに労使で策定する「取扱規程」に定めるよう求めており、実際にどこまでの情報がどう扱われるかの細部は、勤務先の規程によって異なります。詳細を確認したい場合は、この取扱規程や産業保健スタッフに聞くのが確実です。
面談は断れるのか
労働安全衛生法第66条の8は、月80時間超の時間外・休日労働があり疲労の蓄積が認められる労働者について、本人からの申出があった場合に事業者へ面接指導の実施を義務づけています。同条第2項は、労働者にも面接指導を受ける義務があると定めていますが、指定された医師以外の医師の面接を受け、その結果を証明する書面を提出すれば足りるとするただし書きもあります。これに対し、研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度対象者で月100時間を超えた場合は、本人の申出の有無にかかわらず事業者に実施義務が生じる点が異なります。
特定保健指導については、高齢者の医療の確保に関する法律が医療保険者に実施を義務づける制度であり、対象者本人に受診を義務づける規定は確認できませんでした。実務上は案内・利用勧奨という位置づけになります。
面談のあとにできること
面談・指導をきっかけに飲酒量そのものを見直したい場合、無理のない減らし方は今日からの減酒7ルールで具体的に整理しています。次の健診に向けてどのくらいの期間の減酒が数値に反映されやすいかは健診前の減酒にまとめていますので、あわせてご確認ください。
指摘が続くとき
面談・指導を受けても数値の指摘が続く場合、まだ病気とまでは言えない段階での向き合い方は未病とは、行政・医療機関・当事者会それぞれへの相談先の違いはお酒の相談マップで整理しています。
よくある質問
Q. 産業医面談と特定保健指導、両方の案内が同時に届くことはありますか? A. 根拠となる法律・実施主体が異なる制度のため、条件を満たせば両方の案内が届くことがあります。それぞれ担当する窓口も別であることが一般的です。
Q. 面談で飲酒量を実際より少なく伝えるとどうなりますか? A. 厚生労働省の手引きは、問題を隠すと本来は専門医療機関につながるべき人が、より軽い支援の対象に留め置かれてしまう可能性を指摘しています。
Q. 産業医面談の内容は上司や人事に伝わりますか? A. 面談内容そのものではなく、就業上の措置に必要な医師の意見などに限られます。具体的な運用は事業場ごとの取扱規程や勤務先の規程によります。
Q. 特定保健指導を断ったらペナルティはありますか? A. 特定保健指導は医療保険者の実施義務にとどまり、対象者本人への罰則規定は確認できませんでした。
Q. AUDITのスコアが高かった場合、どうなりますか? A. 厚生労働省の手引きでは15〜40点は依存症が疑われる区分とされ、専門医療機関の受診につなげる位置づけです。
まとめ
産業医の面接指導と特定保健指導は、根拠法も実施主体も異なる別の制度です。どちらの場でも飲酒量・頻度・自覚症状が確認され、AUDITのようなスクリーニングやブリーフインターベンションという短時間の支援が使われることがあります。会社に伝わるのは面談内容そのものではなく、就業上の措置に必要な医師の意見など限られた情報であり、詳細な運用は事業場ごとの取扱規程によって定められています。少なく申告することは、自分に必要な助言や受診勧奨を遠ざけるリスクがあるため、正確に伝えることが結果的に自分の利益になる仕組みです。
参考文献
- 厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」別添2「保健指導におけるアルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)とその評価結果に基づく減酒支援(ブリーフインターベンション)の手引き」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/dl/hoken-program3_06.pdf
- 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日公示第1号、令和4年3月31日改正) https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)第66条の8・第66条の8の2・第66条の8の4・第105条 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- e-Gov法令検索「刑法」(明治40年法律第45号)第134条 https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
免責事項
本記事は医療アドバイス・労務相談・法律相談ではありません。法令・制度の内容は2026年7月時点で確認できたものであり、実際の運用や取扱いは勤務先の規程・健康保険組合の体制によって異なります。ご自身の状況については、産業医・保健師、勤務先の人事労務担当、または弁護士等の専門家にご確認ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。