ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum、別名 Ocimum sanctum)は、ヒンディー語で「トゥルシー」と呼ばれ、インドのアーユルヴェーダで「ハーブの女王」とも称されてきたシソ科の植物です。海外ではアシュワガンダやロディオラと並ぶ「アダプトゲン」として、ストレス関連のサプリメントやハーブティーに使われることが増えています。日本では苗やハーブティーとして流通する例も見かけますが、この記事でもっとも正確に伝えたいのは、食薬区分上ホーリーバジルは「専ら医薬品」リストにも「非医薬品」リストにも収載されていない、未収載の状態にあるという点です。断定を避けながら、研究の現在地とあわせて整理します。
この記事の要点
- ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum/sanctum、トゥルシー)は、2026年7月16日時点で確認する限り、厚生労働省の「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」にも「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(非医薬品リスト)にも掲載が確認できない、未収載の状態です
- 非医薬品リストに載っているのは近縁種の「メボウキ」(Ocimum basilicum、一般的な調理用バジル)であり、学名が異なる別種です。これをもってホーリーバジルが自動的に食品扱いできると判断するのは不正確です
- ストレスや睡眠に関する小規模なランダム化比較試験はありますが、系統的レビューでは高品質な試験は少なく、長期の安全性データも不足しています
- 出血リスクの上昇や妊娠中の注意が指摘されており、「天然のハーブだから安全」と単純化できるものではありません
ホーリーバジル(トゥルシー)とは何か
ホーリーバジルは、インド亜大陸を原産とするシソ科メボウキ属(Ocimum属)の植物で、学術文献では Ocimum tenuiflorum または Ocimum sanctum という学名で扱われます。アーユルヴェーダでは数千年にわたり、家庭の庭先や寺院で栽培され、乾燥させた葉を煎じてお茶として飲む習慣が続いてきました。精油成分としてオイゲノール、カンファー、ユーカリプトールなどを含み、これらが抗菌作用や抗炎症作用の裏づけとして研究の対象になっています。
近年の海外のウェルネス業界では、こうした伝統的なハーブが「アダプトゲン」というカテゴリーで語られることが増えています。アダプトゲンとは何を指す言葉で、どこまで研究が進んでいるかについては、アダプトゲンとは?種類と研究の現在地で解説しています。アシュワガンダについては、日本の食薬区分上「専ら医薬品」に明確に区分されている点を含めアシュワガンダの研究を読むで詳しく扱っていますが、ホーリーバジルの規制上の位置づけはそれとは異なる形で不透明です。
日本でホーリーバジルは合法なのか — 食薬区分「未収載」という状態
ここが、この記事でもっとも正確に伝えたい点です。
日本では、ある原材料が食品として販売できるか、医薬品として扱われるかを、厚生労働省が定める食薬区分という仕組みで判断しています。この仕組みには2つのリストがあります。
- 「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(別添2) — ここに掲載された原材料は、食品・サプリメントとして製造・販売できません。アシュワガンダ(ウィザニア)はこのリストに掲載されています。
- 「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3、通称・非医薬品リスト) — ここに掲載された原材料は、効能効果を標ぼうしない限り、食品として扱われます。
2026年7月16日時点で両リストの植物由来物一覧を直接確認したところ、「ホーリーバジル」「トゥルシー」「Ocimum tenuiflorum」「Ocimum sanctum」のいずれの表記でも、どちらのリストにも掲載されていません。つまりホーリーバジルは、医薬品と明確に判断されているわけでも、食品として明確に整理されているわけでもない、未収載の状態にあります。
一方で、非医薬品リストには次の記載があります。
| 名称 | 他名等 | 部位等 |
|---|---|---|
| メボウキ | アルファバーカ/バジリコ/バジル | 全草 |
メボウキの学名は Ocimum basilicum で、これは料理でよく使われる一般的な(スイート)バジルを指します。ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum/sanctum)とは同じシソ科メボウキ属に分類される近縁種ですが、学名の異なる別種です。「バジルの仲間だから」「メボウキが非医薬品リストにあるから」という理由だけで、ホーリーバジルも同じように食品として扱えると判断するのは不正確です。食薬区分は基本的に原材料(植物種)ごとに個別列挙される仕組みであり、近縁種であることが自動的に同じ扱いを意味しません。
現時点の正確な帰結として、ホーリーバジルは「合法」とも「違法」とも断定できない、未収載のグレーゾーンにあります。 食薬区分上のリストに掲載されていない原材料の取扱いについては、地域の薬務主管課(都道府県の薬務課等)への個別照会が案内されているのが実情です。日本国内でハーブティーの茶葉やサプリメントとして「ホーリーバジル」「トゥルシー」を掲げる製品を見かけることがありますが、それが食薬区分上どのような整理を経て流通しているかは製品ごとに異なり、一律に「食品として確定している」と読むことはできません。購入・使用を検討する場合は、この未収載という状態を理解したうえで、必要に応じて所轄の薬務主管課に確認することをおすすめします。
栽培はできるか — 育てることと「食品」として扱うことは別の問題
検索意図として「ホーリーバジル 栽培」を調べる読者も多いため、栽培に関する基本情報も整理しておきます。
ホーリーバジルは本来は多年草ですが、冬の寒さに弱いため、日本の多くの地域では一年草として扱われています。発芽適温はおよそ20℃とされ、気温が15〜20℃以上になる4〜6月頃に種まきを行うのが一般的です。日当たりと風通しの良い場所で育てれば、夏から晩秋にかけて葉を収穫でき、関東地方では7〜10月頃に開花期を迎えます。家庭菜園向けの苗や種は、園芸店やオンラインショップで購入できます。
ただし、観賞用・家庭菜園用として植物を育てること自体と、その葉を乾燥させてお茶やサプリメントという「食品」として製造・販売することは、規制上まったく別の問題です。前述のとおり、ホーリーバジルの食薬区分上の位置づけは未収載で確定していません。自宅で育てた葉を個人で楽しむ範囲を超えて、商品として販売・譲渡することを考える場合は、この規制上の不透明さを踏まえる必要があります。
研究の現在地(1) ストレス・気分・睡眠との関係
ホーリーバジルをめぐる研究で近年注目されているのが、ストレスや睡眠に関する影響です。
オーストラリア・RMIT大学のCohenが2014年に学術誌Journal of Ayurveda and Integrative Medicineに発表したレビューでは、ホーリーバジルには複数の薬理作用の組み合わせにより、身体的・化学的・代謝的・心理的なストレスに対応する可能性が示唆されるとまとめられています。ただしこれは個々の試験を統合した定量的なメタ分析ではなく、既存知見を俯瞰した総説である点には注意が必要です。
より直接的な臨床データとしては、Loprestiらが2022年に学術誌Frontiers in Nutritionに発表したランダム化二重盲検プラセボ対照試験があります。ストレスを感じている成人100名を対象に、ホーリーバジル抽出物(製品名Holixer、1回125mgを1日2回・計250mg)を8週間摂取させたところ、最終的に解析対象となった85名のデータで、知覚ストレス尺度(PSS)のスコアがプラセボ群と比較して有意に改善(ベースラインから37%低下、群間差 p=0.003)し、不眠症状の指標であるアテネ不眠尺度(AIS)のスコアも48%低下したと報告されています。急性ストレス負荷後の唾液コルチゾール値や、毛髪コルチゾール濃度についても、摂取群でプラセボ群より有意に低い値が示されました。
一方で、気分の指標(POMS-A)についてはプラセボ群との間に統計的な有意差が見られず、睡眠時間の測定に使われたFitbitデバイスは総睡眠時間を過大評価する傾向があると著者ら自身が限界として明記しています。「ストレス関連の指標には改善が示唆されるが、気分そのものへの効果や、より厳密な客観的睡眠測定による裏づけはまだこれからの段階」というのが現状です。
研究の現在地(2) エビデンス全体の質をどう見るか
個別の試験だけでなく、蓄積された研究全体の質を評価した系統的レビューも参考になります。
RMIT大学のJamshidiとCohenが2017年に学術誌Evidence-Based Complementary and Alternative Medicineに発表した系統的レビューでは、代謝関連疾患(2型糖尿病・代謝症候群など、15研究)、神経認知機能・気分(不安・ストレス・認知機能、4研究)、免疫・感染症(喘息・ウイルス性肝炎など、5研究)を対象とした計24件の臨床研究が特定されました。すべての研究が好ましい臨床転帰を報告し、重大な有害事象を報告した研究はなかったとされていますが、著者らはこの結果を額面通りには受け取れないと釘を刺しています。24研究のうち、研究の質を評価するJadadスコアで高品質(4〜5点)とされたのはわずか3研究にとどまり、大多数はインド国内で実施され現地の学術誌に発表されたもので、二重盲検デザインを採用していない研究が多く、試験期間も最長13週間と短く、長期的な安全性データが乏しいことが限界として指摘されています。
主要研究の一覧
| 研究 | 年・掲載誌 | 対象規模 | 主な結果 | 主な限界 |
|---|---|---|---|---|
| Cohen | 2014年・Journal of Ayurveda and Integrative Medicine | 既存研究のレビュー | 心理的・代謝的ストレスへの適応を助ける可能性を示唆 | メタ分析ではなく総説 |
| Jamshidi & Cohen | 2017年・Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine | 臨床研究24件 | 全研究が好ましい転帰を報告、重大な有害事象なし | 高品質(Jadad4-5点)は3件のみ、多くが非盲検・短期間 |
| Lopresti et al. | 2022年・Frontiers in Nutrition | RCT、100名(解析85名)、8週間 | PSS37%改善、AIS48%改善、コルチゾール有意低下 | POMS気分スコアは有意差なし、睡眠測定はFitbitで限界あり |
安全性をめぐる論点 — 出血リスクと妊娠中の注意
効果の話と並んで、安全性に関する情報も正確に押さえておく必要があります。
米国の医学参考書Merck Manual(プロフェッショナル版)のホーリーバジルの項目では、人間を対象とした質の高い有効性研究はまだ少ないとしたうえで、いくつかの安全性上の注意点が挙げられています。ホーリーバジルは血小板凝集を阻害し凝固時間を延ばす可能性があるとされ、抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の人や、手術の前後には出血リスクが高まる懸念があります。妊娠中・妊娠を希望する女性については、動物実験で受精卵の着床や妊娠の継続に悪影響を及ぼす可能性が報告されており、安全とはいえないとされています。このほか、甲状腺ホルモン薬の効果を弱める可能性や、バルビツール酸系薬剤の鎮静作用を強める可能性も指摘されており、8週間を超える長期摂取の安全性は確認されていません。
アシュワガンダとの違い、そして日本の現在地
海外のノンアルコール飲料市場やサプリメント市場では、アシュワガンダと並んでホーリーバジルもアダプトゲン系成分として存在感を増しています。ただし日本での規制上の位置づけは、この2つで性質が異なります。アシュワガンダは食薬区分の「専ら医薬品」リストに明確に掲載されており、食品としての製造・販売ができないことがはっきりしています。一方でホーリーバジルは、どちらのリストにも掲載されていない未収載の状態であり、「明確に禁止されている」わけでも「明確に許可されている」わけでもない、別種の不透明さを抱えています。どちらも「海外で人気の成分だから」という理由だけで国内での扱いを推測できない点は共通しており、規制情報が薄い領域だからこそ、断定を避けて一次情報を確認する姿勢が欠かせません。
こうしたアダプトゲンをめぐる規制の読み方全体についてはアダプトゲンと日本の法規制でも整理しています。ハーブティーとしての楽しみ方に関心がある方は、料理とお茶を組み合わせるティーペアリングという夜の遊びもあわせてご覧ください。お酒を飲まない夜の選択肢を広げる視点については、ソバーキュリアスとは?意味・始め方を徹底解説で全体像を解説しています。
よくある質問
ホーリーバジル(トゥルシー)は日本で合法ですか?
「合法」とも「違法」とも断定できません。厚生労働省の食薬区分上、専ら医薬品リストにも非医薬品リストにも(2026年7月16日時点で確認する限り)掲載されておらず、未収載の状態です。取扱いを検討する場合は、所轄の都道府県薬務課等への個別照会が案内されています。
ホーリーバジルと普通のバジル(メボウキ)は同じものですか?
別種です。一般的な料理用バジル(メボウキ、学名Ocimum basilicum)は食薬区分の非医薬品リストに全草で掲載されていますが、ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum/sanctum)はこれとは学名が異なる近縁種であり、非医薬品リストの記載がそのまま適用されるわけではありません。
家庭で育てて自分でお茶にして飲むのは問題ありませんか?
この点について断定的な判断は避けます。観賞用・家庭菜園として植物を育てること自体と、それを商品として製造・販売することは規制上別の問題であり、後者については前述の未収載という不透明な状態が関わってきます。個人の範囲を超えて取り扱う場合は、所轄機関への確認をおすすめします。
ホーリーバジルには本当に効果があるのですか?
「効果がある」と断定できる段階ではありません。ストレス指標や睡眠に関する改善を示唆する研究はありますが、系統的レビューでは高品質な試験が少なく、気分そのものへの効果については有意差が見られなかった研究もあります。研究が進行中の成分として理解するのが適切です。
妊娠中や授乳中でも使えますか?
妊娠中の使用は避けるべきとされています。動物実験で受精卵の着床や妊娠継続への悪影響が報告されており、また血小板凝集を阻害し出血リスクを高める可能性もあるため、抗凝固薬を服用中の方や手術を控えている方も注意が必要です。
まとめ
ホーリーバジル(トゥルシー)は、アーユルヴェーダで長く使われてきた植物で、ストレスや睡眠への好ましい影響を示唆する研究が増えつつありますが、多くはまだ小規模で、系統的レビューでも高品質な試験は限られています。日本での規制上の位置づけについては、厚生労働省の2つのリストのいずれにも掲載されていない未収載の状態であり、「合法」「違法」のどちらにも断定できません。近縁種のメボウキ(一般的なバジル)が非医薬品リストに掲載されていることをもって、別種であるホーリーバジルも同様に扱えると判断するのは不正確です。栽培は日本の気候でも比較的容易ですが、育てることと食品として扱うことは別の問題である点にも注意が必要です。規制と研究の両方を正確に知ったうえで、情報として距離を置いて捉えることが大切です。
参考文献
- 厚生労働省「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(別添2) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000086062_1.pdf
- 厚生労働省「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000086063_1.pdf
- Cohen MM. "Tulsi - Ocimum sanctum: A herb for all reasons." Journal of Ayurveda and Integrative Medicine, 2014. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4296439/
- Jamshidi N, Cohen MM. "The Clinical Efficacy and Safety of Tulsi in Humans: A Systematic Review of the Literature." Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2017. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5376420/
- Lopresti AL, Smith SJ, Metse AP, Drummond PD. "A randomized, double-blind, placebo-controlled trial investigating the effects of an Ocimum tenuiflorum (Holy Basil) extract (HolixerTM) on stress, mood, and sleep in adults experiencing stress." Frontiers in Nutrition, 2022. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9524226/
- Merck Manual Professional Edition "Holy Basil" https://www.merckmanuals.com/professional/special-subjects/dietary-supplements/holy-basil
- LOVEGREEN「ホーリーバジル(トゥルシー)の育て方・栽培方法・栽培」 https://lovegreen.net/library/herb/p91792/
免責事項
本記事は医療アドバイスではありません。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用の可否について必ず医師にご相談ください。本記事はホーリーバジルの摂取や取引を推奨するものではなく、日本国内における食薬区分上の位置づけと、海外で行われている研究の現状を正確に伝えることを目的としています。食薬区分上の未収載原材料の具体的な取扱いについては、最終的に所轄の都道府県薬務課等にご確認ください。20歳未満の方への使用は推奨していません。