「カフェインとテアニンを一緒に摂ると集中力が上がる」という話は、ヌートロピック(認知機能に働きかけるとされる成分)界隈で最もよく語られる「スタック」の一つです。実際、この組み合わせについては2000年代以降、複数のランダム化比較試験(RCT)と、それらを統合したメタ分析が発表されており、ヌートロピックというカテゴリーの中では例外的に研究の蓄積があります。ただし、正直に読むべき点が4つあります。主要な研究の多くは小規模で単回投与にとどまること、中心的な研究のいくつかは紅茶ブランドLiptonを展開するUnileverの所属研究者によるものであること、「テアニンがカフェインのそわそわ感を和らげる」という通説ほどの裏付けは実はないこと、そして抹茶1杯に含まれるテアニン量は研究で使われた量に遠く及ばないことです。この記事では、研究の中身と、その研究をどう読むべきかを、断定を避けながら整理します。
この記事の要点
- カフェインとテアニンの併用RCTは複数あり、メタ分析では投与2時間後の単純反応時間や注意切替課題の正確性に改善が示唆されています
- ただし主要3研究(Owen 2008・Haskell 2008・Giesbrecht 2010)はいずれも小規模・単回投与で、うち2つ(Owen・Giesbrecht)は紅茶ブランドLiptonを展開するUnileverの所属研究者によるものです
- 「テアニンがカフェインのジッター(そわそわ感)を和らげる」という通説は、実際の研究では血圧上昇の抑制のみ確認され、主観的なそわそわ感や不安には有意差がありませんでした
- 抹茶2g(茶杓1杯強・薄茶1杯分)に含まれるテアニンは実測データから換算すると約8〜20mgで、研究で効果が示された用量(97〜250mg)には一桁足りません
「スタック」とは何か
「スタック」は、複数の成分を組み合わせて摂ることで相乗効果を狙う、ヌートロピック文脈の業界用語です。学術的に確立した用語ではなく、あくまでサプリメント愛好者やウェルネス業界の間で使われている呼び方だという前提を押さえておく必要があります。アダプトゲン(ストレスへの適応を扱う概念)とヌートロピック(認知機能の向上を扱う概念)は、由来も対象とする体のはたらきも異なる別の概念です。両者の違いはアダプトゲンとヌートロピックの違いとは?で整理しています。数あるスタックの組み合わせの中でも、カフェインとテアニンの併用は「最も研究例が多い組み合わせ」として紹介されることが多く、その意味でヌートロピックのスタックの中では珍しく、実証研究に基づいて語れる部類に入ります。
カフェイン×テアニンの併用RCTを読む
まず押さえておきたいのは、カフェインとテアニンをそれぞれ単独で摂った場合と、両方を組み合わせて摂った場合とでは、結果が異なるという点です。
2008年にGail N. OwenらがNutritional Neuroscience誌に発表した二重盲検クロスオーバー試験(27名)では、カフェイン50mg・テアニン100mgの組み合わせを摂った条件でのみ、注意切り替え課題の速度と正確性が同時に改善し、記憶課題における妨害情報(ダミー単語)への耐性も高まりました。カフェイン単独でも注意切替課題の改善は見られましたが、速度と正確性が同時に改善したのは併用条件のみでした。
同じく2008年にCrystal F HaskellらがBiological Psychology誌に発表した試験(24名)では、テアニン250mg・カフェイン150mgという、Owenの試験より高用量の組み合わせが使われています。この試験では、ワーキングメモリの反応時間、文章検証課題の正確性、主観的な覚醒度の改善が、併用条件でのみ有意に見られました。テアニン単独では逆に頭痛の評価が上がり計算課題の正答率が下がる、カフェイン単独では視覚情報処理の精度向上といった、単剤ごとに異なる効果も観察されています。
2010年にTonny GiesbrechtらがNutritional Neuroscience誌に発表した試験(44名)は、テアニン97mg・カフェイン40mgという、お茶1杯に近い低用量で行われた点が特徴です。この用量でもタスク切り替えの正確性と主観的な覚醒度の改善、疲労感の低下が確認されています。
これらを含む16件のRCT(参加者計484名)を統合した2025年のメタ分析(Payne ら、Nutrition Reviews誌)では、投与2時間後の単純反応時間に中程度の改善(標準化平均差SMD −0.71、95%信頼区間 −0.92〜−0.50)、注意切替課題の正確性に小〜中程度の改善(SMD 0.33、95%信頼区間 0.13〜0.54)が報告されています。一方、選択反応時間については信頼区間がゼロをまたいでおり、効果があるとは言い切れない結果でした。
主要研究の一覧
| 研究 | 年・掲載誌 | 対象規模 | 用量 | 改善が見られた項目 | 資金・所属 |
|---|---|---|---|---|---|
| Owen et al. | 2008年・Nutritional Neuroscience | 27名(二重盲検クロスオーバー) | カフェイン50mg+テアニン100mg | 注意切替課題の速度・正確性(併用時のみ同時に改善)、妨害情報への耐性 | Unilever R&D所属 |
| Haskell et al. | 2008年・Biological Psychology | 24名 | テアニン250mg+カフェイン150mg | ワーキングメモリ反応時間、文章検証の正確性、主観的覚醒度(いずれも併用時のみ有意) | 英ノーサンブリア大学(所属機関の記載上、産業資金源は確認できず) |
| Giesbrecht et al. | 2010年・Nutritional Neuroscience | 44名 | テアニン97mg+カフェイン40mg(お茶に近い低用量) | タスク切り替えの正確性、主観的覚醒度、疲労感の低下 | Unilever R&D / Lipton Institute of Tea所属 |
| Payne et al.(メタ分析) | 2025年・Nutrition Reviews | 16試験・484名 | 各試験で異なる | 単純反応時間(SMD −0.71)、注意切替の正確性(SMD 0.33)が改善。選択反応時間は信頼区間がゼロをまたぎ不確実 | 採用試験の資金源は産業資金が最多(8件)、次いで学術(4件)、政府(2件) |
資金構図をどう読むか
ここは正直に書いておきたい点です。表からもわかるとおり、カフェイン×テアニン併用の中心的な研究のうち、OwenとGiesbrechtの2本は、いずれもUnileverの所属研究者によるものです。Owenの試験は著者がUnilever Research and Development(英国コルワースハウス)に所属し、Giesbrechtの試験も、著者はUnilever R&D、および紅茶ブランドLiptonの研究部門であるLipton Institute of Teaに所属しています。つまり「お茶の成分の効果を、お茶を売る企業自身が検証してきた」という構図が、この研究領域には色濃くあります。
一方でHaskellの試験は英ノーサンブリア大学の研究者によるもので、少なくとも所属機関の記載からは産業資金との直接的なつながりは確認できません。また2025年のメタ分析自体は、統合した16件の試験の資金源を透明に開示しており、産業資金が最多(8件)である一方、学術機関(4件)や政府(2件)を資金源とする試験も含まれています。つまり「この分野の研究がすべて企業資金によるもの」とまでは言えませんが、代表的な研究の少なくとも一部が製品を持つ企業自身によるものであるという事実は、読者が結果を評価する際に知っておくべき情報です。研究が無効だという意味ではなく、割り引いて読むための前提として押さえておく必要があります。
「テアニンがジッターを和らげる」は本当か
「テアニンを一緒に摂るとカフェインのジッター(そわそわ感)や不安が和らぐ」という説明は、サプリメント関連の記事で広く見かけます。しかし、この通説を直接検証した2008年のRogersらによる試験(Psychopharmacology誌、48名)の結果は、通説ほど単純ではありません。
この試験ではカフェイン250mg・テアニン200mgの組み合わせが検証され、テアニンはカフェイン摂取による血圧上昇を抑制することが確認されました。しかし、主観的なそわそわ感(ジッター感)や不安、その他の気分の側面については、テアニンの併用による有意な効果は見られませんでした。つまり「血圧という生理指標には効果があるが、本人が感じる落ち着きには効果が確認されていない」というのが、現時点での正確な言い方です。「テアニンを足せばカフェインの不快感が消える」というほど単純な話ではないことは、正直に伝えておく必要があります。
お茶1杯で研究と同じ効果は得られるのか
ここまで見た研究の用量は、いずれも茶葉ではなくカフェインとテアニンの精製された形で投与されたものです。お茶1杯を飲むだけで同じ効果が得られるのかは、また別に検証が必要な問いです。
査読を経た実測研究(Koláčková ら、2022年、Antioxidants誌)では、市販の抹茶粉末3製品を分析し、粉末1gあたりカフェイン14.1〜16.1mg、L-テアニン4.22〜9.85mgという値が報告されています(製品間でばらつきあり)。この数字から換算すると、抹茶2g(茶杓1杯強・薄茶1杯分)に含まれるテアニンはおよそ8〜20mg程度です。研究で効果が示された用量は最も少ないGiesbrechtの試験でも97mg、Owenの試験は100mg、Haskellの試験は250mgですから、抹茶1杯のテアニン量はそのいずれにも一桁足りません。「抹茶はカフェインとテアニンを両方含む数少ない飲み物」であること自体は事実ですが、「抹茶1杯=研究と同じスタック効果」とは言えないのが実情です。抹茶とコーヒーのカフェイン量の比較や、テアニンそのものの研究の現在地については抹茶のカフェインはコーヒーの何倍?とL-テアニンとくつろぎの研究で詳しく解説しています。
研究用量に近い形で試したい場合の現実的な選択肢としては、L-テアニンを主要な関与成分とする機能性表示食品があります。たとえば伊藤園の届出例(届出番号H1334)では、テアニン200mgの配合について「一過性の作業にともなうストレスをやわらげる機能が報告されている」とする届出内容が公表されています。これは特定の製品を推奨する趣旨ではなく、消費者庁の機能性表示食品制度のもとで、研究用量に近い量を摂る手段が実際に存在するという事実の紹介です。なお機能性表示食品は事業者による届出制であり、国による個別審査を経たものではない点も踏まえておく必要があります。
安全に試すなら
「研究で改善が報告された条件を再現する」という枠組みで考えるとしても、安全性の目安は別に押さえておくべきです。カフェインについては、健康な成人で1日400mgまでが一つの目安とされています(米国FDA・欧州食品安全機関EFSA等の評価に基づく数字。農林水産省「カフェインの過剰摂取について」でも紹介されています)。妊娠中は、同ページで紹介されているEFSAの評価にもとづき1日200mgまでが目安とされ、過剰摂取時にはめまい・心拍数の増加・不安・不眠などの症状が起こりうるとされています。
カフェインへの感受性には個人差が大きく、代謝の速さや摂取のタイミングによって夜の睡眠への影響も変わります。何時までに摂取を切り上げるべきかという考え方はカフェインは何時まで?効果時間と半減期から逆算するで解説しています。また、飲酒の翌日は集中力そのものが下がるという研究知見もあり、前夜の飲酒とディープワークの関係については前夜の一杯が集中力を奪うで扱っています。カフェインとテアニンのスタックを試すかどうかにかかわらず、集中力を支える土台としての夜の過ごし方を見直すことも、選択肢の一つです。
よくある質問
コーヒーとテアニンサプリを別々に摂ってもスタックの効果はありますか?
研究の多くは、カフェインとテアニンをあらかじめ配合した飲料やカプセルで検証しており、コーヒーとテアニンサプリを別々に摂った場合の効果を直接検証した研究は確認できていません。理屈の上では同時に体内に入れば近い状態になると考えられますが、これは推測であり、検証された事実ではない点にご注意ください。
毎日続けると効果は積み重なりますか?
ここで紹介した研究はいずれも単回投与(1回だけ摂取して効果を見る)のデザインで行われており、継続摂取した場合の効果を検証したデータは確認できていません。「毎日続ければ効果が増す」と言える根拠は現時点でありません。
抹茶1杯でも多少の効果は期待できますか?
抹茶にはカフェインとテアニンの両方が含まれますが、前述のとおりテアニン量は研究用量の一桁下です。研究と同じ規模の効果を抹茶1杯に期待するのは現実的ではありません。ただし、味や所作、低カフェインという抹茶ならではの価値は、スタックとしての効果とは別に成り立つものです。
エナジードリンクや他のカフェイン飲料と併用しても大丈夫ですか?
カフェインは複数の飲料・食品から重複して摂取されがちなので、エナジードリンクやコーヒーなど他のカフェイン源と併用する場合は、合計量が1日400mgの目安を超えないよう管理することが重要です。カフェインに敏感な人は、より少ない量でも動悸や不眠などの症状が出ることがあります。
子どもが摂っても問題ないですか?
ここで紹介した研究はいずれも成人を対象にしたものです。子どものカフェイン摂取については、成人とは別の慎重な配慮が必要とされており、この記事の情報を子どもに当てはめることはできません。
まとめ
カフェインとテアニンの併用は、ヌートロピックのスタックの中では珍しく、複数のRCTとメタ分析という形で研究が積み重ねられてきた組み合わせです。投与2時間後の単純反応時間や注意切替課題の正確性に改善が示唆される一方、主要な研究の多くは小規模・単回投与にとどまり、中心的な2本(Owen・Giesbrecht)はお茶を売る企業であるUnileverの所属研究者によるものです。「テアニンがジッターを和らげる」という通説も、血圧への効果は確認されたものの、主観的な落ち着きへの効果までは裏付けられていません。そして抹茶1杯に含まれるテアニンは、研究で効果が示された量には遠く及びません。「研究が厚い組み合わせ」であることと、「日常の一杯がその研究と同じ効果を持つこと」は別の話だと理解した上で、情報として距離を置いて捉えることが大切です。
参考文献
- Owen GN, Parnell H, De Bruin EA, Rycroft JA. "The combined effects of L-theanine and caffeine on cognitive performance and mood." Nutritional Neuroscience, 2008;11(4):193-198. DOI: 10.1179/147683008X301513 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18681988/
- Haskell CF, Kennedy DO, Milne AL, Wesnes KA, Scholey AB. "The effects of L-theanine, caffeine and their combination on cognition and mood." Biological Psychology, 2008;77(2):113-122. DOI: 10.1016/j.biopsycho.2007.09.008 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18006208/
- Giesbrecht T, Rycroft JA, Rowson MJ, De Bruin EA. "The combination of L-theanine and caffeine improves cognitive performance and increases subjective alertness." Nutritional Neuroscience, 2010;13(6):283-290. DOI: 10.1179/147683010X12611460764840
- Payne ER, Aceves-Martins M, Dubost J, Greyling A, de Roos B. "Effects of Tea (Camellia sinensis) or its Bioactive Compounds l-Theanine or l-Theanine plus Caffeine on Cognition, Sleep, and Mood in Healthy Participants: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials." Nutrition Reviews, 2025;83(10):1873-1891. DOI: 10.1093/nutrit/nuaf054
- Rogers PJ, Smith JE, Heatherley SV, Pleydell-Pearce CW. "Time for tea: mood, blood pressure and cognitive performance effects of caffeine and theanine administered alone and together." Psychopharmacology, 2008;195(4):569-577. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17891480/
- Koláčková T, et al. "The Effect of In Vitro Digestion on Matcha Tea (Camellia sinensis) Active Components and Antioxidant Activity." Antioxidants, 2022;11(5):889. DOI: 10.3390/antiox11050889 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9137484/
- 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html
- 伊藤園「機能性表示食品『お抹茶入り お~いお茶』を、10月2日(月)に新発売」ニュースリリース(届出番号H1334・L-テアニン200mg) https://www.itoen.co.jp/news/article/56682/
免責事項
本記事は医療アドバイスではありません。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方、カフェインに敏感な体質の方は、摂取の可否について医師にご相談ください。本記事はカフェイン・テアニンの摂取や特定製品の使用を推奨するものではなく、研究の現在地と読み方を正確に伝えることを目的としています。20歳未満の方への使用は推奨していません。