高麗人参(オタネニンジン、学名 Panax ginseng)と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは「おじいちゃんの滋養強壮剤」というイメージかもしれません。しかし、この馴染み深いハーブこそが、実は「アダプトゲン」という概念が最初に育まれた原点のひとつです。この記事では、高麗人参がなぜアダプトゲンの代表格とされるのかという歴史的な経緯と、ジンセノサイドという成分をめぐる研究の現在地、そして日本国内での位置づけを、断定を避けながら整理します。

この記事の要点

  • 高麗人参は、アダプトゲン概念を体系化した薬理学者イスラエル・ブレクマンが1969年に最初に「アダプトゲン」として言及した植物のひとつとされています(Ratanら, 2020, Journal of Ginseng Research)
  • 疲労軽減については複数のメタ分析で統計的に有意な改善が報告されていますが、認知機能への効果は研究間で結果が割れています
  • 日本では厚生労働省の「非医薬品リスト」にオタネニンジン(果実・根・根茎・葉)が収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として販売できます
  • カフェインは含まれていませんが、不眠が最も一般的な副作用として報告されており、就寝直前の摂取には注意が必要です

高麗人参とアダプトゲン — 概念誕生の原点にいた植物

アダプトゲンという用語自体は、1947年に旧ソ連の学者ニコライ・ラザレフが提唱したものです。その定義や研究史の全体像についてはアダプトゲンとは?種類と研究の現在地で詳しく解説していますが、この記事で押さえておきたいのは、高麗人参がその歴史の中心にいた植物だという点です。

Journal of Ginseng Research誌に2020年に発表されたRatanらのレビュー論文によると、ラザレフの弟子である薬理学者イスラエル・ブレクマンは1969年、非特異的なストレス抵抗力を高める作用と強壮作用を根拠に、高麗人参を最初にアダプトゲンとして位置づけたとされています。ブレクマンはその後、エゾウコギ(シベリア人参)など他の植物にも研究対象を広げていきましたが、出発点にあったのは高麗人参でした。つまり「アダプトゲン」という言葉が指す性質のモデルケースとして扱われてきたのが、日本でも古くから馴染みのある高麗人参だったということです。

何が入っているのか — ジンセノサイドという成分

高麗人参の薬理作用の中心とされているのが、ジンセノサイドと呼ばれるサポニン配糖体の一群です。高麗人参にはこれまでに数十種類のジンセノサイドが同定されており、種類によって作用の方向性が異なる(興奮的に働くものと鎮静的に働くものがある)という報告があります。この成分の多様性が、高麗人参研究の複雑さと、効果を一言で言い切れない理由のひとつになっています。

研究の現在地(1) 疲労との関係

高麗人参と疲労の関係については、複数のメタ分析が発表されています。

医学誌Medicineに2022年に発表されたZhuらのシステマティックレビュー・メタ分析(ランダム化比較試験12件、参加者1,298名)では、疾患に伴う疲労(disease-related fatigue)に対して、高麗人参のサプリメント摂取が統計的に有意な軽減効果を示したと報告されています(標準化平均差0.33、95%信頼区間0.22-0.44)。ただし著者らは、参加者数がなお限定的であり、一部の統合には解釈の幅があることを限界として明記しています。

個別の試験としては、PLOS ONE誌に2013年に発表されたKimらのランダム化二重盲検プラセボ対照試験(90名、4週間、紅参抽出物1日1gまたは2g)では、総合的な疲労スコアの改善は統計的有意差に届かなかった一方(P=0.068)、精神的疲労のスコアは両用量群で有意に改善したと報告されています(P<0.01)。全体としての疲労軽減より先に、精神的な疲労感の軽減が見えてくるという結果です。

研究の現在地(2) 認知機能との関係

認知機能への効果については、研究間で結果が割れているのが実情です。

コクランライブラリーに2010年に発表されたGengらのシステマティックレビューでは、健康な人における高麗人参の認知機能向上効果について「説得力のある証拠は確認できなかった」とされ、認知症患者における有効性についても「質の高い証拠はない」と結論づけられています。一方で、認知・行動・生活の質(QOL)にいくらかの好ましい傾向が見られた試験もあり、著者らは「摂取を続けるべきか中止すべきかを推奨できる段階ではない」としています。

より新しい研究としては、Phytotherapy Research誌に2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタ分析があり、記憶に関する指標で統計的に有意な改善が報告されています(標準化平均差0.19、95%信頼区間0.02-0.36)。特に高用量群でその傾向が強かったとされていますが(標準化平均差0.33)、効果量自体は小さく、研究デザインや用量のばらつきも大きいため、断定的な結論には至っていません。

主要研究の一覧

研究テーマ出典対象規模主な結果主な限界
疲労(疾患関連)Zhu et al., 2022, MedicineRCT 12件、1,298名疲労軽減に統計的有意差(SMD 0.33)サンプルサイズが限定的
疲労(健康な成人)Kim et al., 2013, PLOS ONERCT 1件、90名・4週間精神的疲労は有意に改善、総合スコアは有意差なし単一試験、短期間
認知機能Geng et al., 2010, Cochrane LibraryRCT 9件説得力のある証拠は確認できず試験間の異質性が大きい
認知機能(記憶)2024年, Phytotherapy Researchメタ分析記憶指標に有意差(SMD 0.19)、高用量でより明確効果量が小さい、用量・デザインのばらつき

免疫機能への影響をめぐる報告

Journal of Ginseng Research誌に2020年に発表されたRatanらのレビューでは、高麗人参がマクロファージ・樹状細胞・NK細胞の活性化や、T細胞・B細胞の応答促進など、自然免疫・獲得免疫の両方に関わる複数の作用を持つことを示す研究が紹介されています。同レビューは、高麗人参を免疫調節剤として有望な候補と位置づける一方、ヒトの免疫系への影響についてはさらなる研究資源の投入が必要だと結論づけており、免疫への効果を断定できる段階ではありません。

日本での扱い — 非医薬品リストという位置づけ

ここは、アシュワガンダの研究を読むで解説したケースとは対照的な点です。

日本では、厚生労働省が「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(いわゆる非医薬品リスト)を公表しています。同リストの植物由来物一覧には、次の記載があります。

名称他名等部位等
オタネニンジンコウライニンジン/チョウセンニンジン果実・根・根茎・葉

つまりオタネニンジン(高麗人参)は、果実・根・根茎・葉のいずれの部位も、医薬品的な効能効果(「疲労が回復する」「免疫力が上がる」といった標榜)をしない限り、食品として製造・販売することができます。これは、植物体全体が「専ら医薬品」リストに収載され、食品としての流通が認められていないアシュワガンダとは正反対の扱いです。同じ「アダプトゲン」という文脈で語られる成分でも、日本の食薬区分上の位置づけはまったく異なるという点は、押さえておく価値があります。

ただし注意が必要なのは、「非医薬品リストに載っている=何を謳っても良い」という意味ではないことです。「疲労回復」「滋養強壮」といった医薬品的な効能効果を明示的に標榜すれば、無許可医薬品の広告として薬機法上の問題になり得ます。実際、高麗人参を使った製品には歴史的に「強壮剤」的な訴求を伴うものが多く、食品としての適法な販売と、医薬品的な効能効果の標榜との境界線が曖昧になりやすい成分でもあります。パッケージや広告表現に「効く」「治る」といった断定的な言葉が使われている製品は、その時点で慎重に見る姿勢が必要です。

紅参と白参 — 何が違うのか

市販されている高麗人参製品には「紅参(こうじん)」「白参(はくさん)」という表記がよく見られます。これは製法の違いによる分類です。

紅参は、収穫した生の人参(水参)を皮ごと蒸気で蒸したうえで、水分量が14%以下になるまで乾燥させたものです。蒸す工程を経ることで赤褐色に変化し、この加工の過程でジンセノサイドの含有量が変化するとされ、比較的高級な位置づけで扱われることが多い製法です。一方、白参は人参の皮をむき、天日や熱風で水分量12%以下まで乾燥させたもので、蒸す工程を経ない分、紅参より保存性は劣るとされています。研究で使われる抽出物も、紅参由来か白参由来かで成分プロファイルが異なる可能性があるため、論文を読む際にはどちらの製法の抽出物が使われた試験かを区別して見る必要があります。

安全性をめぐる論点

高麗人参は長い食経験を持つ植物ですが、安全性の面でも押さえておくべき点があります。

米国NCCIH(米国立補完統合衛生センター)は、高麗人参の副作用として最も一般的なものは不眠であると案内しています。まれな副作用として、重度の発疹・肝障害・重度のアレルギー反応が報告されており、自己免疫疾患を悪化させる可能性や、血液凝固に影響する可能性も指摘されています。ワルファリンなど抗凝固薬との相互作用については、研究によって結果が一致しておらず、相互作用を示した症例報告がある一方、影響が確認されなかった試験もあるとされています。服薬中の方は、自己判断で摂取を始める前に医師・薬剤師に確認することが推奨されています。

高麗人参にはカフェインは含まれていません。この点は、コーヒーやエナジードリンクの代わりを探す文脈で語られることがある理由のひとつです。ただし、カフェインを含まないことと、就寝前に摂取して問題がないことは同じではありません。前述のとおり不眠が代表的な副作用として報告されているため、夜遅い時間の摂取については慎重に考えるべきです。

「代わりの一杯」としての高麗人参

海外・国内を問わず、高麗人参は茶やドリンクの形で「お酒に代わる一杯」の選択肢として語られることがあります。カフェインを含まないという特性上、コーヒーの延長ではなく、夜の時間帯の飲み物として位置づけられやすいのも事実です。ただし、この記事で見てきたとおり、疲労軽減については比較的研究の蓄積がある一方、認知機能への効果は研究間で結果が分かれており、「飲めば元気になる」という単純な図式で語れるものではありません。同じアダプトゲンの文脈で語られるロディオラも、疲労への効果を示した試験と示さなかった試験が混在するという似た状況にあり、成分ごとに研究の現在地を確認する姿勢が欠かせません。ノンアルコールの選択肢全体を幅広く比較したい場合は、大人のノンアル完全ガイドや、ソバーキュリアスとは?もあわせてご覧ください。

よくある質問

高麗人参は日本で合法に買えますか?

はい。オタネニンジン(高麗人参)は、厚生労働省の非医薬品リストに果実・根・根茎・葉のいずれも収載されており、医薬品的な効能効果を標ぼうしない範囲で食品として製造・販売することができます。植物体全体が「専ら医薬品」に区分され食品として流通できないアシュワガンダとは、日本での扱いが異なります。

高麗人参は本当に疲労回復に効果がありますか?

「効果がある」と断定できる段階ではありませんが、複数のメタ分析で疲労軽減に統計的に有意な結果が報告されています。ただし研究規模は限定的で、精神的な疲労感の改善が総合的な疲労スコアの改善より先に見える傾向があるなど、慎重に読む必要がある結果です。

高麗人参は記憶力や集中力を高めますか?

研究結果は割れています。2010年のコクランレビューでは健康な人での認知機能向上について説得力のある証拠がないとされた一方、より新しいメタ分析では記憶指標に小さな有意差が報告されています。断定的な効果を期待すべきではありません。

紅参と白参、どちらを選べば良いですか?

どちらが優れているかを一律に断定できる十分な比較研究はありません。紅参は蒸して乾燥させる製法で保存性が高く、白参は皮をむいて乾燥させたものです。製法によって成分プロファイルが異なる可能性があるため、目的や好みに応じて選ぶのが実情に近い考え方です。

服薬中でも高麗人参を摂取できますか?

自己判断での摂取開始は避けるべきです。抗凝固薬(ワルファリンなど)との相互作用については研究結果が一致しておらず、自己免疫疾患がある方や血液の凝固に関わる薬を服用中の方は、事前に医師・薬剤師に相談することが推奨されています。

まとめ

高麗人参(オタネニンジン)は、アダプトゲンという概念が体系化される出発点にあった植物のひとつであり、「滋養強壮の生薬」という古くからのイメージと、「アダプトゲン」という比較的新しい国際的な語彙は、実は同じ植物を指しています。疲労軽減については複数のメタ分析が統計的に有意な結果を報告している一方、認知機能への効果は研究間で一致しておらず、「効く」と単純化できる段階ではありません。日本では非医薬品リストに収載され食品として販売できる点でアシュワガンダとは扱いが異なりますが、効能効果の標榜には引き続き注意が必要です。カフェインを含まない「代わりの一杯」の選択肢として関心を持つ場合も、研究の現在地と安全性の両方を正確に押さえたうえで検討することをおすすめします。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。高麗人参の摂取を推奨するものではなく、研究の現在地と日本国内での法的な位置づけを正確に伝えることを目的としています。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、使用の可否について必ず医師にご相談ください。20歳未満の方への使用は推奨していません。