トンカットアリは、マレーシアやインドネシアなど東南アジアの熱帯雨林に自生する植物の根から作られる伝統的な生薬で、「天然のテストステロンブースター」「マレーシアン人参」というマーケティング文脈で語られることが増えています。海外のサプリメント市場では男性の活力・筋力・性機能を高める成分として人気を集めていますが、実際のところ研究はどこまで進んでいるのでしょうか。この記事では、テストステロンやストレスホルモンに関する臨床研究の現在地、重金属汚染や肝臓への影響といった安全性論点、そして日本国内での食薬区分上の位置づけを、断定を避けながら整理します。

この記事の要点

  • 和名「ナガエカサ」・他名「トンカット・アリ」・部位「根」として厚生労働省の非医薬品リスト(医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質リスト・別添3)に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として販売できます(2026年7月18日確認)
  • テストステロンに関する2022年のシステマティックレビュー・メタ分析は有意な増加を報告していますが、含まれた研究の多くが特定の商業製品を使い、異質性・出版バイアスも指摘されています。ストレスホルモンに関する代表的な研究は、トンカットアリ製品メーカー自身が資金提供したものです
  • EFSA(欧州食品安全機関)は2021年、トンカットアリ根抽出物についてDNA損傷を誘発する可能性を指摘し、「いかなる使用条件においても安全性が確立されていない」と結論づけています。重金属(水銀)汚染の報告もあり、購入時の注意が必要です

トンカットアリとは何か

トンカットアリは、学名を Eurycoma longifolia Jack といい、マレーシア・インドネシア・タイ・ベトナムなど東南アジアの熱帯雨林に自生するニガキ科の低木です。現地では数百年にわたり、根の部分が滋養強壮・疲労回復・解熱・マラリアや赤痢の民間療法・性機能維持など幅広い目的で伝統的に用いられてきたとされています。

海外のサプリメント市場では、こうした伝統的な用途を背景に「マレーシアン人参」「天然のテストステロンブースター」といったマーケティング文脈で紹介されることが一般的で、日本でも同様のイメージで販売されている製品が見られます。トンカットアリに特徴的な成分としては、クアシノイド類(その代表格であるユーリコマノンなど)、カンチン-6-オン系アルカロイド、ビフェニルネオリグナンなどが報告されています。商業的に標準化された抽出物として、LJ100®やPhysta®といったブランド名で流通している製品が複数の臨床研究で使われています。マカと同様、「精力剤」イメージの強い植物である点はマカはアダプトゲンなのかで扱った構図と重なりますが、トンカットアリの場合はより直接的に「テストステロン」を前面に出したマーケティングが特徴です。海外では「アダプトゲン」として紹介されることもありますが、アダプトゲンとは?種類と研究の現在地で解説した伝統的な定義(無毒性・非特異的なストレス抵抗力の向上・生理機能の双方向的な正常化)に厳密に当てはまるかどうかは、マカ同様に議論の余地があります。

研究の現在地(1) テストステロン・性ホルモンとの関係

テストステロンに関する研究として代表的なものに、2022年に学術誌Medicinaに発表されたLeisegangらのシステマティックレビュー・メタ分析があります。この分析では条件を満たす研究9件が系統的レビューの対象となり、うち5件のランダム化比較試験(参加者計232名の男性)がメタ分析に組み込まれました。結果として、トンカットアリ摂取群で総テストステロン値が有意に増加したと報告されており(標準化平均差1.352、95%信頼区間0.565〜2.138、p=0.001)、特に性腺機能低下症(テストステロン低値)の男性でより顕著な効果が見られたとされています。

ただし著者らは、含まれた研究間の異質性が高いこと(I²=87.27%)、Begg検定で出版バイアスの可能性が示されたこと(p=0.0243)、メタ分析に含まれた研究の多くが同一の商業製品(Physta®)を使用していたことを限界として挙げています。

この一角を占める研究が、2021年に学術誌Food & Nutrition Researchに発表されたChinnappanらのランダム化比較試験です。この試験では、テストステロン値300ng/dL未満の50〜70歳の男性105名を、Physta®100mg群・200mg群・プラセボ群に無作為に割り付け、12週間にわたって1日1回摂取してもらいました。200mg群では投与2週目の時点から総テストステロン値が有意に上昇し、加齢男性症状スケール(AMS)や疲労重症度スケール(FSS)も改善したと報告されています。ただしこの試験は、成分メーカーであるBiotropics Malaysia社自身が資金提供しており、著者にも同社関係者が含まれています。研究者自身も、食事・運動・生活習慣のデータを収集していなかった点や対象者数の小ささを限界として認めています。

研究の現在地(2) ストレス・コルチゾールとの関係

ストレスホルモンとの関係を調べた研究として広く引用されているのが、2013年にJournal of the International Society of Sports Nutrition誌に発表されたTalbottらのランダム化比較試験です。この試験では、中程度のストレスがあると判定された成人63名(男性32名・女性31名)を対象に、トンカットアリ標準化抽出物200mg/日またはプラセボを4週間摂取してもらいました。結果として、プラセボ群と比べてコルチゾール量が16%低下し、テストステロン量が37%上昇したと報告されており、気分プロファイル調査(POMS)でも緊張(-11%)・怒り(-12%)・混乱(-15%)のスコアが改善したとされています。

この試験には重要な留保が必要です。研究資金はトンカットアリ標準化抽出物LJ100®の製造元であるBiotropics Malaysia社が提供しており、著者4名のうち少なくとも2名は、トンカットアリ関連企業(製造元および同成分を使ったサプリメントを扱う栄養食品会社)の従業員です。つまり、この研究は製品を販売する側の企業が資金と人員の両面で関与しており、独立した第三者による検証結果とは言えません。効果を評価する際には、この資金源・利益相反を踏まえて割り引いて読む必要があります。

主要研究の一覧

研究年・掲載誌対象規模主な結果主な限界
Leisegang et al.(システマティックレビュー・メタ分析)2022年・MedicinaRCT5件のメタ分析(232名)、系統的レビュー全体では9件総テストステロンが有意に増加(SMD 1.352)、性腺機能低下症群でより顕著高い異質性(I²=87.27%)、出版バイアスの指摘、大半が同一商業製品(Physta)を使用
Chinnappan et al.2021年・Food & Nutrition ResearchRCT、105名(加齢男性、50〜70歳)Physta 200mg群でテストステロン上昇、疲労・QOL改善製造企業(Biotropics Malaysia)が資金提供・著者に同社関係者、食事・運動データ未収集
Talbott et al.2013年・Journal of the International Society of Sports NutritionRCT、63名(男32・女31)コルチゾール-16%、テストステロン+37%、緊張・怒り・混乱スコア改善製造企業(Biotropics Malaysia/LJ100)が資金提供、著者に同社・関連企業の従業員が含まれる
Zakaria et al.2023年・Biology of SportRCT、18名(ラグビー選手)唾液中テストステロン・コルチゾールに有意な変化なし、パフォーマンス・筋損傷マーカーにも効果確認できず若年アスリート限定・7日間の短期投与・小規模

研究の現在地(3) 運動パフォーマンス・筋力との関係

運動パフォーマンスに関する研究は数が少なく、結果も一貫していません。2023年にBiology of Sport誌に発表されたZakariaらのランダム化比較試験では、ラグビー7人制競技の選手18名を対象に、偏心性のレッグプレス運動による筋損傷を引き起こす前の7日間、1日400mg(100mgカプセル×4)のトンカットアリ抽出物またはプラセボを摂取してもらいました。結果として、唾液中のテストステロン・コルチゾール濃度はどちらの群でも変化せず、運動パフォーマンスや筋損傷マーカーへの有意な効果も確認されませんでした。

前述のTalbottらによる別の試験群(ストレス・気分の試験と同じ研究チーム)では、24時間耐久マウンテンバイクレースの参加者を対象にコルチゾール低下・テストステロン上昇を報告したものもありますが、掲載誌の査読体制や信頼性を外部から確認しにくく、確度の高い一次情報とは言いにくい状態です。現時点で、運動パフォーマンスに関する独立性の高い試験としては、むしろ「効果が確認できなかった」とするZakariaらの結果が目立ちます。アダプトゲンとヌートロピックの違いで解説したとおり、短期間の摂取で即座にパフォーマンスが向上するという主張には、現時点で強い根拠がないと理解しておくのが妥当です。

安全性をめぐる論点 — 遺伝毒性・肝臓・重金属汚染

安全性をめぐっては、複数の懸念が報告されています。

遺伝毒性(DNA損傷の可能性): EFSA(欧州食品安全機関)は2021年、トンカットアリ根の標準化水抽出物を新規食品(ノベルフード)として評価した意見書の中で、in vitro染色体異常試験で陽性の結果が確認されたことを指摘しています。さらに追加で行われたin vivoのアルカリコメットアッセイでも、最高用量(体重1kgあたり2,000mg)において接触部位である胃・十二指腸の組織で陽性反応が示され、病理組織学的評価からこれは細胞毒性ではなくむしろ遺伝毒性によるものと考えられると結論づけられています。EFSAは最終的に「本ノベルフードにはDNA損傷を誘発する可能性があり、特に接触部位となる組織にとって懸念される。いかなる使用条件においても安全性は確立されていない」と結論づけました。これはEU域内での特定の抽出物に対する評価であり、市販されているすべてのトンカットアリ製品に一律に当てはまるとは限りませんが、無視できない指摘です。

肝臓への影響: NIHが運営する肝毒性データベースLiverToxは、トンカットアリを「臨床的に明らかな肝障害の稀な可能性のある原因」というカテゴリー(D)に分類しています。ボディビルダーがトンカットアリを含むハーブサプリメントを摂取した後に黄疸を発症した症例報告(ALT値が470→875U/Lへ悪化、ビリルビン値も上昇、入院後14日で改善)が知られていますが、この症例では未承認のアナボリックステロイドを併用していた可能性が指摘されており、トンカットアリ単独が原因と断定する根拠としては弱いとされています。一方、動物実験(4週間・13週間の反復投与試験)では、体重・血液学的検査・血液生化学・尿検査・病理組織学的検査のいずれにおいても、明確な肝毒性は確認されていません。

重金属汚染: 2006年にFood and Chemical Toxicology誌に発表されたAngとLeeによる調査では、マレーシアで流通する「トンカットアリ・ヒタム(黒トンカットアリ)」の製品100点を分析した結果、26%の製品からマレーシアの規制基準(0.5ppm)を超える0.53〜2.35ppmの水銀が検出されたと報告されています。汚染の原因としては、生育地となる沼地・河川周辺の環境汚染が指摘されています。すべての製品に当てはまるわけではありませんが、原材料の産地や品質管理体制が不明な製品には注意が必要です。

以上を踏まえると、トンカットアリは「危険性が確定している」わけではないものの、「安全性が十分に確立されている」とも言い切れない段階にあります。持病がある方、服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は、自己判断で摂取を始めず医師に相談することをおすすめします。

日本でトンカットアリは合法なのか — 食薬区分での扱い

日本では、ある原材料を食品として販売できるかどうかを、厚生労働省が定める食薬区分で判断しています。原材料は大きく分けて、食品として扱えない「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(別添2)と、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として扱える「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3、いわゆる非医薬品リスト)に振り分けられています。

厚生労働省が公開している非医薬品リストの植物由来物一覧を確認したところ、次の記載があります(2026年7月18日確認)。

名称他名等部位等
ナガエカサトンカット・アリ

つまりトンカットアリは、和名「ナガエカサ」・他名「トンカット・アリ」として、根を対象に非医薬品リストに収載されています。マカと同様、根の部分は「疲労回復」「精力増強」のような医薬品的な効能効果を標ぼうしない範囲であれば、食品・サプリメントの原材料として国内でも合法的に製造・販売できるということです。日本国内でのアダプトゲン全般の扱いについてはアダプトゲンは日本で合法かでも整理しています。

ただし、合法性と効果の裏付けは別の話である点には注意が必要です。食品として合法だからといって、パッケージや広告で「テストステロンが増える」「精力がつく」といった医薬品的な効能効果を標ぼうすれば、薬機法(医薬品医療機器等法)違反になり得ます。また、EFSAが指摘したような遺伝毒性の懸念や重金属汚染のリスクは、食薬区分上の合法性とは別の軸の問題であり、「食品として買える」ことが「安全性が確立されている」ことを意味するわけではありません。

断酒・減酒後のエネルギー・活力という文脈での位置づけ

断酒や減酒に取り組む中で、「以前より元気が出ない」「性欲や活力が落ちた気がする」と感じる時期は珍しくありません。トンカットアリが「天然のテストステロンブースター」として語られてきた背景には、まさにこうした活力の落ち込みを補いたいというニーズがあります。

ただし、ここまで見てきたとおり、テストステロンに関する研究の多くは商業製品を使ったものに偏っており、代表的なストレスホルモンの研究は成分メーカー自身が資金提供したものです。さらにEFSAが指摘した遺伝毒性の懸念もあり、「効果があるかもしれないが安全性の評価はまだ途上にある」というのが現在地です。減酒後の活力やエネルギー低下を補う目的でサプリメントを検討する際は、特定成分に過度な期待を寄せるのではなく、睡眠・運動・栄養といった基本的な生活習慣の見直しを優先し、必要に応じてアシュワガンダの研究を読むで紹介したような他の選択肢とあわせて、医師と相談しながら検討するのが現実的です。お酒を飲まない選択肢そのものについて基礎から知りたい方は、ソバーキュリアス完全ガイドもあわせてご覧ください。

よくある質問

トンカットアリは日本で合法に買えますか?

トンカットアリの根は、和名「ナガエカサ」・他名「トンカット・アリ」として厚生労働省の非医薬品リスト(医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質リスト)に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として合法的に製造・販売できます。ただし、パッケージや広告で医薬品的な効能効果を標ぼうすることは薬機法上認められていません。

トンカットアリは本当にテストステロンを増やしますか?

2022年のシステマティックレビュー・メタ分析は、テストステロン値の有意な増加を報告しています。ただし、含まれた研究の多くが同一の商業製品を使用しており、研究間の異質性や出版バイアスの可能性も指摘されているため、「確実に増える」と断定できる段階ではありません。

トンカットアリに副作用や安全性の懸念はありますか?

EFSA(欧州食品安全機関)は2021年、トンカットアリ根抽出物についてDNA損傷を誘発する可能性を指摘し、いかなる使用条件でも安全性は確立されていないと結論づけています。また一部製品では基準値を超える水銀汚染が報告された例もあります。肝障害の症例報告も1件ありますが、他の要因(未承認のアナボリックステロイド併用の可能性)が絡んでいたとされています。

トンカットアリの研究はどれくらい信頼できますか?

ストレスホルモンに関する代表的な研究や、加齢男性を対象にした試験の一部は、成分メーカー自身が資金提供し、著者に同社の関係者が含まれています。独立した第三者機関による大規模な検証はまだ限られており、企業資金による研究であることを踏まえて評価する必要があります。

トンカットアリとマカはどう違いますか?

どちらも「精力剤」イメージの強い植物として語られてきた点は共通していますが、日本の食薬区分上はどちらも根が非医薬品リストに収載され食品として扱えます。一方、トンカットアリはテストステロンに焦点を当てた研究とマーケティングが特徴で、EFSAによる遺伝毒性の懸念が指摘されている点はマカとは異なる論点です。

まとめ

トンカットアリは、東南アジア原産の伝統的な生薬で、日本では根が非医薬品リストに収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として合法的に扱える成分です。テストステロンに関する研究では有意な増加を報告するメタ分析がある一方、含まれた研究の多くが商業製品を使い、代表的なストレスホルモンの研究は成分メーカー自身が資金提供したものである点には注意が必要です。さらに、EFSAが2021年に指摘した遺伝毒性の懸念や、一部製品で報告された重金属汚染は、「食品として合法」であることとは別の軸の安全性論点です。「テストステロンブースターとして有名だから効く」わけでも「食品として買えるから安全」なわけでもなく、研究の資金源・限界と規制上の位置づけを分けて理解する姿勢が大切です。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。トンカットアリの摂取を推奨するものではなく、日本国内における食薬区分上の位置づけと、海外で行われている研究の現状を正確に伝えることを目的としています。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用の可否について必ず医師にご相談ください。EFSAが指摘した遺伝毒性の懸念を踏まえ、長期・高用量での使用には特に慎重な判断をおすすめします。20歳未満の方への使用は推奨していません。