ヤマブシタケ(学名 Hericium erinaceus、英語名ライオンズメイン)は、白く長い針状の突起を持つ食用キノコで、認知機能への関わりが研究されてきた「機能性キノコ」の代表格です。近年は「マッシュルームコーヒー」「アダプトラテ」という名称で、コーヒーの代わりに飲む新しいドリンクのカテゴリーが国内でも立ち上がりつつあります。この記事では、ヤマブシタケに関するヒト臨床試験が実際に何を示しているのか、日本の食薬区分上どう扱われているのか、そして国内で広がり始めているマッシュルームコーヒーというトレンドの実態を、基礎研究とヒトでの効果を混同しないよう整理して解説します。

この記事の要点

  • ヤマブシタケには神経成長因子(NGF)の合成を促すとされる成分(ヘリセノン・エリナシン)が含まれますが、これは主に培養細胞での基礎研究の知見であり、経口摂取後に脳内で同様の作用が起きるかは未確認です
  • ヒトを対象にした小規模なランダム化比較試験はいくつかありますが、結果は一貫していません。ある試験では処理速度が改善した一方で単語の記憶課題は逆に低下するなど、良い面だけが出ているわけではありません
  • 日本では、ヤマブシタケ(子実体)は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として販売できます(2026年7月時点で確認)
  • マッシュルームコーヒー(アダプトラテ)は、複数の機能性キノコとアダプトゲン成分をコーヒーに配合した新しいドリンクカテゴリーで、国内でも取り扱うブランドが出てきています

ヤマブシタケ(ライオンズメイン)とは何か

ヤマブシタケは、ブナなどの広葉樹の枯れ木や倒木に発生するキノコで、白い針状の突起が垂れ下がった独特の見た目から、英語では「ライオンのたてがみ(Lion's Mane)」と呼ばれています。日本でも古くから食用にされてきましたが、天然での採取は珍しく、現在流通しているものの多くは菌床栽培によるものです。中華料理では高級食材として扱われることもあります。

味や食感にクセが少なく扱いやすい一方で、ここ十数年、海外の栄養学・神経科学分野で注目を集めてきたのは、ヤマブシタケの子実体(キノコの本体部分)や菌糸体に含まれる特有の化合物です。

なぜ「脳に良い」と言われるのか — ヘリセノンとエリナシン、NGFという仕組み

ヤマブシタケが注目される理由の中心にあるのが、神経成長因子(NGF)という物質です。NGFは神経細胞の分化や生存を促す働きを持ち、特にアルツハイマー型認知症で機能が低下するとされるコリン作動性神経に作用することから、認知症研究の対象として関心を集めてきました。ただしNGFそのものはタンパク質であり、脳血管関門(血液脳関門)を通過しにくいため、薬として直接使うのは難しいとされています。そこで、経口摂取でNGFの合成を促せる低分子化合物の探索が行われてきました。

ヤマブシタケの子実体からは「ヘリセノン」、菌糸体からは「エリナシン」という化合物群が単離されており、いずれも培養したアストロサイト(星状膠細胞)においてNGFの合成を促進することが報告されています。この基礎研究の知見が、ヤマブシタケと認知機能を結びつける理論的な根拠になっています。

ただし、ここで区別しておくべき点があります。これらの報告の多くは培養細胞を使った実験室レベルの研究であり、ヒトが経口摂取した場合にヘリセノンやエリナシンが実際に血液脳関門を越えて脳内でNGF合成を促すかどうかは、確認されていません。「NGFを増やす成分が含まれる」という事実と、「食べれば脳に効く」という主張の間には、まだ埋まっていない研究の空白があります。アダプトゲンとヌートロピック(認知機能を高めるとされる成分)は語られ方が似ていますが、両者の違いについてはアダプトゲンとヌートロピックの違いで整理しています。

ヒトでの研究は何を示しているか

基礎研究の仮説を踏まえたうえで、実際にヒトを対象にした試験がどこまで進んでいるかを見ていきます。

軽度認知障害の高齢者を対象にした試験(2009年)

もっとも引用されることが多いのが、Moriらが2009年に学術誌Phytotherapy Researchに発表した二重盲検プラセボ対照試験です。50〜80歳で軽度認知障害と診断された日本人30名(最終的に29名を解析)を、ヤマブシタケ群とプラセボ群に分け、乾燥粉末96%を含む錠剤(1日あたり乾燥粉末換算で約3g相当)を16週間摂取してもらい、長谷川式認知症スケール(HDS-R)をもとにした認知機能スケールで評価しました。結果、摂取8週・12週・16週の時点でヤマブシタケ群のスコアがプラセボ群より有意に高くなりました。

一方で見過ごせないのが、摂取終了後の追跡結果です。16週の摂取を終えてから4週間後に再評価したところ、ヤマブシタケ群のスコアは有意に低下しました。つまりこの試験の著者ら自身が、効果は摂取を続けている間に限られ、継続摂取が必要であると結論づけています。また、この試験はキノコ栽培企業(北斗株式会社)の研究者が主導しており、対象者数も29名と小規模である点は、結果を読むうえで踏まえておく必要があります。

健康な若年成人を対象にした試験(2023年・2025年)

高齢者や軽度認知障害のある人ではなく、健康な若年成人を対象にした試験では、結果はより入り組んでいます。

Dochertyらが2023年に学術誌Nutrientsに発表したパイロット試験(18〜45歳の健康な成人41〜43名)では、1.8g(600mg×3カプセル)を単回摂取した60分後、ストループ課題(色と文字の一致・不一致を判断する注意機能のテスト)の反応時間が有意に短縮しました。しかし同じ試験で、単語の即時記憶課題の正答数はプラセボ群よりむしろ低下しており(統計的に有意)、28日間の継続摂取後には主観的なストレススコアがわずかに改善する傾向(有意水準にはわずかに届かず)が見られたにとどまりました。著者らは、サンプルサイズの小ささや、使用した認知課題が微細な効果を検出するには易しすぎた可能性を限界として挙げています。

Surendranらが2025年に学術誌Frontiers in Nutritionに発表した試験(18〜35歳の健康な成人18名、標準化抽出物3gを単回摂取するクロスオーバー試験)でも、認知機能と気分の複合指標には有意差が見られませんでした。個別の指標では、摂取90分後にペグボード課題(手先の運動能力を測るテスト)の成績が改善した一方、注意の切り替えを要するフランカー課題ではむしろ悪化する傾向が見られています。

研究の一覧

研究年・掲載誌対象主な結果主な限界
Mori et al.2009年・Phytotherapy Research50〜80歳・軽度認知障害29名・16週間認知機能スケールが有意に改善、ただし摂取中止4週後に有意低下小規模、キノコ栽培企業の研究者が主導
Docherty et al.2023年・Nutrients18〜45歳の健康な成人41〜43名・単回+28日間ストループ課題は改善、単語記憶課題はむしろ低下、ストレスは改善傾向(有意未達)小規模、認知課題の難度不足
Surendran et al.2025年・Frontiers in Nutrition18〜35歳の健康な成人18名・単回摂取複合指標は有意差なし、ペグボード課題は改善、フランカー課題は悪化傾向小規模、単回投与・90分後のみの評価

この3件を並べて見えてくるのは、「効果がある」と単純に言い切れる段階ではないという実態です。改善が見られた指標がある一方で、同じ試験の中で悪化した指標や有意差が出なかった指標も報告されており、対象者の年齢や健康状態によっても結果が異なります。基礎研究レベルのNGF合成促進という仮説と、ヒトでの一貫した認知機能改善という結果の間には、まだ距離があると捉えるのが実情に近いでしょう。

日本でヤマブシタケは合法に売られているのか — 食薬区分の位置づけ

日本では、ある原材料を食品として販売できるかどうかを、厚生労働省が定める食薬区分という仕組みで判断しています。厚生労働省が公開している「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(別添3)の植物由来物等一覧には、次の記載があります。

名称他名等部位等
ヤマブシタケ(記載なし)子実体

このリストに収載されているということは、ヤマブシタケの子実体は、医薬品的な効能効果(「認知症が治る」「脳の機能が回復する」といった表現)を標ぼうしない限り、食品・サプリメントとして製造・販売できる原材料として扱われている、ということです。同じリストには、霊芝(レイシ)やマイタケ、ツリガネタケ(メシマコブ)といった他の機能性キノコも子実体を対象に収載されています。霊芝についての規制や研究の現在地は霊芝(レイシ)ガイドで解説しています。

一方で、アシュワガンダのように、成分本質(原材料)が「専ら医薬品として使用される」リスト(別添2)に収載され、食品としての流通自体が認められていない植物由来成分もあります。アダプトゲンと呼ばれる成分は、日本国内での合法性が成分ごとに大きく異なる点に注意が必要です。この違いの全体像はアダプトゲンとは?種類と研究の現在地、日本国内での合法性の考え方は日本におけるアダプトゲンの合法性で整理しています。

なお、非医薬品リストに収載されているからといって、「効能効果が確認された」ことを意味するわけではありません。あくまで医薬品的な効能効果を標ぼうしなければ食品として流通できる、という区分上の扱いであり、前章で見た研究の限界とは別の話です。この二つを混同しないことが重要です。

マッシュルームコーヒー・アダプトラテとは何か — 国内で広がる新しいカテゴリー

海外では、コーヒーに機能性キノコの抽出物を配合した「マッシュルームコーヒー」というカテゴリーが数年前から広がっており、市場調査会社The Business Research Companyのレポートでは、この市場が2025年に約28億9,000万米ドル、2026年には約30億8,000万米ドル(年平均成長率6.5%)に達すると予測されています。

日本でも、こうした製品を扱うブランドが登場しています。たとえば「アダプトラテ」は、ヤマブシタケ・トウチュウカソウ・霊芝・チャーガ・アガリクスの5種類の機能性キノコに加え、キバナオウギやマカなど14種類のアダプトゲン・ヌートロピック成分をコーヒーやカカオベースの粉末に配合した商品を展開しています。また「COFFEE CLUB」も、ヤマブシタケや霊芝、トウチュウカソウなどのキノコ粉末をブレンドしたインスタントコーヒーを国内工場で製造・販売しています。

これらの製品が具体的にどのような効果を謳っているかは商品ごとに異なりますが、本記事で見てきたとおり、配合されているヤマブシタケ自体の認知機能への効果は、まだ研究途上の段階にあります。「機能性キノコが入っているから効果が期待できる」と単純に受け取るのではなく、配合量や研究の現在地を踏まえて選ぶ視点が大切です。

マッシュルームコーヒーの主な形態

特徴一般的なコーヒーマッシュルームコーヒー・アダプトラテ系
主原料コーヒー豆コーヒー豆+機能性キノコ抽出物(数種類をブレンド)
カフェイン通常量商品により通常量〜デカフェ(低カフェイン)まで幅がある
価格帯の目安数百円/杯程度1杯あたり200円台〜(定期購入価格)

カフェイン断ちとの接続 — 朝の一杯を置き換えるという選択

マッシュルームコーヒーがコーヒー代替として語られる理由の一つに、デカフェ・低カフェインの選択肢が多いことがあります。カフェインの摂取量や摂取タイミングを見直したい人にとって、味や飲む習慣そのものは変えずにカフェイン量だけを減らせる、という選び方は現実的な一歩になり得ます。カフェイン断ちを段階的に進める方法についてはカフェイン断ちの始め方で紹介しています。

また、「夜のお酒をやめる・減らす」ことと「朝のカフェインとの付き合い方を見直す」ことは、直接の因果関係があるわけではありませんが、生活習慣全体を見直すタイミングが重なる人は少なくありません。ソバーキュリアスの文脈で夜の一杯を見直す人が、同時に日中の飲み物の選び方にも意識を向けるのは自然な流れといえるでしょう。

安全性と注意点

ヤマブシタケは長く食用にされてきたキノコであり、Moriらの2009年の試験では血液検査上、明確な有害事象は確認されていません。試験中に一部の参加者(ヤマブシタケ群・プラセボ群の双方)が軽度の胃部不快感や下痢を報告していますが、いずれも治療を要しないレベルのものでした。

一方で、非営利団体Alzheimer's Drug Discovery Foundation(ADDF)によるCognitive Vitalityのレビューでは、消化器症状、悪心、発疹などの報告に加え、まれに急性呼吸不全に至った症例報告があることも紹介されています。キノコ類・カビ類にアレルギーがある人は注意が必要です。また、抽出方法や配合量が製品ごとに標準化されていないため、サプリメントやドリンクによって実際の含有量にばらつきがある点も、ADDFのレビューで指摘されています。持病がある方、薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方は、摂取前に医師に相談することをおすすめします。

よくある質問

ヤマブシタケ(ライオンズメイン)を食べれば記憶力が良くなりますか?

「良くなる」と断定できる段階ではありません。小規模な臨床試験のなかには認知機能の一部の指標が改善したという報告がある一方で、同じ試験の中で別の指標(単語記憶課題など)がむしろ低下したという報告もあります。研究が進行中の成分として理解するのが適切です。

日本でヤマブシタケ入りのサプリメントやドリンクを買うのは合法ですか?

はい。ヤマブシタケの子実体は、厚生労働省の「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品・サプリメントとして販売することができます。

マッシュルームコーヒーはコーヒーよりカフェインが少ないのですか?

製品によって異なります。通常のコーヒーと同程度のカフェインを含む商品もあれば、デカフェをうたう商品もあります。購入前にパッケージや商品ページでカフェイン量の記載を確認することをおすすめします。

妊娠中や持病がある場合でも摂取できますか?

妊娠中・授乳中の方、持病がある方、薬を服用中の方は、摂取前に医師に相談することをおすすめします。抽出方法や配合量が製品ごとに標準化されていないため、含有成分量が保証されているわけではない点にも注意が必要です。

アダプトゲンとヌートロピックは同じものですか?

厳密には異なる言葉です。両者の定義の違いや語られ方の違いは、本記事内の解説記事で詳しく取り上げています。

まとめ

ヤマブシタケ(ライオンズメイン)は、ヘリセノン・エリナシンという成分がNGF合成を促すという基礎研究をきっかけに、認知機能との関わりが注目されてきたキノコです。ただしヒトを対象にした臨床試験は数が少なく規模も小さいうえ、改善した指標と悪化・変化なしの指標が同じ試験内に混在するなど、結果は一貫していません。日本では子実体が非医薬品リストに収載されており、効能効果を標ぼうしない範囲で食品として合法に流通していますが、これは研究で効果が確認されたことを意味するものではありません。国内でも広がりつつあるマッシュルームコーヒー・アダプトラテは、コーヒーとの付き合い方を見直す選択肢の一つとして興味深いカテゴリーですが、配合されている個々の成分の研究の現在地を正確に知ったうえで選ぶことが大切です。

参考文献

免責事項

本記事は医療アドバイスではありません。ヤマブシタケおよびマッシュルームコーヒー関連製品の摂取を推奨または否定するものではなく、現時点で確認できる研究結果と日本国内の規制上の位置づけを正確に伝えることを目的としています。持病がある方、服薬中・通院中の方、妊娠中・授乳中の方は、摂取の可否について必ず医師にご相談ください。20歳未満の方への使用は推奨していません。