飲まない夜のコース料理に、ワインの代わりにお茶を合わせる。「ティーペアリング」と呼ばれるこの遊び方は、国内外のレストランでノンアルコールペアリングの選択肢として広がりつつある。家庭でも、和食に緑茶、脂の多い料理にほうじ茶や紅茶といった「定番とされる」組み合わせから、味の合わせ方を少しずつ試すことができる。この記事では、レストランでの実例、ワインペアリング理論を転用した考え方の枠組み、家庭で試せる組み合わせ例、抽出温度による味の変化までを整理する。

この記事の要点

  • ティーペアリングとは、料理とお茶の組み合わせをワインペアリングと同じように設計する食の楽しみ方で、国内外のレストランでノンアルコールコースの選択肢として広がっている
  • 合わせ方の基本は、ワインペアリング理論にある「同調(似た要素を合わせる)」「中和(強い要素同士を打ち消し合わせる)」の考え方を転用すると整理しやすい
  • 家庭では、和食×緑茶・煎茶、脂の多い料理×ほうじ茶・紅茶、デザート×ハーブティーが「定番とされる」組み合わせの入口になる
  • 同じ茶葉でも抽出温度によって甘み・旨み寄りにも渋み・苦み寄りにもなるため、淹れ方次第で合わせられる料理の幅が変わる
  • 会食のコース料理でも、ノンアルコールペアリング(ティーペアリングを含む)を選べる店が増えており、注文時に一言尋ねる価値がある

ティーペアリングとは? — レストランで広がるノンアルコールコースの選択肢

ティーペアリングとは、コース料理の各皿に、ワインの代わりにお茶を1杯ずつ合わせていく飲み方を指す。単に「食後にお茶を出す」のではなく、皿ごとの味の重さや香りに合わせてお茶の種類・温度・抽出時間を変え、ワインペアリングと同じ精度で「合わせる」ことを狙う点が特徴だ。

東京・神楽坂のフレンチレストラン「HASABON」は、ティーソムリエが選定した茶葉でコース料理に合わせる「HASABONティーペアリング」を提供している。公開されている実例として、醤油・味醂・酒・サワークリームを使った甘酸っぱいソースのアジのマリネに、乳酸発酵の酸味を持つ阿波晩茶を合わせる組み合わせが紹介されている。ソースの酸味と茶の発酵由来の酸味という、共通する味の要素を軸にした合わせ方だ。

海外に目を向けると、ミシュランガイド公式サイトの記事は、ボトリングされたお茶が持つ再現性の高い味わいのプロファイルによって、シェフやソムリエがワインペアリングと同じ精度でお茶を扱えるようになっている潮流を紹介しており、京都のホテル「アマン京都」がノンアルコール飲料として提供する「ロイヤルブルーティー」を例に挙げている。ノンアルコールでコースを楽しみたいという需要が、ティーペアリングという専門領域を育てている構図がうかがえる。

合わせ方の考え方 — ワインペアリング理論を転用する

ティーペアリングに専門の理論体系があるわけではない。現時点で参照できるのは、ワインと料理の組み合わせについて積み上げられてきたペアリング理論で、これをお茶に置き換えて考える、というのが実務的なアプローチになる。

ワイン専門商社モトックスの公式コラムによれば、ペアリングの基本的な考え方には「同調」「中和」「補填」「食感」の4つがあるとされる。特に軸になるのが次の2つだ。

これをお茶に転用すると、「脂の多い料理には、渋みや香ばしさのあるお茶で脂を流す(中和)」「繊細な白身魚には、香りの淡いお茶を合わせて素材の味を邪魔しない(同調)」といった整理ができる。加えて、料理とお茶に共通する香りの要素を探して結びつける「香りの橋渡し」という考え方も、ワインペアリングの実践でよく使われる発想だ。焙煎香のあるほうじ茶と炭火焼き料理、穀物由来の香ばしさを持つ玄米茶と根菜料理のように、共通する香りの軸を探すと組み合わせを考えやすくなる。

いずれも「絶対に合う」という断定ではなく、味の設計図として考え方を借りているにすぎない。実際に合うと感じるかどうかは、最終的には飲む人の好み次第になる。

家庭でできる組み合わせ例 — 定番とされる4パターン

家庭で試すなら、まずは「重さを合わせる(同調)」と「脂を流す(中和)」の2軸で、定番とされる組み合わせから始めるとわかりやすい。

料理のタイプ候補のお茶考え方備考
和食(刺身・煮物など、あっさり系)緑茶・煎茶同調(渋みの軽さと料理の繊細さを合わせる)和食との組み合わせとして定番とされる。渋みが強すぎない浅めの抽出が合わせやすい
脂の多い肉料理(焼肉・ステーキなど)ほうじ茶・紅茶中和(焙煎香やタンニンで脂をリセットする)焙煎香・渋みのある濃いめのお茶が脂の重さと釣り合いやすいとされる
発酵・酸味のある料理(マリネ・酢の物など)阿波晩茶などの発酵茶同調(酸味同士を重ねる)HASABONの実例のように、料理側の酸味とお茶側の発酵由来の酸味を合わせる考え方
デザート・甘いものカモミール・ルイボスなどハーブティー同調または対比(甘い香りを重ねる、清涼感で対比させる)ノンカフェインで就寝前にも選びやすい。好みに応じてどちらの方向性でも試す価値がある

この表はあくまで「定番とされる」入り口であり、正解を示すものではない。同じ「肉料理」でも脂の量や味付けによって合うお茶は変わるため、実際に何皿か試しながら、自分の舌で調整していくのがティーペアリングの楽しみ方だ。

お茶の温度で味は変わる? — 抽出の工夫でペアリングの幅を広げる

同じ茶葉でも、抽出温度によって味の性格は大きく変わる。茶葉専門店・佐藤園の解説によれば、煎茶を60〜70℃程度の低めの温度で淹れると、甘み・旨みの成分であるテアニン(アミノ酸)が主に溶け出し、渋みや苦みを抑えたまろやかな味になる。一方、80〜90℃程度の高めの温度で淹れると、渋みや苦みの成分であるカテキンやカフェインの溶出が増え、しっかりとした渋みのある味になるという。

この性質は、そのままペアリングの調整に使える。繊細な素材の料理には低温で淹れた甘み寄りのお茶を、脂の多い料理には高温でしっかり渋みを引き出したお茶を、というように、茶葉を変えなくても抽出温度を変えるだけで「合わせる相手」の幅を広げられる。

なお、抽出温度を上げるとカフェイン量も増える傾向がある。就寝前の一杯としてティーペアリングを楽しみたい場合は、カフェインの少ない低温抽出を選ぶか、そもそも麦茶やハーブティーなど茶葉(チャノキ)由来ではないお茶を候補に入れるとよい。夜のカフェインとの付き合い方は夜に飲めるお茶ガイド、抹茶とカフェインの関係は抹茶のカフェインはコーヒーの何倍?で詳しく扱っている。

会食のコースでノンアルコールペアリングを選ぶことはできる?

結論から言えば、選べる店は増えている。ミシュランガイド公式サイトの記事が指摘するように、ノンアルコールでのペアリング需要は、シェフやソムリエが茶やボトリング飲料を専門的に扱う動きを後押ししており、日本国内にもHASABONのようにティーペアリングをメニューとして明示する店が出てきている。

会食や接待のコースでこれを試したい場合は、予約時か乾杯前のタイミングで「ノンアルコールペアリングはありますか」「お茶でのペアリングはできますか」と一言尋ねてみるとよい。ワインペアリングほど普及してはいないため、店によっては用意がないこともあるが、近年のノンアルコール需要の高まりを踏まえると、対応できる店は今後も増えていくと考えられる。接待や商談の場でお酒を飲まない選択をする実践的なコツは接待で飲まずに信頼を得るでまとめている。

家で気軽に試したい場合は、モクテルとの組み合わせで飲み比べるのもおもしろい。モクテルとは?家で作れる定番レシピ10や、脱アルコール製法を扱うノンアルコールワインはおいしいのかもあわせて読むと、ノンアルコールの選択肢全体を見渡しやすくなる。

よくある質問

ティーペアリングとワインペアリングは何が違いますか?

飲み物がお茶かワインかという違いはあるが、料理の味の重さや香りに合わせて飲み物を選ぶという設計の考え方自体は共通している。ティーペアリングは、ワインペアリングで積み上げられてきた「同調」「中和」といった理論を、お茶という別の飲み物に転用して実践しているのが現状だ。

家でやるなら、どのお茶から始めるのがおすすめですか?

入手しやすさで言えば、緑茶(煎茶)とほうじ茶の2種類から始めるのが試しやすい。和食のあっさりした料理には緑茶、脂の多い料理にはほうじ茶を合わせ、抽出温度を変えながら味の変化を確かめてみるとよい。

カフェインが気になる夜でも、ティーペアリングは楽しめますか?

楽しめる。麦茶・ルイボスティー・カモミールなど、チャノキ由来ではないお茶(茶外茶)を候補に入れれば、カフェインを気にせずペアリングを試せる。カフェインを含むお茶の場合も、低温で淹れることで含有量を抑えやすい。

レストランでティーペアリングを頼むには、どう伝えればいいですか?

予約時か来店時に「ノンアルコールペアリングはありますか」「お茶でのペアリングは可能ですか」と尋ねるのが確実だ。メニューに明示されていない店でも、要望として伝えることで個別に対応してもらえる場合がある。

抹茶もティーペアリングに使えますか?

使える。抹茶は茶葉を丸ごと飲む形態のため旨み・渋みともに濃く出やすく、重めの料理や甘いデザートとの組み合わせで使われることがある。カフェイン量については前述の記事を参考にしてほしい。

まとめ

ティーペアリングは、ワインの代わりにお茶で料理を引き立てる、ノンアルコールの食の楽しみ方だ。レストランでは、ティーソムリエが茶葉を選ぶHASABONのような専門店や、ボトリングされたお茶を扱う海外の潮流が生まれつつある。家庭で試すなら、まずは「同調(似た要素を合わせる)」と「中和(強い要素を打ち消し合わせる)」という2つの考え方を軸に、和食×緑茶、脂の多い料理×ほうじ茶といった定番の組み合わせから始めるとよい。抽出温度で味の性格が変わることも覚えておくと、同じ茶葉でも合わせられる料理の幅が広がる。正解を求めるより、何杯か試しながら自分の舌に合う一杯を見つけていくこと自体が、ティーペアリングという遊びの本体だ。

参考文献