「アダプトゲン」は、コーヒーの代わりや夜のノンアルコールドリンクの成分表で見かける機会が増えた言葉です。ストレスへの適応力を高めるとされるハーブや植物由来の成分を指しますが、その定義や研究の到達点は、思われているほど単純ではありません。この記事では、アダプトゲンという概念の成り立ちと、代表的な種類ごとの研究の現在地、そして日本国内での扱い方(特にアシュワガンダをめぐる規制)を、断定を避けながら整理します。
この記事の要点
- アダプトゲンは1947年、旧ソ連の学者ニコライ・ラザレフが提唱した概念で、「ストレスへの非特異的な抵抗力を高める」とされる物質を指す言葉です
- 欧州医薬品庁(EMA)は2020年時点で、アダプトゲンを薬理学・臨床の正式カテゴリーとして採用しておらず、成分ごとに個別のエビデンスで評価する立場を取っています
- 代表的なアシュワガンダは、日本では2013年の食薬区分改正により「専ら医薬品」に分類され、国内では食品・サプリメントとして製造販売できません
- ロディオラ・ホーリーバジル・高麗人参なども研究段階の報告が中心で、成分によってエビデンスの強さは大きく異なります
アダプトゲンとは何か — 定義と歴史
アダプトゲンという用語は、1947年に旧ソ連の毒物学者ニコライ・ラザレフによって作られました。もともとは血管拡張薬ジバゾールを対象に、実験動物のストレス抵抗性を高める作用を説明するために使われた言葉だとされています。
その後、ラザレフの弟子である薬理学者イスラエル・ブレクマンらが1960年代にエゾウコギ(シベリア人参)などの研究を通じて概念を発展させ、1968年に次の3条件で定義しました。1) 服用者に対して無毒であること(副作用があっても最小限であること)、2) 物理的・化学的・生物学的なさまざまなストレス要因に対する非特異的な抵抗力を高めること、3) ストレスで基準値から外れた生理機能を正常化する方向に働くこと、の3点です。
なお、アダプトゲンに関する初期の研究の多くは1980年代以前、旧ソ連や韓国、中国で行われたものであり、後年の研究者からは追試や検証が難しいという指摘もされています。
「効く」と言えるのか — 科学的な位置づけ
アダプトゲンという概念は、現時点で国際的に統一された薬理学的・法的定義を持っていません。欧州医薬品庁(EMA)の植物医薬品委員会(HMPC)は、アダプトゲン概念に関するリフレクションペーパーの中で、既存の科学文献における定義の多様性と矛盾を指摘した上で、これを正式な薬理学的カテゴリーとしては採択せず、伝統医学的な概念として位置づけています。2020年時点で、アダプトゲンという用語自体はEUの薬理学・生理学・臨床の主流な枠組みでは受け入れられておらず、個々の植物由来製品の安全性・有効性を、既存の医薬品評価の枠組みで個別に判断するという立場を取っています。
学術的なレビューでも、「非特異的にストレス抵抗力を高め、生理機能を正常化する」という定義自体があいまいで反証しにくいこと、性質の異なる多様な物質がひとくくりにされていることが、繰り返し課題として指摘されています。SHIRAFUでは、こうした背景を踏まえ、アダプトゲンについて「効く」と断定する書き方はせず、「〜という報告がある」「〜が示唆されている」という距離感で扱います。
代表的なアダプトゲンの種類と研究の現在地
アダプトゲンと呼ばれる成分は数多くありますが、代表的なものと研究の到達点を整理すると次のようになります。
| 成分 | 伝統的な位置づけ | 研究で示唆されている点 | エビデンスの現在地 |
|---|---|---|---|
| アシュワガンダ(Withania somnifera) | アーユルヴェーダの代表的なハーブ | 複数のメタ分析で、プラセボと比較したコルチゾール値の低下やストレス知覚スコアの改善が報告されている | 研究数は増加中だが、長期使用時の安全性データは限定的 |
| ロディオラ(Rhodiola rosea) | 北欧・ロシアで伝統的に使用 | システマティックレビューでは、身体的疲労・精神的疲労への効果を示した試験がある一方、効果が確認できなかった試験も多い | 結果が一貫しておらず、方法論上の限界を指摘する声が強い |
| ホーリーバジル(トゥルシー、Ocimum sanctum/tenuiflorum) | アーユルヴェーダで長い使用の歴史を持つ | 小規模な試験でストレス・不安に関する報告があるが、標準化された抽出物・十分なサンプルサイズを持つ試験はまだ少ない | 限定的。今後の大規模試験が必要とされる段階 |
| 高麗人参・朝鮮人参(Panax ginseng) | 東アジアで古くから使われる薬用ニンジン | 複数のランダム化比較試験を統合したメタ分析で、倦怠感の軽減に統計的に有意な効果が報告されている | アダプトゲンの中では比較的研究の蓄積が多い部類 |
いずれの成分も、エビデンスの強さや研究の質にはばらつきがあります。「アダプトゲン」とひとまとめに語るのではなく、成分ごとに現在地を確認する姿勢が大切です。
日本におけるアダプトゲンの扱い — アシュワガンダはなぜ買えないのか
日本では、食品と医薬品の境界を「食薬区分」という厚生労働省の基準で判断しています。この基準の中に「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」があり、ここに掲載された原材料は、食品(サプリメントを含む)としての製造販売が認められません。
アシュワガンダ(学名Withania somnifera、リスト表記はウィザニア)は、2013年の「医薬品の範囲に関する基準」改正により、このリストに追加されました。理由として、含有成分であるウィタフェリンAなどの薬理作用(抗炎症作用・抗腫瘍作用・強壮作用など)が、医薬品的な効能効果とみなされたことが挙げられています。この結果、アシュワガンダを主成分とする製品は、国内で食品として製造・販売することができません。
一方、高麗人参やロディオラ、ホーリーバジルなどは、専ら医薬品リストの対象になっていない場合が多く(高麗人参には古くから食品として扱われてきた実績があります)、現時点でサプリメントや機能性ドリンクとして国内でも流通している製品があります。ただし食薬区分の対象品目は随時見直されるため、購入前に成分表示と最新の公的情報を確認することをおすすめします。海外通販サイトでアシュワガンダ配合製品を個人輸入する場合も、国内では販売が認められていない原材料であることを踏まえ、法的なリスクを理解した上で慎重に判断してください。
安全性と注意点
アダプトゲンと呼ばれる成分は「天然由来だから安全」というわけではありません。特に次の点には注意が必要です。
妊娠中・授乳中: アシュワガンダについては、子宮収縮作用の懸念から妊娠中の使用を避けるよう案内されることが一般的です。授乳中の安全性についても十分なデータがなく、使用を避けることが推奨されています。他のアダプトゲン成分についても、妊娠中・授乳中の安全性が十分に確立されていないものが多いため、使用前に必ず医師に相談してください。
医薬品との相互作用: アシュワガンダは、甲状腺ホルモン薬、血糖降下薬、降圧薬、免疫抑制薬、鎮静薬などと相互作用を起こす可能性が指摘されています。持病で通院中の方や服薬中の方は、自己判断で摂取を始めず、医師・薬剤師に確認することが重要です。
症状が続く場合: 不安や不眠、慢性的な疲労感が続く場合、サプリメントで対処しようとする前に、医療機関に相談することをおすすめします。アダプトゲンは医療的な治療の代替にはなりません。
夜の一杯としてのアダプトゲン
近年、アダプトゲンを配合したノンアルコールドリンクや機能性飲料が増えています。これは、CBDと同様に、「お酒に代わる夜の選択肢」を模索する動きの一部と言えます。ただし、CBD製品でCOA(成分分析書)の確認が重要であるように、アダプトゲン配合製品を選ぶ際も、原材料と含有量の表示、そして国内で流通が認められている成分かどうかを確認する姿勢が欠かせません。
こうした機能性ドリンクを含む「代わりの一杯」全体の選択肢については、大人のノンアル完全ガイドで幅広く紹介しています。また、夜のリラックスや眠りを目的にアダプトゲンを試してみたいという方は、アルコールと睡眠の関係を解説した寝酒と睡眠の科学もあわせて読むと、夜の過ごし方全体を見直すヒントになります。
よくある質問
アダプトゲンは飲んですぐ効果を感じられますか?
即効性を保証するだけの十分な根拠は確認されていません。研究の多くは数週間単位の継続摂取を対象にしたものであり、単回摂取での体感を前提にした説明は避けるべきです。
アシュワガンダのサプリは日本で買えますか?
国内での製造・販売は、食薬区分上「専ら医薬品」に分類されているため、原則として認められていません。海外通販での個人輸入を検討する場合は、法的な位置づけと品質面のリスクを理解した上で慎重に判断してください。
妊娠中でもアダプトゲンは摂れますか?
成分によっては妊娠中の使用を避けるよう案内されているものがあります。妊娠中・授乳中の方は、自己判断で摂取せず、必ず事前に医師に相談してください。
アダプトゲンと薬を一緒に飲んでも大丈夫ですか?
成分によっては、甲状腺の薬や血糖降下薬、降圧薬などとの相互作用が報告されています。服薬中の方は、摂取前に医師・薬剤師に確認することをおすすめします。
どの成分が一番研究が進んでいますか?
高麗人参やアシュワガンダは、アダプトゲンの中では比較的研究の蓄積が多い部類です。ただし、研究の蓄積が多いことと、効果が確立していることは同じではありません。エビデンスレベルは成分ごとに確認する必要があります。
まとめ
アダプトゲンは、1940年代のソ連の研究に起源を持つ概念で、「ストレスへの抵抗力を高める」とされる成分群を指します。ただし国際的に統一された定義や薬理学的な合意はまだなく、成分ごとにエビデンスの強さは大きく異なります。アシュワガンダのように国内では食品として扱えない成分もあるため、「話題だから」で選ぶのではなく、成分の研究段階と国内での位置づけを確認した上で、夜の選択肢の一つとして検討することをおすすめします。
参考文献
- European Medicines Agency, Committee on Herbal Medicinal Products (HMPC)「Reflection paper on the adaptogenic concept」 https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/reflection-paper-adaptogenic-concept_en.pdf
- 厚生労働省「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000086062_1.pdf
- 日経メディカル「アシュワガンダが食薬区分の『薬』に」(酒井美佐子のハーブ&アロマの知恵袋、2013年2月) https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/misako/201302/528988.html
- Cheah KL, et al.「Effects of Ashwagandha (Withania Somnifera) on stress and anxiety: A systematic review and meta-analysis」PubMed 39348746
- Ishaque S, Shamseer L, Bukutu C, Vohra S.「Rhodiola rosea for physical and mental fatigue: a systematic review」BMC Complementary and Alternative Medicine, 2012. PMC3541197
- 日本メディカルハーブ協会「疲労の症状管理における人参および人参含有漢方製剤:システマティックレビューおよびメタ解析」 https://www.medicalherb.or.jp/archives/352835
- 日本メディカルハーブ協会「バランスを取り戻して心と体を整える — アダプトゲン:ストレスへの適応力を高めよう」 https://www.medicalherb.or.jp/archives/263166
免責事項
本記事は医療アドバイスではありません。アダプトゲンと呼ばれる成分の効果には研究段階のものが多く、特定の症状の治療や予防を目的とした情報ではありません。持病で通院中の方、服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用前に必ず医師にご相談ください。国内での成分の取り扱いは法改正により変わる可能性があるため、購入前に最新の公的情報をご確認ください。