「更年期に入ってから、お酒の残り方が変わった気がする」「ホットフラッシュがある日はお酒を控えた方がいいのだろうか」。そんな体感を持つ人は少なくありません。更年期は女性ホルモンが大きく変動する時期であり、そこにアルコールが加わると体と心にどのような影響が重なるのか、確認できた一次資料から整理します。更年期症状には個人差が大きく、研究の結果も一様ではないため、断定を避けながら読み進めていただければと思います。

この記事の要点

  • 更年期障害は、閉経前後5年ずつ計10年間に現れる症状群で、主な原因はエストロゲンが大きくゆらぎながら低下していくことです(日本産科婦人科学会)
  • 厚生労働省は、女性ホルモンの影響により女性は男性よりアルコールの影響を受けやすいとしています。ただし、更年期のホルモン低下そのものがこの感受性をどう変化させるかを直接確認した大規模な一次研究は見当たりませんでした
  • ホットフラッシュとアルコールの関係を調べた研究は一様ではなく、むしろ「現在飲酒している人の方がホットフラッシュのリスクが低かった」とする報告もあります(Schilling et al. 2007)
  • 更年期移行期(周閉経期)はうつ気分になりやすい時期であるとする報告があり、症状のつらさを飲酒で紛らわそうとする動機が強まりやすいとする研究もあります
  • いずれも個人差が大きいテーマであり、この記事は断定的な対処法ではなく、現在地の整理として位置づけています

更年期とは何か — ホルモン変動という土台

日本産科婦人科学会によれば、「更年期」は閉経前後5年ずつをあわせた計10年間を指し、この間に現れる症状のうち特に重く日常生活に支障をきたす状態が「更年期障害」と呼ばれます。主な原因は、女性ホルモン(エストロゲン)が大きくゆらぎながら低下していくことで、これに加齢・心理的要因・社会的要因が複合的に関わるとされています。

症状は大きく3つに整理されます。ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗といった血管症状、めまい・動悸・頭痛・肩こりといった身体症状、そして気分の落ち込み・意欲低下・イライラ・情緒不安定・不眠といった精神症状です。この精神症状と血管症状の両方に、飲酒との接点があります。

女性ホルモンとアルコール — 「影響を受けやすい」の中身

厚生労働省が公表している「あなたが決める、お酒のたしなみ方 女性編」(2025年9月版)は、女性が男性よりアルコールの影響を受けやすい理由として、アルコール分解(代謝)酵素の働きが男性より弱いこと、体内の水分量が男性より少ないことに加えて、「女性ホルモンにより、アルコールの影響を受けやすい」ことを挙げています。厚労省 e-ヘルスネットの解説でも、アルコールは主にADH(アルコール脱水素酵素)によってアセトアルデヒドに変換され、続いてALDH(アルデヒド脱水素酵素)によって酢酸に分解されるとされ、体格や体脂肪率・体内水分量の違いが血中アルコール濃度の上がりやすさに関わるとされています。

ただし、この「女性ホルモンによる影響の受けやすさ」が更年期のエストロゲン低下によってどう変化するのかを直接確かめた大規模な一次研究は、今回確認できませんでした。「更年期に入るとお酒に弱くなる」という体感を語る声はありますが、現時点で確認できる根拠は「女性ホルモンの影響でアルコールの影響を受けやすい体質である」という公的機関の説明にとどまり、更年期固有のメカニズムとして断定できるだけの一次資料はありません。なお、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、厚労省は女性で1日あたり純アルコール20g以上(男性は40g以上)という目安を示しています。

ホットフラッシュとアルコールの関係 — 研究が示す複雑な実態

「お酒を飲むとほてりやすくなる」という体感は広く語られますが、研究の結果は一様ではありません。2007年に学術誌Fertility and SterilityにSchillingらが発表した研究は、中年女性623名(現在飲酒者410名・過去に飲酒していた人178名・非飲酒者35名)を対象に、飲酒の有無とホットフラッシュ・ホルモン値の関係を調べたものです。結果は、現在飲酒している人は非飲酒者と比べてホットフラッシュのリスクがむしろ低いという、体感とは逆の関連が報告されました。ただし著者らは、性ホルモン値の変化がこの関連を説明しなかったとも述べており、なぜそうなるのかの仕組みは明らかになっていません。

アルコールには血管を拡張させる作用があるためほてりを誘発しうるという説明がある一方、更年期のどの段階(閉経前・閉経周辺期・閉経後)にいるかによって飲酒とホットフラッシュの関連の向きが変わる可能性も指摘されており、研究間で一致した結論には至っていません。「お酒がホットフラッシュを悪化させる」と一律に言い切れる段階ではなく、「関連しうるが、結果は一様ではない」という慎重な言い方が現時点では妥当です。

気分の変化とアルコール — 「紛らわす」が悪循環になりやすい理由

更年期移行期(周閉経期)は、うつ気分のリスクが高まりやすい時期であるとする報告があります。2001年にSão Paulo Medical Journalに発表されたSoaresとCohenのレビューは、地域社会を対象にした調査で周閉経期・閉経後の女性のうつ気分の頻度が25〜30%だったとする報告を紹介し、エストロゲンの急激な低下(エストロゲン離脱)が気分症状に関わるという仮説や、ホットフラッシュ・寝汗といった身体症状のつらさそのものが気分の落ち込みを引き起こすという「ドミノ理論」を紹介しています。

こうした症状のつらさを紛らわす目的で飲酒量が増えやすい時期であることを示す研究もあります。2025年にWomen's Health誌に発表されたDaviesらの研究(40〜65歳の女性936名を対象にしたオンライン調査)では、更年期の中盤にあたる参加者が、閉経前・閉経後の参加者と比べて更年期症状が最も重く、「つらさを紛らわすための飲酒」という動機が最も強く、幸福感のスコアも最も低かったと報告されています。アルコールが脳の働きにどう関わるかについてはアルコールと脳で詳しく整理していますが、一時的に気分が軽くなる体感の裏で、飲酒がかえって不安や気分の波を強めうる面がある点には注意が必要です。

睡眠への影響 — 更年期の眠りの乱れに、アルコールが重なるとき

前述の通り、更年期障害の症状には「眠れない」という精神症状も含まれ、夜間のホットフラッシュや発汗によって眠りが妨げられやすい時期でもあります。ここに寝酒の習慣が重なると、寝酒と睡眠の科学で解説したレム睡眠の減少・中途覚醒・利尿作用が、もともと不安定になりやすい更年期の睡眠にさらに上乗せされる可能性があります。加齢とともに睡眠時無呼吸のリスク自体も高まるとされ、アルコールが上気道の筋肉を緩める仕組みは睡眠時無呼吸とお酒の関係で詳しく扱っています。「なかなか眠れないからお酒で早く寝つきたい」という発想が、かえって夜通しの睡眠の質を下げてしまう構図は、更年期世代でも変わりません。

更年期世代が飲酒を見直すときにできること

更年期の症状のつらさを飲酒だけで乗り切ろうとすると、前述のような悪循環につながりやすくなります。まずは厚労省が示す「生活習慣病のリスクを高める量」(女性で1日あたり純アルコール20g以上)を目安に、週に1〜2日は飲酒をしない日をつくることから始めるのが現実的です。エネルギー面や気分面のサポートとしてサプリメントに関心がある場合は、マカはアダプトゲンなのかで更年期症状に関する研究の限界も含めて整理していますが、「これさえ摂れば良い」というものではありません。休肝日をどう設計するか、何に置き換えるかといった具体的な見直しの手順は更年期世代の減酒ガイドで扱っています。症状が重い場合や気分の落ち込みが長く続く場合は、自己判断で対処し続けず、婦人科やかかりつけ医、精神保健福祉センターなど専門機関に相談することをおすすめします。

よくある質問

更年期になるとお酒に弱くなるのですか?

女性ホルモンの影響で女性は男性よりアルコールの影響を受けやすいことは厚生労働省も説明していますが、更年期のホルモン低下そのものがこの感受性をどう変化させるかを直接確認した大規模研究は確認できませんでした。体感として変化を感じる人がいる一方、断定できる段階ではありません。

お酒を飲むとホットフラッシュが悪化しますか?

研究結果は一様ではありません。2007年の研究では、現在飲酒している人の方がホットフラッシュのリスクが低いという、体感とは逆の関連も報告されています。「悪化する」と一律に言い切ることはできず、更年期のどの段階にいるかによっても異なる可能性が指摘されています。

更年期のイライラや落ち込みをお酒で紛らわすのは良くないですか?

つらさを紛らわす目的での飲酒が増えやすい時期であることを示す研究はありますが、アルコールはかえって気分の波を強めうる面もあります。気分の落ち込みが強い、または長く続く場合は、自己判断で飲酒に頼らず、婦人科や精神保健福祉センターへの相談を検討してください。

更年期の不眠に寝酒は効果がありますか?

寝つきを早める体感はあっても、レム睡眠の減少や中途覚醒によって睡眠全体の質を下げる可能性があります。更年期はもともと夜間のホットフラッシュなどで睡眠が妨げられやすい時期のため、寝酒に頼らない入眠の工夫を検討する価値があります。

サプリメントで更年期症状とお酒の悩みは解決できますか?

マカなど更年期症状への効果が研究されている成分もありますが、多くはまだ小規模な試験にとどまり、断定できる段階ではありません。飲酒の見直しやサプリメントの利用を検討する際も、症状が重い場合はまず医師に相談することをおすすめします。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。更年期の症状の現れ方や飲酒への感受性には大きな個人差があり、本記事の内容がすべての方に当てはまるとは限りません。症状が重い場合や気分の落ち込みが続く場合は、婦人科・かかりつけ医・精神保健福祉センターなど専門機関にご相談ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。