「アダルトチルドレン」という言葉を、自分の生きづらさを説明する言葉として耳にしたことがある人は少なくないかもしれません。この言葉はもともと、アルコール依存症の親のもとで育った成人(Adult Children of Alcoholics、頭文字を取ってACOA)を指す言葉として米国で使われ始めたもので、日本ではアルコール以外の問題も含む機能不全家庭全般で育った人を指す言葉として広がりました。最初に押さえておきたいのは、アダルトチルドレン(AC)は医学的な診断名ではないという点です。この記事では、言葉の来歴、お酒との関係で葛藤が生じやすい背景、よく挙げられる「ACの特徴」との向き合い方、そしていま困っていることに対して助けになりうるものを、一次資料にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • アダルトチルドレン(AC)はもともとアルコール依存症の親のもとで育った成人(ACOA)を指す言葉で、日本では機能不全家庭全般に広がって使われるようになりました。医学的な診断名ではありません
  • 米国では1970年代に社会福祉の現場で使われ始め、1970年代後半のTony A.による文書や1980年代のクラウディア・ブラック、ジャネット・ウォイティッツの著書を通じて広まりました。日本には1989年、斎藤学によるクラウディア・ブラックの著書の紹介を通じて伝わりました
  • 飲酒問題が親から子へ連鎖しやすいことを示す研究はありますが、遺伝要因と環境要因の両方が関わっており、「ACだから依存症になる」と決めつけられるものではありません
  • 巷で挙げられる「ACの特徴」は、自分に当てはまるかどうかを判定するためのチェックリストではありません
  • ラベルを得ることよりも、いま何に困っているかを言葉にできることのほうが助けになるとされています

アダルトチルドレン(AC)とは — もとは「ACOA」という言葉だった

アダルトチルドレン(AC)は、もともとAdult Children of Alcoholics(ACOA)、つまり「アルコール依存症の親のもとで育った成人」を指す言葉でした。親の飲酒によって家庭内に緊張や不安定さがある環境で子ども時代を過ごし、大人になってからもその影響を感じている人を指します。

日本にこの概念が紹介されたあと、対象はアルコール依存症の家庭に限らず、暴力・過干渉・情緒的な無関心なども含む「機能不全家庭」全般で育った人へと広がりました。精神科医の斎藤学は、明らかな虐待がなくても、近代の核家族という枠組みそのものに機能不全の要素を見いだせる場合があると位置づけ、日本の文脈に合わせた解釈を加えています。

ここで重要なのは、ACは医師やカウンセラーが本人に付与する診断名ではないという点です。長年アルコール依存症の家族支援に携わってきた臨床心理士の信田さよ子は、ACを「いまの自分の生きづらさが親との関係に起因すると認めた人」という自己認知の枠組みとして説明しています。

「アダルトチルドレン」はどこから来た言葉か — 成立と日本への広まり

この言葉の起源をたどると、1960年代末から1970年代にかけての米国の社会福祉の現場に行き着きます。ケースワーカーや依存症の回復支援に携わる人々の間で、アルコール依存症の親を持つ成人を指す言葉として使われ始めたとされ、当初から学術用語として定義されたものではありませんでした。

ACA(Adult Children of Alcoholics World Service Organization)自身がまとめた設立史によれば、アルコール依存症の親のもとで育った人たちが1976年末から1977年にかけて自助グループを形成し、その一人Tony A.がメンバーに背中を押され、共通する特徴を文章にまとめました。これが後に「The Laundry List」と呼ばれ、ACA(ACoA)という自助グループの実質的な始まりとされています。正確な年は同団体自身も特定できないとしつつ、1970年代後半の出来事と位置づけています。その後、1981年のクラウディア・ブラック著『It Will Never Happen to Me!』、1982〜83年のジャネット・ウォイティッツ著『Adult Children of Alcoholics』が米国でベストセラーとなり、この言葉が広く定着しました。

日本には、精神科医の斎藤学がクラウディア・ブラックの著書を監訳した『私は親のようにならない:アルコホリックの子供たち』(誠信書房、1989年)を通じて紹介されたのが始まりとされています。1996年には斎藤学が『アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』を刊行するなど、1990年代にかけて複数の書籍を通じて、日本でも広く知られる言葉になりました。この過程で、対象はアルコール依存症の家庭(ACOA)から、家庭内暴力や過干渉なども含む機能不全家庭全般(まとめてACODと呼ばれることもあります)へと拡張されています。

同じ時期に、アルコール依存症者の配偶者が抱えやすい関わり方を説明する言葉として「共依存」という概念も広まりました。もともとは1970年代の米国の看護現場で生まれた言葉で、当初は「Co-alcoholic」と呼ばれ、アルコール依存症の夫とその妻の関係を指していました。厚生労働省のe-ヘルスネットは、共依存を「依存症者に必要とされることに存在価値を見いだし、ともに依存を維持している周囲の人間のあり様」と説明しています。

似た言葉が並ぶと混同しやすいため、もともとの意味・日本での使われ方・診断名かどうかを整理すると次のとおりです。

言葉もともとの意味日本での使われ方診断名か
アダルトチルドレン(AC)1970年代の米国で使われ始めた言葉1989年に紹介され、機能不全家庭全般で育った人を指す言葉として広がった診断名ではない
ACOA(Adult Children of Alcoholics)アルコール依存症の親のもとで育った成人を指す、ACの原義日本では「AC」という総称に含まれることが多い診断名ではない
機能不全家庭子どもの安心感が損なわれる家庭のあり方を指す語斎藤学らにより、虐待の有無を問わず近代家族一般にも当てはまりうる概念として広げられた診断名ではない
共依存1970年代の米国の看護現場発の語。当初は「Co-alcoholic」と呼ばれた依存症者に必要とされることに存在価値を見いだし、ともに依存を維持する周囲の人のあり様を指す診断名ではない

なぜお酒との関係で葛藤が生じやすいのか

親の飲酒によって緊張や予測のつかない状況が続く家庭で育つと、子どもは自分なりの適応の仕方を身につけていきます。次に何が起きるかわからない状況を察知しようと周囲の顔色や場の空気に敏感になったり、自分の感情を出すより飲んでいる親を刺激しないことを優先したり、家の中の物事が自分のコントロール下にあるかどうかに過敏になったりする傾向は、こうした環境に適応した結果として説明されることがあります。これらは性格の欠陥ではなく、当時の環境の中で身を守るために身についた反応だと理解されています。

一方で、飲酒問題が親から子へ連鎖しやすいことを示す研究もあります。米国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の機関誌に1997年に発表されたマット・マギューによる総説は、双子研究をもとに男性のアルコール依存症で遺伝的要因が重要な役割を果たすと述べ、一卵性双生児のアルコール依存の一致率59%・二卵性双生児36%という報告から遺伝率をおおむね0.5〜0.6と推定しています。女性ではこの結果ほど一貫していません。

重要なのは、この総説自身が強調している限界です。一卵性双生児でも一致率が100%にならないことは、遺伝的リスクだけでは説明できない環境要因の影響が実質的に存在することを示しています。遺伝的な素因があっても、必ずしもアルコール依存症の発症に至るわけではありません。親に飲酒問題があったからといって「ACだから依存症になる」と決めつけられる根拠は、現時点の研究からは見当たりません。親の飲酒がある家庭で子ども時代に何が起きやすいか、予測不能な家庭環境や子どもが担わされる役割逆転については、「親が飲む家庭」で育つとはで具体的に整理しています。

よく挙げられる「ACの特徴」は、チェックリストではありません

ジャネット・ウォイティッツの著書やTony A.のThe Laundry Listでは、アダルトチルドレンに共通するとされる特徴がいくつも列挙されています。人の顔色を読みすぎてしまう、自分の感情より周囲の状況を優先してしまう、物事を自分でコントロールできないと不安になる、といった傾向が例として挙げられることがあります。

ただし、こうした一覧は、当てはまる項目の数を数えて「自分はACである・ない」と判定するためのものではありません。もともと当事者自身が自分の経験を言語化するために作られた文章であり、医学的な診断基準として作られたものでもなければ、当てはまる・当てはまらないで人を分類する目的の一覧でもありません。同じ特徴は、機能不全でない家庭で育った人にも見られることがありますし、同じような家庭環境で育っても、感じ方や表れ方は人によって大きく異なります。挙げられている項目に自分が当てはまるかどうかを気にするより、その先に書く「いま何に困っているか」のほうが、実際には手がかりになりやすいとされています。

「ACである」ことより、いま困っていることに目を向ける

ACという言葉を知ったとき、多くの人が最初にすることは「自分は当てはまるかどうか」を確かめようとすることかもしれません。しかし前述の信田さよ子のAC観が示すとおり、この言葉の役割は診断でも分類でもなく、いまの生きづらさと親との関係を結びつけて言葉にできるようにすることにあります。ラベルを得ること自体が目的ではありません。

たとえば「人に頼ることが苦手」「場の空気が悪くなることに過敏になる」「お酒の席で自分の感覚がわからなくなる」といった困りごとを具体的な言葉にできると、専門機関に相談するときにも状況を伝えやすくなります。

助けになりうるもの

いま困っていることを言葉にできたら、次に頼れる先はいくつかあります。

まず、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関など、家族関係にまつわる相談に対応する専門機関があります。ACという言葉を使わなくても、いまの生きづらさを話すだけで相談を始めることができます。

自助グループとしては、アラノン(Al-Anon)が飲酒問題を抱える人の家族や周囲の人を対象としており、公式サイトによればアダルトチルドレンも参加対象に含まれています。また、機能不全家庭で育った成人を主な対象とするACA(アダルト・チルドレン・アノニマス)という自助グループも国内に複数のミーティングがあります。いずれも専門家主導ではなく同じ経験を持つ人同士が話す場で、参加すれば必ず楽になると断定はできませんが、一人で抱え込まずに話せる選択肢になります。自助グループそのものの違いは断酒会とAAは何が違う?でも整理しています。

つらい経験や感情を言葉にする方法としては、誰にも見せない前提で書き出すエクスプレッシブ・ライティングという手法も知られています。効果の大きさには研究間でばらつきがあり、必ず楽になると言い切れるものではありませんが、話す相手が見つからない夜にできる選択肢の一つとして、エクスプレッシブ・ライティングとはで詳しく扱っています。

自分がいま飲みすぎているかもしれないとき

ACという言葉に触れる中で、自分自身の飲み方が気になり始める人もいます。WHOが開発した飲酒チェック「AUDIT」を使えば、自分の飲み方のリスクを客観的な数字で振り返ることができます。詳しくはAUDITとは?にまとめています。相談先の全体像を先に知りたい場合は、お酒の相談はどこにすればいい?も参考にしてください。

家族の側から読んでいる人へ

この記事は、親の飲酒の影響を受けて育った子どもの立場を中心に整理しました。配偶者や親という立場から、本人がまだ動かない段階で家族に何ができるかを知りたい場合は、家族がお酒の相談をするには?で扱っています。

よくある質問

アダルトチルドレンは病気ですか?

いいえ。アダルトチルドレン(AC)は医学的な診断名ではなく、いまの生きづらさと親との関係を結びつけて振り返るための言葉として使われてきました。医師やカウンセラーが一方的に診断してレッテルとして与えるものではありません。

「ACの特徴」に当てはまったら、自分もアルコール依存症になりますか?

そうとは言えません。ウォイティッツらが挙げた特徴は当事者の経験を言語化したものであり、当てはまる項目の数で将来を予測するための基準ではありません。飲酒問題の世代間連鎖には遺伝要因と環境要因の両方が関わるとされていますが、遺伝的なリスクがあっても必ず発症するわけではないと研究でも指摘されています。

親を責めずにこの言葉を使うことはできますか?

はい。ACという言葉は、親を断罪するための言葉としてではなく、本人が自分の経験を整理するために使われてきました。生きづらさの背景を知ることと、親を責めることは別の話です。

家族が相談できる自助グループはありますか?

はい。アラノンはアダルトチルドレンも参加対象に含んでおり、ACAは機能不全家庭で育った成人を主な対象とする自助グループとして国内に複数のミーティングがあります。専門機関への相談とあわせて、選択肢の一つになります。

まとめ

アダルトチルドレン(AC)は、もともとアルコール依存症の親のもとで育った成人(ACOA)を指す言葉として米国で生まれ、日本では機能不全家庭全般に広がって使われるようになりました。医学的な診断名ではなく、いまの生きづらさを親との関係と結びつけて言葉にするための枠組みです。飲酒問題の世代間連鎖には遺伝要因と環境要因の両方が関わるとされており、「ACだから依存症になる」と決めつけられるものではありません。巷で挙げられる「ACの特徴」は自己診断のチェックリストではなく、当てはまるかどうかより、いま何に困っているかを言葉にすることのほうが助けになるとされています。専門機関への相談やアラノン・ACAのような自助グループ、書くことなど、頼れる選択肢は一つではありません。

参考文献

医療機関への相談について

この記事はアダルトチルドレンという言葉の来歴と、お酒との関係で葛藤が生じやすい背景を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。生きづらさが日常生活に強く影響している場合や、自分自身の飲酒量が気になる場合は、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関、かかりつけ医にご相談ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・心理療法上のアドバイスではありません。家族の飲酒に悩んでいる場合や、ご自身の心身の負担が大きいと感じる場合は、保健所・精神保健福祉センター・アルコール専門医療機関・家族向けの自助グループなどへのご相談をご検討ください。