カンナ(Sceletium tortuosum)は、南アフリカ原産の多肉植物で、アシュワガンダロディオラマカトンカットアリと並んで、飲まない夜の気分の選択肢として海外のウェルネス市場で語られることが増えているハーブです。ただしカンナは、含有アルカロイドのメセンブリンなどがセロトニン再取り込み阻害(SSRI様)・PDE4阻害という、いわゆる抗うつ薬に近い機序を持つとされている点で、他のアダプトゲン系ハーブとは性質が異なります。この記事では、伝統的な用法から、成分と機序に関する研究、抗うつ薬との併用リスク、そして日本国内での扱いまで、断定を避けながら整理します。

この記事の要点

  • カンナの主要アルカロイド「メセンブリン」は、in vitro試験でセロトニン再取り込み阻害作用(Ki=1.4 nM)とPDE4阻害作用を持つと報告されており、この機序がいわゆる「アダプトゲン」の伝統的な定義とは異なる点に注意が必要です
  • 標準化抽出物「Zembrin」を用いた小規模なヒト試験(気分・不安・認知機能に関するもの)は複数ありますが、いずれも被験者数が少なく、大規模・長期の試験は行われていません
  • 米国の非営利研究機関Alzheimer's Drug Discovery Foundationは、メセンブリンの作用機序を踏まえ「SSRIやSNRIなど、セロトニンの取り込み・放出に影響する薬剤との併用は避けるべき」と注意を促しています
  • 厚生労働省の「専ら医薬品として使用される成分本質リスト」(別添2)にも「非医薬品リスト」(別添3)にも、カンナ・Sceletium tortuosum・メセンブリンという名称の記載は確認できませんでした(2026年7月18日確認)。指定薬物リストにも該当は確認できていませんが、これは食薬区分上の位置づけが明確に定まっていないことを意味します

カンナとは何か — 「コーグド」としての伝統的用法

カンナは、学名を Sceletium tortuosum(旧名 Mesembryanthemum tortuosum)といい、南アフリカに自生する多肉植物です。現地の先住民であるコイサン(コイコイ・サン)の人々の間で、数百年にわたって利用されてきた歴史があり、植物を発酵させて噛む「コーグド(kougoed、「噛むもの」の意)」と呼ばれる伝統的な調製法が知られています。乾燥させた植物をそのまま噛む、喫煙する、お茶として飲む、嗅ぎたばこのように使うといった方法も報告されています。

伝統的には、社交性を高める、気分を上げる、全般的な満足感を高める、記憶力を助ける、持久力を高める、疲労を軽減する、不安や抑うつを和らげる、落ち着きをもたらす、不眠を改善する、渇きや空腹感を紛らわせる、頭痛や歯痛などの痛みを和らげる、吐き気や腹部のけいれんを軽減するなど、非常に幅広い用途で使われてきたとされています。高用量では陶酔感や酩酊感をもたらす使い方もあったと報告されており、先住民の間では医療目的というより娯楽・社交目的での利用が中心だったとされています。

成分と機序 — なぜ「アダプトゲン」の定義と噛み合わないのか

アダプトゲンとは何か、その定義と研究の現在地で解説したとおり、アダプトゲンは伝統的に「無毒性」「非特異的なストレス抵抗力の向上」「生理機能の双方向的な正常化」という3条件で定義されてきました。カンナが海外のサプリメント市場でアダプトゲン系ハーブと並べて紹介されることは多いものの、その主要成分の機序は、この定義とはやや異なる方向を向いています。

カンナに含まれる代表的なアルカロイドは、メセンブリン(mesembrine)、メセンブレノン(mesembrenone)、メセンブレノール(mesembrenol)などです。2011年にJournal of Ethnopharmacology誌に発表されたHarveyらの研究では、これらのアルカロイドについてセロトニントランスポーター(SERT)への親和性が調べられ、メセンブリンがKi=1.4 nM、メセンブレノンがKi=27 nM、メセンブレノールがKi=63 nMという値で、メセンブリンが最も強い阻害作用を示したと報告されています。さらにメセンブレノンは、ホスホジエステラーゼ4型(PDE4)という酵素に対してもIC50値1μM未満という高い阻害活性を持つとされ、標準化抽出物Zembrinそのものも、SERTでIC50=4.3μg/mL、PDE4でIC50=8.5μg/mLという阻害活性を示したと報告されています。

つまりカンナの主要な作用は、「セロトニンの再取り込みを阻害する」という、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と同じ方向の機序と、PDE4阻害という、うつ病治療薬の一部(ロフルミラストなど)にも見られる機序の組み合わせで説明されています。これは、無毒性で非特異的な適応力向上をうたうアダプトゲンの伝統的な定義というより、特定の神経伝達物質系に直接働きかける機序に近く、マカの分類をめぐる議論(マカはアダプトゲンなのかで詳述)とはまた違った意味で、「カンナ=アダプトゲン」という紹介には注意が必要だと言えます。なお、これらの数値は現時点でin vitro(試験管内)の実験データが中心であり、ヒトの体内で同じ強さの作用が再現されるとは限らない点にも留意が必要です。

研究の現在地 — 小規模なヒト試験が中心

カンナに関するヒトでの研究の多くは、南アフリカ産の標準化抽出物「Zembrin」を用いたものです。

2013年にNeuropsychopharmacology誌に発表されたTerburgらの研究は、健康な成人16名を対象にした二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験で、Zembrin 25mgを単回投与した後に機能的MRI(fMRI)で脳活動を測定しました。その結果、低知覚負荷条件で恐怖表情に対する扁桃体の反応性が抑制され、扁桃体と視床下部の機能的結合も低下したと報告されています。この研究はヒトの脳における5-HT再取り込み・PDE4二重阻害薬の効果を調べた最初の試験とされていますが、被験者数は16名と小規模です。

同じく2013年、Journal of Alternative and Complementary Medicine誌に発表されたNellらのランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、健康な成人37名を対象に、Zembrin 8mgまたは25mgを1日1回、3ヶ月間投与し、安全性・忍容性を評価しました。バイタルサイン・心電図・血液検査などに群間の有意差はなく、有害事象の発生率はむしろプラセボ群の方が高かったと報告されています。ただし、この試験は主目的が安全性評価であり、気分や認知機能への効果を検証する設計ではありません。

2014年にEvidence-Based Complementary and Alternative Medicine誌に発表されたChiuらの研究は、45〜65歳の認知的に健康な成人21名を対象にしたランダム化プラセボ対照クロスオーバー試験で、Zembrin 25mgを3週間投与しました。認知的柔軟性(p<0.032)と実行機能(p<0.022)の指標で改善が報告された一方、言語記憶・視覚記憶・処理速度など他の認知指標や、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)による総合的なうつ症状スコアには有意な変化が見られなかったとされています。

このほか、2020年にHuman Psychopharmacology誌に発表されたReayらの研究では、健康な若年成人20名を対象に、模擬スピーチ課題の前に感じる予期不安がZembrin単回投与(25mg)で軽減されたと報告される一方、別の種類のストレス課題(マルチタスク課題)では有意な効果が見られなかったとされています。2020年にJournal of the International Society of Sports Nutrition誌に発表されたHoffmanらの研究では、身体活動的な成人60名を対象に、Zembrin 25mgを8日間投与したところ、認知的負荷を伴う複雑な反応課題の成績は改善した一方、気分や主観的なエネルギー感については有意差が見られなかったと報告されています。

主要研究の一覧

研究年・掲載誌対象規模主な結果主な限界
Harvey et al.2011年・Journal of Ethnopharmacologyin vitro実験メセンブリンのSERT阻害(Ki=1.4 nM)、メセンブレノンのSERT・PDE4阻害を報告in vitroデータであり、ヒト体内での再現性は別問題
Terburg et al.2013年・NeuropsychopharmacologyRCT(クロスオーバー)、16名単回投与で扁桃体の恐怖反応性・扁桃体-視床下部結合が低下被験者数が少なく単回投与のみ
Nell et al.2013年・J Altern Complement MedRCT、37名、3ヶ月安全性・忍容性は良好、有害事象はプラセボ群の方が多い気分・認知への効果検証が主目的ではない
Chiu et al.2014年・Evid Based Complement Alternat MedRCT(クロスオーバー)、21名、3週間認知的柔軟性・実行機能は改善、他の認知指標やうつ症状スコアは非有意被験者数が少なく短期間
Reay et al.2020年・Human PsychopharmacologyRCT、20名スピーチ課題の予期不安は軽減、別のストレス課題では非有意課題の種類によって効果が一貫しない
Hoffman et al.2020年・J Int Soc Sports NutrRCT、60名、8日間複雑な反応課題の成績は改善、気分・主観的エネルギーは非有意短期間、複数の評価項目に多重比較の補正なし

これらの試験に共通するのは、いずれも被験者数が数十名規模にとどまり、投与期間も最長で3ヶ月であるという点です。米国の非営利研究機関Alzheimer's Drug Discovery Foundationが運営するCognitive Vitality Reportsは、カンナに関する評価として「Zembrinは一部の複雑な認知機能や気分を改善する可能性を小規模な臨床試験が示唆しているが、これまでのところ大規模または長期の試験は行われていない」とまとめています。

安全性をめぐる論点 — SSRI・SNRIとの併用リスク

カンナを検討するうえで最も重要な注意点は、メセンブリンなどのアルカロイドがセロトニン再取り込み阻害という、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)と同じ方向の機序を持つとされている点です。

前述のCognitive Vitality Reportsは、薬物相互作用に関する項目で「これまでのところS. tortuosumとの間でハーブ・薬物相互作用が報告された例はない」としながらも、「その作用機序を踏まえると、セロトニンの取り込みや放出に影響を与える薬剤(SSRIやSNRIを含む)と併用すべきではない」と明記しています。同様に、PDE4を阻害するその他の薬剤(慢性閉塞性肺疾患治療薬のロフルミラストなど)との相互作用の可能性も指摘しています。SSRI・SNRI・MAO阻害薬などのセロトニン作動性の薬剤を、作用機序が重なる別の物質と併用した場合に懸念されるのが、発熱・振戦・興奮・頻脈などを伴うセロトニン症候群です。カンナとこれらの薬剤を実際に併用した臨床報告はまだ乏しいものの、機序の重複という理論的なリスクは無視できません。

Nellらの3ヶ月間の安全性試験では、重篤な有害事象は報告されず、有害事象の発生率はプラセボ群の方が高かったとされていますが、この試験の対象は「服薬をしていない健康な成人」であり、抗うつ薬を服用中の人を対象にした安全性データではありません。抗うつ薬・抗不安薬を服用中の方、精神科に通院中の方は、カンナを含む製品を自己判断で試す前に、必ず処方医に相談することが推奨されます。妊娠中・授乳中の安全性を確認したヒトでの臨床試験も見当たらず、この期間の使用は避けるのが妥当です。

日本での扱い — 食薬区分での位置づけが確認できない

日本では、ある原材料を食品として販売できるかどうかを、厚生労働省が定める食薬区分で判断しています。マカの食薬区分の記事で解説したとおり、原材料は「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(別添2、いわゆる医薬品リスト)と、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3、いわゆる非医薬品リスト)のいずれかに振り分けられています。

厚生労働省が公開している両リストの植物由来物一覧をそれぞれ確認しましたが、「カンナ」「Sceletium tortuosum」「メセンブリン」のいずれの名称も、別添2・別添3のどちらにも記載を確認できませんでした(2026年7月18日確認)。また、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく指定薬物についても、カンナやSceletium tortuosumが指定されているという情報は確認できていません。

これは「合法」とも「違法」とも断定できる状態ではなく、日本の食薬区分上の位置づけがそもそも明確に定まっていないことを意味します。厚労省の公式リストのいずれにも収載されていない原材料は、成分本質(原材料)としての整理が確立していない状態にあり、実際にカンナを含む製品は国内の一部通販サイトで流通していますが、その合法性が公的に確認されたわけではありません。メセンブリンがSSRI様の薬理作用を持つとされている以上、将来的に医薬品成分としての整理がなされる可能性も排除できず、現時点では両リストのいずれにも記載がないという事実だけが確認できる状態です。いずれにせよ、医薬品的な効能効果を標ぼうして販売することは薬機法上認められていません。

断酒・減酒後の気分という文脈での位置づけ

断酒や減酒に取り組む中で、「飲まない夜の気分をどう整えるか」という関心から、アダプトゲン系ハーブに注目が集まる場面が増えています。カンナも、そうした文脈で紹介されることがあるハーブの一つです。

しかし、ここまで見てきたとおり、カンナの主要成分はSSRI様・PDE4阻害という、他のアダプトゲン系ハーブとは異なる薬理学的な特徴を持ち、抗うつ薬・抗不安薬との併用リスクが理論的に指摘されています。アダプトゲンとヌートロピックの違いで整理したように、成分によって想定される作用機序はさまざまであり、「ハーブだから穏やか」と一括りにできるものではありません。断酒・減酒中の気分の落ち込みへの対処としては、カンナのような特定の成分に過度な期待を寄せるのではなく、睡眠・運動・生活リズムの見直しを基本に据え、精神科通院中や服薬中の方は必ず主治医に相談したうえで検討するという慎重な姿勢が求められます。国内で食薬区分上の扱いが確立しているハーブを知りたい場合は、日本で合法的に買えるアダプトゲン5選も参考になります。お酒を飲まない選択肢そのものについて基礎から知りたい方は、ソバーキュリアス完全ガイドもあわせてご覧ください。

よくある質問

カンナは日本で合法に買えますか?

厚生労働省の「専ら医薬品として使用される成分本質リスト」(別添2)にも「非医薬品リスト」(別添3)にも、カンナ・Sceletium tortuosum・メセンブリンの記載は確認できませんでした(2026年7月18日確認)。指定薬物リストへの該当も確認できていませんが、これは「合法と確認された」ことを意味するものではなく、食薬区分上の位置づけがそもそも明確に定まっていない状態です。

カンナはアダプトゲンですか?

海外のサプリメント市場ではアダプトゲンの一種として紹介されることがありますが、主要成分のメセンブリンはセロトニン再取り込み阻害(SSRI様)・PDE4阻害という、アダプトゲンの伝統的な定義(無毒性・非特異的な適応力向上・生理機能の双方向的な正常化)とは異なる機序を持つとされています。

抗うつ薬を飲んでいてもカンナを試せますか?

避けるべきです。カンナの主要成分はSSRI・SNRIと同じ方向の機序(セロトニン再取り込み阻害)を持つとされており、これらの薬剤との併用はセロトニン症候群の理論的なリスクが指摘されています。抗うつ薬・抗不安薬を服用中の方、精神科通院中の方は、必ず事前に処方医に相談してください。

カンナの効果に関する研究はどの程度ありますか?

標準化抽出物Zembrinを用いた小規模なランダム化比較試験がいくつかあり、気分・不安・認知機能の一部指標で改善が報告されていますが、いずれも被験者数は数十名規模、投与期間も最長3ヶ月程度です。大規模・長期の試験はまだ行われていません。

まとめ

カンナ(Sceletium tortuosum)は、南アフリカで「コーグド」として噛む伝統的な用法を持つハーブで、近年は気分の選択肢としてアダプトゲン系ハーブと並んで紹介されることが増えています。しかし主要成分のメセンブリンはSSRI様・PDE4阻害という機序を持つとされ、これはアダプトゲンの伝統的な定義とは異なるうえ、抗うつ薬・抗不安薬との併用リスクが理論的に指摘されている点で、他のハーブ以上に慎重な扱いが必要です。ヒトでの研究は小規模なものにとどまり、日本の食薬区分上の位置づけも、厚労省の公式リストのいずれにも記載が確認できないという、位置づけの定まらない状態にあります。「海外で話題だから」「ハーブだから安全」という理由だけで手を伸ばすのではなく、服薬状況や精神科通院の有無を踏まえて医師に相談したうえで検討することをおすすめします。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。カンナ(Sceletium tortuosum)の摂取を推奨するものではなく、海外で行われている研究の現状と、日本国内における食薬区分上の位置づけの確認結果を正確に伝えることを目的としています。カンナの主要成分はSSRI・SNRIと同様の機序を持つとされており、抗うつ薬・抗不安薬を服用中の方、精神科に通院中の方が併用した場合、セロトニン症候群などのリスクが理論的に指摘されています。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用の可否について必ず医師にご相談ください。20歳未満の方への使用は推奨していません。