妊活中の飲酒というと、女性の飲酒を控える話として語られることが多いのが実情です。しかし不妊の原因の一部には男性側の要因も関わっており、妊娠は女性だけの課題ではありません。この記事では、妊活期(プレコンセプションケアの時期)の飲酒について、女性側・男性側それぞれで報告されている研究を一次資料から整理します。「やめれば妊娠しやすくなる」という単純な因果関係を示す研究はなく、すでに不妊治療に取り組んでいる方を追い詰めるための記事でもありません。
この記事の要点
- プレコンセプションケア(妊娠前からの健康管理)は女性・男性双方が対象で、国立成育医療研究センターは男女別のチェックリストを公開しています
- 女性の飲酒と妊よう性(妊娠のしやすさ)の関連は、研究デザインによって結論の強さが異なります
- 男性側でも、飲酒と精液所見・ホルモン値の関連を報告する研究があり、「男性は関係ない」とは言い切れません
- 不妊治療(生殖補助医療)の成績との関連を調べた研究もありますが、飲酒量が少ない範囲では明確な差が出ていない報告もあります
- どの研究も「やめれば妊娠しやすくなる」という因果関係までは示していません
プレコンセプションケアという考え方 — 妊活はふたりの課題です
プレコンセプションケアとは、将来の妊娠・出産を見すえて、妊娠が判明する前から心身の健康に向き合うという考え方です。国立成育医療研究センターはプレコンセプションケアセンターを設置し、女性向け・男性向けのチェックリストを公開しています。女性向けの項目には「アルコールを控える。妊娠したら禁酒する」という記述があり、男性向けの項目にも「たばこや危険ドラッグ、過度の飲酒はやめよう」という記述があります。
女性側には「控える」「妊娠したら断つ」という強めの言葉が使われる一方、男性側は「過度の」飲酒をやめようという、量に条件をつけた表現です。妊活における飲酒の話題が女性側に偏りやすいのは、こうした公的資料の書きぶりにも表れているのかもしれません。こども家庭庁のプレコンセプションケア啓発サイトも「不妊症の原因の約半数は男性側にも関係すると言われています」としたうえで、妊娠は「二人で一緒に考えていくライフイベントです」と説明しています。夫の飲酒・妻の飲酒という切り分けではなく、パートナー2人の課題として見ていく必要があります。
女性の飲酒と妊よう性 — 研究は何を示しているか
妊よう性(妊娠のしやすさ)と飲酒の関連を調べた研究には、いくつかの種類があります。
デンマーク・オーフス大学病院グループが2016年にBMJ誌で発表した前向きコホート研究(Mikkelsen et al., 2016)は、妊活中の女性6,120人を追跡し、週あたりの飲酒量ごとに妊娠の成立しやすさ(fecundability ratio、非飲酒群を1とする)を比較しました。結果は週1〜3杯で0.97、4〜7杯で1.01、8〜13杯で1.01、14杯以上で0.82(95%信頼区間0.60〜1.12)。14杯以上の群だけ数値上は低下していますが、信頼区間が1をまたぎ、統計的にはっきりした差とまでは言えません。著者らは、日常的な飲酒と大量飲酒を区別できていないことや、自己申告による過小申告の可能性を限界として挙げています。
一方、2017年にScientific Reports誌に発表されたシステマティックレビュー・用量反応メタ解析(Fan et al., 2017)は、19件・98,657人の女性データを統合しました。飲酒ありの群全体で妊よう性の推定値0.87(95%信頼区間0.78〜0.95)、少量(1日エタノール12.5g程度)でも0.89(0.82〜0.97)、中等度以上で0.77(0.61〜0.94)と、いずれも1をまたがない形の低下です。12.5g増えるごとに0.98倍(0.97〜0.99)という直線的な用量反応関係も示されました。著者らは、研究間のばらつき(異質性)の大きさ、英語論文のみを対象とした点、自己申告への依存を限界として明記しています。
単独のコホート研究と、複数の研究を束ねたメタ解析とで、結論の強さに違いが出ています。これは飲酒量の測定方法や、対象集団の違いによるものと考えられ、「妊活期の飲酒は妊よう性にまったく関係ない」とも「少しでも飲めば妊娠できない」とも言い切れないというのが、現時点の研究の到達点です。
「男性は関係ない」と言えるのか — 精液所見とホルモンの報告
妊活の飲酒というと女性の話になりがちですが、男性側の飲酒についても研究があります。
2017年にReproductive BioMedicine Online誌に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析(Ricci et al., 2017)は、15件・16,395人の男性データを対象に、飲酒と精液所見の関連を調べました。飲酒ありの群では精液量が0.25mL、精子の正常形態率が1.87ポイント、それぞれ低い傾向が報告されています。ただしこの差は「飲まない人とたまに飲む人」より「たまに飲む人と毎日飲む人」の比較のほうが大きく、少量〜たまに飲む程度では明確な悪影響が見られなかった、と著者らは述べています。
2023年にHeliyon誌に発表されたメタ解析(Nguyen-Thanh et al., 2023)は、40件・23,258人のデータでより幅広い指標を調べました。精液量は標準化平均差-0.51(95%信頼区間-0.77〜-0.25)で有意に低下していましたが、精子濃度・運動率・正常形態率には有意差なし。一方ホルモンは、テストステロン-1.60(-2.05〜-1.15)、卵胞刺激ホルモン(FSH)-0.47(-0.88〜-0.05)、黄体形成ホルモン(LH)-1.35(-1.86〜-0.83)といずれも有意に低下していました。著者らは、飲酒量ごとの詳細分析やメカニズム(酸化ストレス・精子DNA損傷)を調べた研究がまだ十分でないことを限界として挙げています。
精液所見への影響は指標によって結果が分かれる一方、ホルモン値への影響を報告する研究は複数あります。「精子や夫の飲酒は妊活に関係ない」と言い切るには根拠が乏しく、男性側も等しく検討すべき論点だと言えます。
不妊治療(生殖補助医療)の成績との関連
すでに不妊治療に取り組んでいるカップルにとっては、治療の成績と飲酒の関連も気になるところです。
デンマーク・オーフス大学病院グループの前向きコホート研究(Lyngsø et al., 2019、Human Reproduction誌)は、1,708組を対象に人工授精(IUI)1,511周期、体外受精・顕微授精(IVF/ICSI)2,870周期、凍結胚移植1,355周期を追跡しました。週1〜2杯程度の飲酒では出生に至る確率に明確な差はみられませんでした(IUI群のリスク比1.00[0.66〜1.53]、IVF/ICSI群1.00[0.83〜1.21])。ただし週7杯以上の報告数が少なく、多量飲酒の影響は「解釈に注意が必要」と著者ら自身が述べています。
一方、2022年にActa Obstetricia et Gynecologica Scandinavica誌に発表されたシステマティックレビュー・用量反応メタ解析(Rao et al., 2022、飲酒関連9件・計26,922人)は、女性が週84g(酒1杯約10g換算で7杯程度)を超えて飲酒していたグループで、治療後の妊娠率が非飲酒群より7%低いと報告しています。パートナーの男性が同程度以上のグループでは、女性の出生率が9%低いという報告もありました。著者らは、メカニズムの解明がまだ不十分だと限界を述べています。
こうした数字は、不妊治療にすでに取り組んでいる方にとって「もっと早くやめていれば」という気持ちにつながりやすいかもしれません。しかしこれらはあくまで集団データにおける関連であり、個人の治療結果を飲酒歴だけで説明できるものではありません。年齢・ホルモンバランス・基礎疾患など、飲酒以外に関わる要因は数多くあります。過去を悔やむための情報としてではなく、これからの選択肢を考える情報として読んでください。
対象・報告されている関連・研究デザイン・限界
| 対象 | 報告されている関連 | 研究デザイン | 限界 |
|---|---|---|---|
| 女性(妊よう性) | 単独コホートでは中等度までの飲酒に明確な関連なし。19件を統合したメタ解析では少量でも妊よう性の低下 | 前向きコホート研究(6,120人)/システマティックレビュー・用量反応メタ解析(19件・98,657人) | 自己申告の過小評価、研究間のばらつき(異質性)、対象集団の違い |
| 女性(不妊治療の成績) | 週1〜2杯では明確な差なし。週84g超のグループで妊娠率が7%低いとする報告 | 前向きコホート研究(1,708組)/システマティックレビュー・メタ解析(9件・26,922人) | 多量飲酒群の報告数が少なく解釈に注意、メカニズム未解明 |
| 男性(精液所見) | 毎日飲酒する群で精液量・正常形態率が低下。少量〜たまに飲む程度では明確な悪影響見られず | システマティックレビュー・メタ解析(15件・16,395人) | 横断研究のため前後関係の特定が難しい、申告方法の違い |
| 男性(ホルモン) | テストステロン・FSH・LHの低下 | システマティックレビュー・メタ解析(40件・23,258人) | 飲酒量別の詳細分析やメカニズム解明が不十分 |
| 男性(パートナーとしての治療成績) | 週84g超のグループで女性側の出生率が9%低いとする報告 | システマティックレビュー・メタ解析(9件・26,922人、上記と同一研究) | メカニズム未解明、報告数の限界 |
妊娠に気づく前の期間という論点
受精が成立してから、月経の遅れなどで妊娠に気づくまでには、通常いくらかの期間があります。厚生労働省のe-ヘルスネットは、妊娠中の飲酒について「少量の飲酒でも、妊娠のどの時期でも影響を及ぼす可能性がある」としており、胎児の重要な器官がつくられる妊娠のごく初期は特に影響を受けやすい時期とされています。NPO法人ASKも「妊娠に気づく前に飲んでいたというのはよくあること」だとしたうえで、大切なのは気づいた時点からの行動だと説明しています。
つまり、妊活期の飲酒は「妊娠がわかってからやめればいい」では間に合わない場面がある、ということです。この論点と、妊娠成立後のFASD(胎児性アルコール・スペクトラム障害)の話は地続きになっています。詳しい仕組みは妊娠中の飲酒とFASDで解説しているので、あわせて確認してください。
2人で取り組むための実務
妊活期の飲酒を見直すときは、片方だけがやめる形にしないことが続けやすさにつながります。期間をあらかじめ2人で決めておく、外食や会食のときの対応を事前に話し合っておく、といった工夫が挙げられます。飲み会でお酒を断る具体的な言い回しは飲み会の断り方15選にまとめています。
夫婦・パートナーの間でお酒への向き合い方に温度差があるときの工夫は、パートナーとお酒の温度差があるときで扱っています。相手を変えようとせず、一緒に飲まない時間を過ごす関係の作り方の参考にしてください。
飲まない期間の飲み物
お酒を控える期間、代わりに何を飲むかを決めておくと続けやすくなります。妊娠中・授乳中にも飲めるノンアルコールドリンクの選び方は妊娠中・授乳中に飲めるノンアルドリンクで整理しています。妊活期からこうした選択肢に慣れておくと、妊娠がわかった後の切り替えもスムーズになります。
よくある質問
お酒をやめれば妊娠しやすくなりますか?
そう言い切れる研究はありません。ここで紹介した研究はいずれも、飲酒量と妊よう性・不妊治療の成績との「関連」を報告したものであり、飲酒をやめることが妊娠を保証するという因果関係を示したものではありません。
男性はどのくらいの期間、飲酒を見直せばいいですか?
明確な基準を示した研究はありません。参考情報として、日本がん・生殖医療学会は精子が受精能力を持つまで通常74日程度(個人差があり42〜76日)かかるとしており、数か月単位で考えるカップルもいます。ただしこの期間の飲酒量と精液所見の変化を直接調べた研究ではなく、あくまで目安です。
パートナーの片方だけがお酒をやめる形でも大丈夫ですか?
一方だけがやめる形は続けにくいと感じる人が多いようです。期間や対応をあらかじめ2人で話し合っておくことが助けになります。
不妊治療中ですが、これまでの飲酒を後悔しています。
飲酒歴だけで治療結果が決まるわけではありません。年齢やホルモンバランスなど関わる要因は多く、過去を悔やむよりも、これからの選択肢に目を向けることをおすすめします。不安が強いときは、かかりつけの産婦人科医・不妊治療専門医に率直に相談してください。
妊活中、ノンアルコール飲料なら問題ありませんか?
妊活期に限って厳格な基準を示した公的資料は見当たりませんが、妊娠中はアルコール分0.00%表示の商品を選ぶことが推奨されています。妊活期からノンアルコールの選択肢を試しておくと、切り替えがしやすくなります。
まとめ
妊活期の飲酒は、女性側だけの話ではありません。プレコンセプションケアの考え方も、妊よう性・不妊治療に関する研究も、女性・男性双方を対象にしています。研究デザインによって結論の強さは異なり、「やめれば妊娠しやすくなる」という因果関係はどの研究も示していません。すでに不妊治療に取り組んでいる方は、過去を悔やむ材料としてではなく、これから2人でどう向き合うかを考える材料にしてください。
参考文献
- 国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター「プレコン・チェックシート」 https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_check-list.html
- こども家庭庁「はじめよう プレコン」 https://precon.cfa.go.jp/
- Mikkelsen EM, et al. "Alcohol consumption and fecundability: prospective Danish cohort study." BMJ. 2016;354:i4262. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5007353/
- Fan D, et al. "Female alcohol consumption and fecundability: a systematic review and dose-response meta-analysis." Scientific Reports. 2017;7:13815. https://www.nature.com/articles/s41598-017-14261-8
- Ricci E, et al. "Semen quality and alcohol intake: a systematic review and meta-analysis." Reproductive BioMedicine Online. 2017;34(1):38-47. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28029592/
- Nguyen-Thanh T, Hoang-Thi AP, Thu DTA. "Investigating the association between alcohol intake and male reproductive function: A current meta-analysis." Heliyon. 2023;9(5). https://www.cell.com/heliyon/fulltext/S2405-8440(23)02930-4
- Lyngsø J, et al. "Low-to-moderate alcohol consumption and success in fertility treatment: a Danish cohort study." Human Reproduction. 2019;34(7):1334-1344. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31241750/
- Rao W, et al. "The association between caffeine and alcohol consumption and IVF/ICSI outcomes: A systematic review and dose-response meta-analysis." Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica. 2022. https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/aogs.14464
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「胎児性アルコール・スペクトラム障害」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-015.html
- 特定非営利活動法人ASK「妊娠と飲酒 予防のためのメッセージ」 https://www.ask.or.jp/article/8488
- 一般社団法人日本がん・生殖医療学会「男性の方へ」 https://www.j-sfp.org/fertility/male/
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本記事は医療アドバイスではありません。妊活・不妊治療や飲酒との向き合い方について不安がある場合は、自己判断で抱え込まず、かかりつけの産婦人科医・不妊治療専門医、市区町村の母子保健窓口にご相談ください。飲酒のコントロールそのものに不安がある場合は、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関も相談先になります。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
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