マカ(Lepidium meyenii)は、日本では「精力剤」のイメージで語られることが多いアンデス高地原産の植物です。しかし海外のウェルネス市場では、ロディオラやホーリーバジルと並んで「アダプトゲン」の一種として紹介されることが増えています。実際のところ、マカはアダプトゲンの定義に当てはまる成分なのでしょうか。この記事では、精力剤イメージの由来から、アダプトゲンとしての分類をめぐる学術的な議論、気分・エネルギー・更年期症状に関する研究の現在地、そして日本国内での法的な位置づけまで、断定を避けながら整理します。
この記事の要点
- マカは、和名「マカ」・部位「根」として厚生労働省の非医薬品リスト(医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質リスト)に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として販売できます(2026年7月16日確認)
- 「アダプトゲン」として紹介されることが多い一方、2024年の学術レビューはマカを厳密な意味でのアダプトゲンではなく「独自のカテゴリー」に位置づけるべきだと指摘しています
- 気分・エネルギー・更年期症状に関する研究はありますが、多くは小規模で、2018年の専門誌レビューは「マカの健康効果は科学的に十分に裏付けられているとは言えない」と結論づけています
マカとは何か — 「精力剤」イメージの由来
マカは、学名を Lepidium meyenii といい、ペルーのアンデス山脈の標高4,000メートル前後という過酷な環境で育つアブラナ科の植物です。現地では数百年から千年以上にわたって、根を乾燥・加熱調理した状態で食用にしてきた歴史があり、伝統的には滋養強壮や生殖機能の維持を目的に用いられてきたとされています。
海外のサプリメント市場では、こうした伝統的な用途から「天然の精力剤」「アンデスの人参」といったマーケティング文脈で語られることが多く、日本でも同様のイメージが定着しています。マカに特徴的な成分としては、マカミド類・マカエン類と呼ばれる長鎖脂肪酸由来の化合物や、グルコシノレート類、アルカロイド類などが報告されていますが、これらがどのようなメカニズムで生理作用を発揮するのかは、現時点でも研究が続いている段階です。
マカはアダプトゲンなのか — 分類をめぐる議論
アダプトゲンという概念そのものの成り立ちと定義については、アダプトゲンとは?種類と研究の現在地で詳しく解説していますが、ここではマカに特有の論点を扱います。
海外のハーブ業界では、マカは「アダプトゲンの一種」として紹介されることが一般的です。しかし、2024年に学術誌Nutrientsに発表されたMinichらのレビューは、この分類に慎重な留保を付けています。同レビューは「植物医学の分野ではマカはアダプトゲンに分類される」と現状を認めた上で、マカが持つ複数の色・表現型(赤・黒・黄など)ごとに生理作用が異なり、視床下部・下垂体・甲状腺・副腎・性腺という複数の系(HPTAG軸)にまたがって作用しうることから、「マカを単純にアダプトゲンとしてのみ分類するのではなく、独自のカテゴリーとして扱うべきではないか」という問題提起を行っています。
これは、アダプトゲンの伝統的な定義(1968年にブレクマンが示した、無毒性・非特異的なストレス抵抗力の向上・生理機能の双方向的な正常化という3条件)に、マカの作用機序がきれいに当てはまるとは限らないことを示唆しています。
さらに踏み込んだ批判もあります。2018年にJournal of Ethnopharmacology誌に発表されたBeharryとHeinrichによるレビューは、マカが「リビドー・妊よう力を高めるペルー人参」として世界的なブームになった経緯を検証し、「臨床試験の結果は方法論的な限界を伴い一貫性を欠いている」「マカミドなど特定成分の薬理作用を裏づけるデータが不足している」と指摘した上で、「マカの健康効果は現時点で科学的に十分に裏付けられているとは言えず、さらなる研究が必要である」と結論づけています。同レビューは、先住民の伝統的な知識が市場の需要に合わせて文脈から切り離されて利用されている点にも懸念を示しています。
つまり、「マカ=アダプトゲン」という紹介は業界内で広く使われている一方、学術的にはその分類自体に議論の余地があり、効果の裏付けについても慎重な評価が続いているというのが現在地です。
日本でマカは合法なのか — 食薬区分での扱い
日本では、ある原材料を食品として販売できるかどうかを、厚生労働省が定める食薬区分で判断しています。原材料は大きく分けて、食品として扱えない「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(別添2)と、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として扱える「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3、いわゆる非医薬品リスト)に振り分けられています。
厚生労働省が公開している非医薬品リストの植物由来物一覧を確認したところ、次の記載があります(2026年7月16日確認)。
| 名称 | 他名等 | 部位等 |
|---|---|---|
| マカ | マカマカ | 根 |
つまりマカは、根を対象として非医薬品リストに収載されており、アシュワガンダの研究を読むで解説したアシュワガンダ(専ら医薬品リストに収載され食品としての流通が認められない)とは扱いが異なります。マカの根は、「疲労回復」「精力増強」のような医薬品的な効能効果を標ぼうしない範囲であれば、食品・サプリメントの原材料として国内でも合法的に製造・販売できます。
ただし、この位置づけには2つの注意点があります。1つは、リストに収載されているのは「根」であり、それ以外の部位を使った製品や、根の抽出物の加工方法によっては別途の確認が必要になりうる点です。もう1つは、食品として合法だからといって、パッケージや広告で「精力がつく」「疲労が取れる」といった医薬品的な効能効果を標ぼうすれば、薬機法(医薬品医療機器等法)違反になりうる点です。合法性と効果の裏付けは別の話であり、この2つを混同しないことが大切です。国内でのアダプトゲン全般の扱いについては、アダプトゲンは日本で合法かでも整理しています。
研究の現在地(1) 気分・エネルギーとの関係
マカの気分・エネルギーへの影響を調べた研究として代表的なものに、2016年に学術誌Pharmaceuticals(Basel)に発表されたGonzales-Arimborgoらのランダム化比較試験があります。この試験では、低地・高地に住む成人175名を対象に、プラセボ・赤マカ抽出物・黒マカ抽出物のいずれかを1日3g、12週間にわたって摂取してもらい、気分・エネルギー・生活の質(HRQL)などの変化を比較しました。結果として、マカ抽出物を摂取した群はプラセボ群と比べて生活の質の指標が改善したと報告されており、特に赤マカで気分・エネルギーの自己申告での改善割合が高かったとされています。重篤な有害事象は報告されず、忍容性は良好だったとされています。
この試験は比較的サンプルサイズが大きく、プラセボ対照・二重盲検という設計を取っている点で参考になりますが、気分やエネルギーの評価が参加者の自己申告に基づいている点には留意が必要です。
研究の現在地(2) 更年期症状との関係
更年期症状に関しては、2011年に学術誌Maturitasに発表されたLeeらのシステマティックレビューがあります。この分析では、条件を満たすランダム化比較試験4件が特定され、クッパーマン更年期指数やグリーン気候的スコアといった指標を用いたすべての試験で、マカ摂取群に好ましい方向の結果が報告されています。
しかし、著者らはこの分析の限界として、更年期症状に関する質の高い試験自体が非常に少ないこと、4件中3件が同一の研究グループによるものであること、多くの試験が方法論上の課題を抱えていることを明記しており、「確定的な結論を導くには試験数・サンプルサイズ・方法論の質のいずれも不十分」と評価しています。
この4件に含まれる代表的な試験の一つが、Meissnerらが発表した早期閉経後女性を対象にしたパイロット試験です。試験Iでは20名が登録され(完了12名)3ヶ月間、試験IIでは8名が9ヶ月間、ゼラチン化したマカの根の粉末を1日2g摂取し、プラセボ期間と比較する二重盲検クロスオーバー形式で実施されました。ほてりや寝汗、不安感の軽減などが報告されている一方、著者ら自身がプラセボ効果の強さや被験者数の少なさをパイロット試験としての限界と明記しています。
研究の現在地(3) 性機能・身体パフォーマンスとの関係
性機能については、2010年にBMC Complementary and Alternative Medicine誌に発表されたShinらのシステマティックレビューが、条件を満たすランダム化比較試験4件(参加者計131名)を特定しています。軽度の勃起機能障害がある男性でのIIEF-5スコアの改善、閉経後女性での性機能スコアの改善、健康な男性での性的欲求の増加(8〜12週間後)が報告された試験がある一方、自転車競技の男性選手を対象にした試験では性的欲求への効果が確認されませんでした。著者らは「マカの性機能改善効果について限定的なエビデンスを提供するもの」と結論づけ、無作為化の方法の報告が不十分な試験が含まれること、有害事象の評価がどの試験でも行われていないことを限界として挙げています。
身体パフォーマンスについては、2024年にNutrients誌に発表されたHuerta Ojedaらのシステマティックレビュー・メタ分析があります。この分析では、動物実験のデータについては定量的なメタ分析が行われた一方、ヒトを対象にした試験は数が少なすぎるとして、著者ら自身がヒトでの効果量の算出を見送っています。含まれたヒト試験4件の結果も一貫しておらず、疲労軽減を示した試験がある一方、運動耐用時間に変化が見られなかった試験や、握力・走り幅跳びの成績がむしろ低下した試験も含まれています。また動物実験のメタ分析についても、出版バイアスの可能性が高いことが明記されています。
主要研究の一覧
| 研究 | 年・掲載誌 | 対象規模 | 主な結果 | 主な限界 |
|---|---|---|---|---|
| Gonzales-Arimborgo et al. | 2016年・Pharmaceuticals | RCT、175名 | 生活の質の改善、赤マカで気分・エネルギーの自己申告改善割合が高い | 気分・エネルギーの評価は自己申告に依存 |
| Lee et al.(システマティックレビュー) | 2011年・Maturitas | RCT 4件 | 更年期指数(クッパーマン・グリーン)で好ましい結果 | 4件中3件が同一研究グループ、試験数・質とも不十分 |
| Shin et al.(システマティックレビュー) | 2010年・BMC Complement Altern Med | RCT 4件、131名 | 性機能スコア改善を示す試験がある一方、効果が見られない試験もある | サンプルサイズが小さく、有害事象の評価なし |
| Huerta Ojeda et al. | 2024年・Nutrients | ヒト試験4件(定量分析は動物実験のみ) | 身体パフォーマンスへの効果は一貫しない | ヒトでの試験数が少なすぎてメタ分析不能、出版バイアスの懸念 |
安全性をめぐる論点 — 肝臓・甲状腺・妊娠中の注意
NIHが運営する肝毒性データベースLiverToxは、マカについて「臨床的に明らかな肝障害の原因となる可能性は低い」というカテゴリーに分類しており、臨床試験の中でマカ摂取と肝障害を結びつける説得力のある報告は確認されていないとしています。ただし2017年には、マカを使った薬用酒を300mL摂取した後に黄疸を発症し肝酵素値が上昇した30代男性の症例報告が1件あり、1〜3ヶ月で回復したとされています。臨床試験全体で見られる副作用は「まれで軽度」とされ、消化器症状や頭痛が中心です(ある試験では消化器症状が31%の参加者に見られたと報告されています)。
甲状腺との関係についても注意が必要です。前述のMinichらのレビューは、生のマカにはグルコシノレート類(ゴイトロゲン、甲状腺腫誘発物質)が含まれており、特にヨウ素摂取量が少ない状態では甲状腺のヨウ素取り込みに影響しうると指摘しています。加熱・ゼラチン化などの加工によってこれらの成分は減少するとされていますが、甲状腺疾患のある方や治療中の方は、自己判断で摂取を始めず医師に相談することをおすすめします。
妊娠中の安全性については、ヒトを対象にした臨床試験自体が存在しないというのが実情です。動物実験では、マカの摂取によってマウスの産仔数や子宮重量に変化が見られたとする報告がありますが、これはヒトの妊娠中の安全性を直接裏づけるものではありません。「危険性が証明されている」わけではなく、「安全性を確認するデータがそもそも不足している」という状態です。この場合、多くの専門家が勧めるのは、妊娠中・授乳中は使用を控え、使用を検討する場合は必ず事前に医師に相談するという慎重な対応です。
断酒・減酒後のエネルギー回復という文脈での位置づけ
断酒や減酒に取り組む中で、「以前より元気が出ない」「日中のパフォーマンスが落ちた気がする」と感じる時期は珍しくありません。マカが「精力剤」「アンデスの人参」として語られてきた背景には、まさにこうした気力・体力の落ち込みを補いたいというニーズがあります。
ただし、ここまで見てきたとおり、マカの気分・エネルギーへの効果を示す研究は増えつつあるものの、多くはまだ小規模で、断定できる段階ではありません。エネルギー回復を目的にサプリメントを検討する際は、マカ単体に過度な期待を寄せるのではなく、睡眠・運動・栄養といった基本的な生活習慣の見直しと組み合わせて考えるのが現実的です。アダプトゲンとヌートロピック(認知機能サポート成分)の違いについてはアダプトゲンとヌートロピックの違いで解説しています。お酒を飲まない選択肢そのものについて基礎から知りたい方は、ソバーキュリアス完全ガイドもあわせてご覧ください。
よくある質問
マカは日本で合法に買えますか?
マカの根は、厚生労働省の非医薬品リスト(医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質リスト)に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として合法的に製造・販売できます。ただし、パッケージや広告で医薬品的な効能効果を標ぼうすることは薬機法上認められていません。
マカはアダプトゲンと言えますか?
業界では一般的に「アダプトゲンの一種」として紹介されていますが、学術的な評価は割れています。2024年のレビューは、マカを単純にアダプトゲンとして分類するのではなく「独自のカテゴリー」として扱うべきだと提起しており、伝統的なアダプトゲンの3条件にきれいに当てはまるかどうかは、なお議論の余地があります。
マカに本当に効果はあるのですか?
「効果がある」と断定できる段階ではありません。気分・エネルギー・更年期症状に関する研究報告はありますが、多くは小規模な試験や同一研究グループによるものです。2018年の専門誌レビューは、マカの健康効果は科学的に十分に裏付けられているとは言えないと結論づけています。
妊娠中でもマカを摂取できますか?
妊娠中の安全性を確認したヒトでの臨床試験は存在しません。「危険と証明されている」のではなく「安全性を確認するデータが不足している」状態のため、妊娠中・授乳中は使用を控え、検討する場合は必ず事前に医師に相談してください。
マカとアシュワガンダは日本での扱いが違うのですか?
はい。マカは根が非医薬品リストに収載され食品として扱えるのに対し、アシュワガンダ(ウィザニア)は植物体全体が専ら医薬品リストに収載されており、食品としての製造・販売が認められていません。詳しくは本記事内の解説をご覧ください。
まとめ
マカは、日本では「精力剤」のイメージが先行しがちな植物ですが、日本国内では根が非医薬品リストに収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として合法的に扱える成分です。一方で、「アダプトゲン」としての分類自体が学術的に議論の途上にあり、気分・エネルギー・更年期症状・性機能に関する研究も、報告そのものは増えているものの、多くは小規模で方法論上の課題を抱えています。2018年の専門誌レビューが指摘するとおり、マカの健康効果は現時点で科学的に十分に裏付けられているとは言えません。「合法だから効果がある」わけでも「精力剤として有名だから効く」わけでもなく、規制上の位置づけと研究の現在地を分けて理解する姿勢が大切です。
参考文献
- 厚生労働省「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000086063_1.pdf
- Minich DM, Ross K, Frame J, Fahoum M, Warner W, Meissner HO. "Not All Maca Is Created Equal: A Review of Colors, Nutrition, Phytochemicals, and Clinical Uses." Nutrients, 2024;16(4):530. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10892513/
- Beharry S, Heinrich M. "Is the hype around the reproductive health claims of maca (Lepidium meyenii Walp.) justified?" Journal of Ethnopharmacology, 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28811221/
- Gonzales-Arimborgo C, et al. "Acceptability, Safety, and Efficacy of Oral Administration of Extracts of Black or Red Maca (Lepidium meyenii) in Adult Human Subjects: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study." Pharmaceuticals (Basel), 2016;9(3):49. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5039502/
- Lee MS, Shin BC, Yang EJ, Lim HJ, Ernst E. "Maca (Lepidium meyenii) for treatment of menopausal symptoms: A systematic review." Maturitas, 2011;70(3):227-233. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21840656/
- Meissner HO, Kapczynski W, Mscisz A, Lutomski J. "Use of Gelatinized Maca (Lepidium Peruvianum) in Early Postmenopausal Women." International Journal of Biomedical Science, 2005-2006. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3614576/
- Shin BC, Lee MS, Yang EJ, Lim HS, Ernst E. "Maca (L. meyenii) for improving sexual function: a systematic review." BMC Complementary and Alternative Medicine, 2010;10:44. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2928177/
- Huerta Ojeda Á, et al. "Effects of Maca (Lepidium meyenii Walp.) on Physical Performance in Animals and Humans: A Systematic Review and Meta-Analysis." Nutrients, 2024/2025;17(1):107. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11723211/
- NIH LiverTox "Maca" https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK548552/
免責事項
本記事は医療アドバイスではありません。マカの摂取を推奨するものではなく、日本国内における食薬区分上の位置づけと、海外で行われている研究の現状を正確に伝えることを目的としています。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用の可否について必ず医師にご相談ください。甲状腺疾患のある方は特に事前の相談をおすすめします。20歳未満の方への使用は推奨していません。